医療ガバナンス学会 (2014年3月28日 06:00)
今回の「健やか親子21」の最終評価・課題分析及び次期国民健康運動の推進に関する研究から大阪府の母乳率は全国都道府県比較5分位別で第2位グループに あることがわかりました。大阪府には全国最多の6施設の赤ちゃんにやさしい病院(BFH)が存在し、大阪府の出生数に占めるBFH出生新生児の割合は約 7%です。5分位別各グループに含まれる自治体でのBFH認定施設の合計数は20-18-13-9-7となり、BFH認定施設の存在が地域の母乳率を改善 に寄与していることが分かります。この検討のもとになった各都道府県別の母乳率の年次推移のデータを是非公開してください。自治体別のデータを多角的な視 点から調べることで得られるものは大きいと考えます。
大阪市こども青年局より公開されたデータでは、大阪市の3ヵ月健診における母乳率は、2000年には36.8%と全国平均を下回っていましたが、2010 年には53.4%とほぼ肩を並べるところまで増加しました。十三市民病院が位置する淀川区は、2000年には3ヵ月健診における母乳率が28.8%と大阪 市24行政区中23位でしたが、十三市民病院において2002年より母乳育児支援への取組みを開始し、2009年にユニセフ/WHOからBFHとして認定 を受け、2012年には3ヵ月健診における母乳率が60.6%と24行政区中4位に上昇しました。十三市民病院での出生数は淀川区の出生数全体の約3分の 1ですが、BFHによる地域の母乳率改善効果は大きいです。母乳率の改善により乳幼児の急性感染症罹患が減少すると推測されますので、急速に母乳率が改善 した淀川区とゆっくり改善しつつある大阪市全体において、対象小児ひとり当たりの乳幼児医療費助成額の変化を比較すれば、母乳率の上昇が小児の医療費の減 少に寄与していることを証明できる可能性があります。各行政区での乳幼児医療費助成額と対象小児人口が合わせて公開されていれば、母乳率の改善が乳幼児の 健康状態の改善に寄与し、医療費助成額を抑制することで行政コストの効率化に繋がることを実証できるかもしれません。
大阪市の2012年の3ヵ月健診時の母乳率は平均56.9%で24行政区の母乳率は48.1%から66.3%の範囲に分布しています。平成20年度の行政 区別平均世帯所得(平成20年住宅土地統計調査;総務省)との間で回帰分析を行ったところ、良好な正の相関を認めました(y = 6.4*10-2 x + 29.8, p = 0.000144)。所得が低い世帯では生活に追われて母乳育児が普及せず、さらに子どもの感染症罹患が’増え困窮を増す可能性があります。この結果を受 けて、低位の行政区への重点的な母乳育児支援が可能となります。
BFH認定施設の存在が母乳率改善に効果的であることから、日本での母乳育児支援を強化するために、BFHの基礎となる「WHOコード(母乳代用品の販売 流通に関する国際規準)」の法制化と全ての周産期施設での「母乳育児成功のための10ヵ条」実施を勧奨することができれば「赤ちゃんとお母さんにやさしい 国日本」の実現も夢ではありません。WHOコードについては、日本では政府が批准しているにも係わらず関連国内法が整備されない状態が続いています。欧米 諸国では国による差はあっても整備が進んでいます。日本でも個々の周産期施設の判断に委せるだけではなく国内法として整備していただきたいと願っておりま す。
【略歴】
1982年奈良県立医科大学卒業
1982~大阪市立小児保健センター・城北市民病院研修医
1984~大阪市立大学小児科大学院
1988~Visiting Fellow, Endocrinology and Reproduction Research Branch, National Institute of Child Health and Human Development, Bethesda, MD, USA
1991~大阪市立母子センター小児科
1993~大阪市立総合医療センター新生児科
1998~大阪市立住吉市民病院小児科
2002~大阪市立十三市民病院小児科