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Vol.71 高速道路の渋滞緩和策が日本の医療を救う?

医療ガバナンス学会 (2014年3月19日 06:00)


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現場を疲弊させる「フリーアクセス」に一部制限を

※このコラムはグローバルメディア日本ビジネスプレス(JBpress)に掲載されたものを転載したものです。

http://jbpress.ismedia.jp/

武蔵浦和メディカルセンター
ただともひろ胃腸科肛門科
多田 智裕
2014年3月19日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


診療保険点数の改正は2年に一度行われます。来る4月に行われる点数改正の詳細が、2月12日に厚生労働省より発表されました。
今回の改正の目玉の1つが、主治医機能を評価した「地域包括診療料」です。
これは、月1万5000円(1割負担で1500円、3割負担で4500円)の費用で、すべての薬や病状の管理および血液検査などの代金を含めて24時間365日対応する「主治医機能」を提供するという制度です。
日本では主治医(かかりつけ医)の必要性が長らく指摘されているものの、制度として進んでいません。
その背景には、まず金額の問題があります。同時に、日本の医療は「フリーアクセス」(好きな医療機関を自由に受診できる制度)を維持しているために、主治医機能が実質骨抜きになっていることも問題なのではないかと私は思うのです。

●絶滅の危機に瀕する「主治医」制度
主治医機能を評価する制度は以前もありました。
1996(平成8)年には「老人慢性疾患外来総合診療料(外総診)」という制度がつくられました。月2回の診察で、血液検査や胸部レントゲンなど の検査代金も含めて、患者の全身を診察し、専門外で他医療機関を受診する場合の相談にも応じるといった主治医機能を評価した制度です。1カ月当たりの費用 は1万4700円でした。
よく機能していた主治医制度だったのですが、老人1人当たり年間18万円のコストは高すぎるとの理由で、2002(平成14)年10月に廃止されました。
今回の「地域包括診療料」も、金額はほぼ同じ1万5000円/1カ月ですが、検査代金を含めて「月2回の診察」ではなく「24時間365日対応」 とするため、新規参入者は見込めません。採算が合わないのです。要件も厳しく、おそらく対応できる診療所は、各都道府県あたり10件も存在しないでしょ う。
ですから今回の改訂は、本質的には主治医制度を導入したどころかその逆で、主治医制度はコスト的にほぼ絶滅の危機に立たされていることを示しているのです。そのことを指摘している報道は私の知る限り皆無でした。

●フリーアクセスを認めすぎると主治医が機能しない
それよりも、私が一番問題だと思うのは、いくら主治医の必要性を叫んでも、フリーアクセスを維持している限り、主治医が実質的には機能しないことです。
定期的に月1~2回、内科系の病気で通院している医療機関がある場合、そこの医者が主治医ということになります。何かあれば、その主治医に診ても らって必要な紹介状を作成してもらい、別の専門医療機関などを受診することが望ましいのですが、主治医に相談せずに、「設備が揃っていそうだから」「知り 合いから良い病院と聞いたから」などの理由で、直接他の医療機関を受診する方がかなりの割合で存在します。
このように主治医への相談なく、好きなところでいつでも受診できる自由を認めてしまうと、主治医の意味がなくなります。同時に医療機関の混雑とコストに歯止めがかからなくなっている、というのがいまの状況です。

●高速道路の渋滞緩和策「ランプメータリング」
高速道路を例に考えてみましょう。高速道路を拡大して車線を増やせば渋滞が解消されるかというと、解消されることはないとされています。
なぜならば、高いコストをかけて高速道路を拡大したとしても、高速道路の利便性が高まれば利用者が増えて、結局また渋滞が起こってしまうからです。
医療も同じです。医師を増やす、病院を増やすなどしても、医療の利便性が高まれば、フリーアクセスを認めている以上、医療を利用する人が増えるのは仕方がありません。結局のところ、医療機関の混雑、そして現場の疲弊は解消されないということです。
実は、高速道路の渋滞解消には、「ランプメータリング(Ramp Metering)」と呼ばれる全く別の手法が有効であることが実証されています。
これは、高速道路の渋滞が始まりそうになると、高速道路の侵入路線(ランプ)についている信号機が赤に変わり、車の流入を制御する手法です。
渋滞の時、本来時速80キロで走行できるところが時速25キロの流れになったとします。これでは、本来高速道路を通行可能な車の台数の、実に3割 程度しか通行できていないことになります。そこで、渋滞が発生する前に入り口で高速道路への侵入を制限し、すべての車がおおむね時速80キロメートルで走 ることができるようにコントロールするのです。
このランプメータリングの効果は目覚ましいものがあります。システム導入後に渋滞時の交通量は74%増え、通行平均所要時間は半分になったとも報告されています。

●メリットもデメリットも含めて議論が必要
医療の話に戻ると、診療所の主治医となり得る医師は、10年単位で地元での医療活動を行っています。その活動を通して、近隣の医療機関の機能や得意分野、混雑具合などを含めた様々な情報を把握しています。
かかりつけ患者は、そのように地元の知識が豊富な主治医に紹介状を発行してもらい、紹介状を持参して他の医療機関を受診するように義務づける。つまりフリーアクセスの一部制限を行うのです。
主治医が紹介状発行のコントロールを行えば基幹病院の混雑緩和、ひいては医療資源の有効活用と効率化が見込めるはずです。
ただし、アメリカでランプメータリングの手法は極めて不評だという点も記しておかなければなりません。「車が流れているのに、なぜ入り口で5分以上待たされなければならないのか」という不満の声が大きく、しばしば議会で集中砲火の的となっているそうです。
同様に「主治医を受診して紹介状を発行してもらう手間を、なぜわざわざかけなければならないのか」という不満の声があがるのは必至でしょう。ですから、主治医に紹介状をもらうことを義務づけるのは、政治的には極めて難しい問題だとは思います。
それでも、このフリーアクセスの部分制限は、莫大な予算が必要な医学部新設や新病院建設などと比べるとほとんどコストのかからない手法です。
主治医機能を存続させるために、そして増加する医療費をコントロールするために、メリットを含めてもっと議論がなされるべきではないかと思います。

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