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Vol.34 消費者事故調と医療事故調

医療ガバナンス学会 (2014年2月10日 06:00)


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秋田労災病院内科
NPO法人医療制度研究会理事長
中澤 堅次
2014年2月10日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


消費者事故調のニュースがNHKニュースで報道されていた。第三者機関が介入調査を行い報告が出された。その結果は、当事者の間で十分調査が行われている から、これ以上調査しても意味がないというものだった。消費者事故調査も医療事故調査もシステム構成が似ていて、両方とも事故の調査を、大学などの専門家 が複数、事件ごとに召集され、調査結果が公表される。目的が責任追及ではなく、再発防止と銘打っているところも似ている。調査を要請する側の目的は責任追 及だから、NHKも被害者も調査の結果に満足しない。問題は専門調査担当者と事務スタッフの不足とし、もっと調査員も事務員も増やせ、権限を強化せよとい う論調になる。責任追及の願望は、事故に関わった技術者が、罰や処分を受けて消えるまで行われ、力を入れる方向性は監視機能強化であり、国がやれば監視国 家が理想像である。憎しみと仇討の感覚は人の感情だからどうしようもないが、業務を担当する現場の改善には力はそそがれない。医療事故調も悩みは同じであ る。

人員不足は医療事故調のモデル事業で証明済だが、調査担当者が増えれば事故が減るわけではない。問題は調査システムそのものにあり、責任追及と改善とい う、相反する二つの目的を一つの公的調査に持たせたことであり、第三者機関設置が事故の問題解決に適していないということである。

「誤りに学ぶ改善」は、人命がかかる事故の性格上緊迫度は高く、適切に対策が行われれば効果は大きい。技術革新の大きな動機となるとはまちがいない。一方 の「責任追及」は、古代から事故の問題解決手段として用いられているが、時の権力者が、罪を犯した民を罰することで、同じ罪を意図的に犯すことを戒める目 的がある。為政者の意向により事故は定義され、為政者の権威で正しさが決まるが、権威は流動性を嫌うので、冤罪は必然で、個人に及ぶダメージは大きいが、 事故が起きた現状の変更はほとんど行われない。

近代になって、被害者の人権に対する責任が問われるようになり、罪の確定には、権威による正しさではなく、双方が納得する科学的な根拠が重視されるように なった。しかし、専門性が高い技術分野における正しさは、科学の進歩により常に流動的であり、年代が異なれば同一基準は適用できず、個々の事情が深くかか わる事故に、普遍的なルールを適用することも難しい。因果関係がはっきりしている事故を除けば、どんなに人材をつぎ込んでも、費用をかけてもこの溝は埋ま らない。

現行の事故調査制度において、調査を担当するのは第三者機関で、そのあり方にはいくつかの条件が付けられている。透明性、公平性、中立性といわれるが、重 要なのは専門性と中立性である。医療も消費の現場でも、調査には専門性の裏付けが必要だが、専門分野における常識は、科学的思考と技術により常に変化して いる。改善に必要な科学的思考は流動的であることが前提であり、専門第三者機関といえども、流動性なしに存在することは意味がない。責任追及のために必要 な法的正しさとは正反対の性格である。

第三者機関に中立性を求めることは難しい。対立する両者の考えを反映する第三者を入れたのでは結論が出ない。結局権力に近いところで勝手に担ぎ手を任命 し、錦の御旗を織るようなものである。専門性の高い技術の分野における事故調において、第三者機関が誤りなく稼動するためには、法的正しさを、科学技術の 変化に迅速に対応させなければならない。そして対応した場合は、それ以前の対応が否定される性質を持っている。朝令暮改に迅速に対応する巨大な民間第三者 組織などはあり得ない存在である。

第三者機関が意味を持つとすれば、院内調査などからの要請で、絞られた論点について、その時点での常識的な見解を示す問題解決の支援であり、責任問題の決着はあくまで両者が話し合って決めるものである。

責任問題に絡む専門第三者機関調査は、科学技術としての医療をゆがめ、国民の死に関わるものは、たとえ救命が目的であっても、常に基準のない責任追及の監 視に曝される。独裁国家でもない民主的国家日本にはありえない仕組みである。法案の通るまで相手は厚労省だったが、通った後の批判は、不透明な第三者機関 の構成員を決める、医師団体の上層部に向けられる。統一基準もなく、調査員の資格もはっきりせず、基準も資格も見直されることも無い専門団体の調査はどの ようなものになるのか、かたずをのんで見守りたいと思う。

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