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Vol.35 基金のうち消費税増収分544億円は診療報酬にまわすべき

医療ガバナンス学会 (2014年2月11日 06:00)


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井上法律事務所 弁護士
井上 清成
2014年2月11日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


1. 消費税と診療報酬の狭間
医療者は、消費税法における社会保険診療を非課税取引とする施策と、国民皆保険制度における診療報酬を公定価格とする施策との狭間で、一般の事業者には見 られない著しい不利益が課せられており、この状態が放置されている。つまり、医療者は、社会保険診療が非課税取引であるために仕入税額控除ができず、か つ、診療報酬の額が公定されているため、患者への転嫁によってその負担を回避することができない結果、仕入税額相当額の負担が滞留し、これを強制されると いう極めて不利益な状況に置かれていると言ってよい。
そこで、2010年に、この不利益な状況が憲法に違反しているとして、ある医療法人が神戸地方裁判所に国家賠償請求などの訴訟を提起した。その訴訟は、社 会保険診療等を行う民間病院の開設者(医療法人)が、健康保険法等の法律により診療報酬が公定価格とされているため、社会保険診療等について消費税額相当 額を価格に上乗せすることが認められていないにもかかわらず、消費税法が非課税取引である社会保険診療等の仕入れに係る消費税額について仕入税額控除を認 めなかった結果、同消費税額相当額を患者に転嫁することもできず、強制的に負担させられる仕組みとなっていることは、憲法14条1項(法の下の平等)、憲 法22条1項(職業遂行の自由)、憲法29条1項(財産権の保障)及び憲法84条(課税要件法定主義)に違反していると主張するものである。やむにやまれ ぬ訴訟の提起であったと言えよう。

2. 代替手段としての診療報酬改定
2012年11月に神戸地裁の判決があり、結果は、十分に憲法論を検討することもなく、請求棄却(原告敗訴)であった。本来、もっと十分に憲法論が検討されてしかるべきところであり、再び同種の訴訟が提起されることが望まれるところであろう。
とは言っても、判決では最低限の判示として、医療者の不利益な状況の合法化のためには診療報酬の適切な改定が必要との立場を打ち出した。この判示部分をいくつか抜粋する。
「消費税法の制定当初から、消費税の導入による医療法人等の仕入れ価格の上昇に対する手当としては、健康保険法等における診療報酬の適切な改定によって対 応することとされていたことが認められるのであるから、消費税法が想定する仕入税額相当額の負担を転嫁する方法に代替する手段は、法制度上、確保されてい るものと評価できる。」
「転嫁方法の区別に係る代替手段としては、法制度上、診療報酬改定が想定されているのであるから、少なくとも、これがその仕組みにおいて代替手段として機 能し得るものである限りにおいては、本件仕組み自体が憲法14条1項(筆者注・法の下の平等のこと)に違反するとはいえないというべきである。」
「医療法人等の仕入税額相当額の負担に関する制度の整合性の見地に照らし、上記改定(筆者注・診療報酬改定のこと)が転嫁方法の区別を解消するための代替 手段として想定されていることに鑑みて、医療法人等が負担する仕入税額相当額の適正な転嫁という点に配慮した診療報酬改定をすべき義務を負うものと解する のが相当であり、このような配慮が適切に行われていない場合には、当該診療報酬改定は、裁量権を逸脱又は濫用するものと評価することができる。」

3. 今回の診療報酬マイナス改定
今回の診療報酬改定においては、この神戸地裁判決の影響もあり、消費税率引上げに伴う医療機関等の課税仕入れにかかるコスト増への対応分(1.36%と算 定)を明示しつつ、改定率が議論された。その結果、診療報酬本体こそ0.1%の微増であったが、全体では1.26%のマイナス改定となっている。もしも他 に消費税増収分があるならば、本来は、もっと本体を増加したり、全体のマイナスを縮めたいところであろう。また、実際の消費税補填分(1.36%、本体で 0.63%)の配分がすべて、具体的に初診料・再診料・調剤基本料の引上げにつながらなければならない。しかし、本当にすべて配分されるのかどうかは、危 ういところも存在しがちである。
ところが、このような不十分で危うい改定・配分の状況下にありながら、別途に新たな財政支援制度(基金)が創設されて、公費で904億円もの投入がなされるらしい。

4. 消費税増収分544億円も投じた基金
名称は、「医療・介護サービスの提供体制改革のための新たな財政支援制度」とのことである。「各都道府県に消費税増収分を財源として活用した基金をつく り、各都道府県が作成した整備計画に基づき事業実施」をするものらしい。しかも、「この仕組みについては、平成26年通常国会へ提出予定の医療・介護の法 改正の中で、・・・法律上の根拠を設け」て恒久化するつもりのようである。「この制度はまず医療を対象として平成26年度より実施」するとはいえども、医 療者にとって医業の自由を真に有効適切に行使するために活用できるとは限らない。もちろん、平成27年度以降の有効適切性は、なおさら保証の限りでは無さ そうに思う。
その基金904億円に、消費税増収活用分と称して544億円を投入するらしい。

5. せめて544億円は本来の診療報酬に投入を
神戸地裁の判示においてすら、国は「医療法人等が負担する仕入税額相当額の適正な転嫁という点に配慮した診療報酬改定をすべき義務を負う」ものとされてい る。しかも、それは代替手段にすぎず、本来のあり方ではない。つまり、1.36%分の対応をしたからといって、それで足りるというものでもないと思う。代 替手段にすぎない以上、それこそ、より十分な対応をしなければならない。
そうすると、マイナス改定としておきながら、消費税増収分544億円を基金に投入するのは均衡を失する。したがって、基金904億円のうち、せめて消費税増収分544億円については、本来の診療報酬にまわすべきであると思う。

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