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Vol.38 LVMH子どもアート・メゾンと星槎グループ

医療ガバナンス学会 (2014年2月14日 06:00)


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この記事は相馬市長立谷秀清メールマガジン 2014/01/28号 No.286 より転載です。

福島県相馬市長
立谷 秀清
2014年2月14日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


震災から間もない3月末に、ボランティアとして相馬市に来てくれた宮澤保夫さんとはすぐに意気投合した。彼は、「自分は教育関係者だから、被災した子ども たちの為に出来る事があったら何でもするから」と言ってくれた。私と同じくらいの歳格好だが、ジーンズをはいて、にこにこ笑ってコーヒーを飲む表情に、私 の気持ちも思わず和んだ。言葉だけでも有難いと思った。

あの頃は実に多くの方々が相馬市に支援を申し出てくれたが、受け入れに当たっては継続的に必要な課題と、取りあえず急場をしのぐ為の援助とに分けて考えな ければならなかった。今すぐに取り掛からなければならない問題で、しかも長く続けなければならない課題として、子どもたちのPTSD対策を考えていたの で、早速その事を宮澤さんに相談したところ、「自分のグループには臨床心理士などの心理カウンセラーがいっぱいいるから取りあえず3人ほど派遣しましょ う」と言ってくれた。私は彼がすぐに応えてくれたのでびっくりした。こう言っては失礼だが、風采からはとてもそんな力のある人とは思えず、私は気の合う相 談相手としてお付き合いをしていたからである。

ほぼ3週間後には宮澤さんのグループからの3人と、相馬市の募集に応じてくれた2人、それに高校時代の友人が副所長を務める東京都健康長寿医療センターか らの保健師さんの、合計6人のチームが急ごしらえで出来上がった。4月18日から再開された被災地の小学校では、予想に違えずPTSDが深刻だった。連日 の対策会議では、その日その日の学校の様子を教育長からレポートしてもらったが、例えば「海」と聞くと子どもたちが泣き出すなどの症状が報告されていたの で、活動開始は急務だった。4月20日、磯部小学校と中村第二小学校に最初の派遣をしたことを皮切りに、市内の小中学校に心のケアの輪を広げていった。

PTSD対策は継続することが重要なので、「ちょっとボランティアを」という支援ではむしろ逆効果になることもある。子どもたちとの信頼関係を築く為には 短期間では難しいのである。また6人のチームがしっかり連携するためにも、カルテを作って問題点を共有する方策も用いた。学校との連携や担任の先生との協 働も勿論である。その後、福島医大・精神科の丹羽真一教授(当時)からの支援もいただき、6月にはNPO「相馬フォロアーチーム」として法人格を取得し た。継続性を確保することや、いただいた資金の管理などの為には必要な措置だった。日本中から多くの支援をいただいて来たが、もうすぐ3年になろうとする 今日まで継続して支援していただいている団体には、毎年チャリティショーでの益金を全額寄付して下さる「日本香堂」や、1400人の生徒が毎月100円ず つカンパして送金してくれる大阪市の「プール学院」などがある。冒頭の宮澤保夫さんは、星槎グループという大学なども傘下に入れる教育集団だということは 後でわかったが、その会長であり、業界では有名な人だと分かる前に、私との友情が出来上がっていた。

23年の9月。ブランド品では世界トップレベルのモエヘネシー・ルイヴィトングループの幹部の方々とお会いする機会があった。「グループとして東日本大震 災の支援を考えているが、効果的な支援としてはどのようなことが考えられるだろうか?」との質問をいただいたので、私は即座に、「PTSD対策の拠点を 作っていただけないだろうか?」とお願いした。被災した子どもたちへの相馬市の取り組みに共感していただいた同社には、協議の末、フォロアーチームの活動 の拠点、また相馬の子どもたちのアートへの感性を育む為の支援施設となり、さらに子どもたちや相馬の未来のためにお役に立てるようにと、「LVMH子ども アート・メゾン」と題する教育支援施設を作っていただけることになった。

年の瀬も迫った23年12月28日。施設をご寄付いただけるための協定を締結して、いよいよ本格的な設計に入った。設計は、仏国在住の世界的な建築家である坂茂先生が、ボランティアで担当してくださることになった。

詳細な一年間の設計を経て、昨年着工した「LVMH子どもアート・メゾン」は、とても夢のある外観を持つ本体が昨年末に完成し、現在は外構工事中である。 フォロアーチームは既に新しい施設を拠点に活動しているし、スタッフのモチベーションも高くなった。これからは、ベネズエラ発の音楽教育活動「エル・シス テマ」の小演奏会にもお使いいただきたいと考えているし、東京大学の学生さんによる教育支援活動「相馬寺子屋」の活動の場としても活用してもらいたい。

4月の年度初めの前後に、市民会館で落成式を予定しているが、そのときは今日までお世話になった方々を招いて、エル・システマでヴァイオリンを弾き始めた100人の小学生たちをステージに上げて、大演奏会でお祝いをしたいと考えている。

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