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臨時 vol 161 「世界一なのに「外国に倣え」と言われても 」

医療ガバナンス学会 (2009年7月10日 06:50)


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     日本の医療体制は目を見張るコストパフォーマンスの高さ
           武蔵浦和メディカルセンター
               ただともひろ胃腸科肛門科
               多田 智裕
  このコラムは世界を知り、日本を知るグローバルメディア日本ビジネスプレス
(JBpress)に掲載されたものを転載したものです他の多くの記事が詰まったサ
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 世界保健機関(WHO)も認めるように、日本の医療は世界1位の水準にあるので
す。その事実を認識していれば、「日本も外国と同じようにすべきだ」とは安易
に言えないはずです。
 6月23日政府の臨時閣議で「骨太の方針2009」が決定されました。その中で、
社会保障費の抑制方針が撤回され、「安心・安全を確保するために社会保障の必
要な修復をする」との文言が追加されました。
 これまで、政府は年に2200億円の社会保障費を削減し続けてきましたが、一転
して削減を取りやめることを明確に打ち出したのです。振り返ってみると2002年
度以来、5回にわたって2200億円を削減したことで、医療費が7.53%も減ってい
ました。
 社会保障費を取り戻して、削減前まで戻すには、2200×5=1兆1000億円が必要
になります。本当にそこまで医療に予算を回すつもりなのかどうかはまだ分かり
ません。
 それでも、「社会の高齢化が進む中、現状維持するだけでも医療費が増大する」
という、当たり前のことが認識されたのだと思います。また、診療報酬 内の配
分だけでなく、国家の予算配分も少子高齢化社会に応じて調整しなければならな
いことが認識されたのではないでしょうか(そう思いたいところです)。
実は日本の医療体制は世界一
 今回の決定までには、開業医と勤務医の給料の違いや、医師の診療科目や働く
地域を制限すべきかといった議論も含め、様々な議論が行われました。そ うし
た議論を見ていると、「社会保障費の削減を主張する側」と「医療従事者側」の
間には、根本的な認識の違いが2つあるように感じられます。
 1つは、少子高齢化が進む今の日本において、医療水準を高く維持していくた
めには、医療費が増えていくのがあたり前だという現実への認識です。
 医療従事者側にとっては、この現実を無視して「無駄をなくすべき」「増やす
必要はない」と言われても、根本的な認識が違うので、議論がかみ合いません。
 それともう1つ、認識されていないことがあるようです。
 それは、日本の人口の高齢化比率は21%と世界の中でも極めて高いのですが、
OECD諸国30カ国の中で、医療費のGDP比率が8.2%と、21位の低さなのです。
 それにもかかわらず、日本人の平均寿命は世界ナンバー1、乳幼児死亡率も世
界ナンバー3で、米国の3分の1程度なのです。さらには、フリーアクセ ス(居住
地にかかわらず、どこの病院でも診療を受けられること)も保たれており、世界
保健機関(WHO)も日本の医療は世界1位の水準と認めているという 事実があり
ます。
 その事実を認識していれば、「日本も外国と同じようにすべきだ」とは安易に
言えないはずなのです。
日本と米国ではまったく事情が違う
 財務省の委員会で、「病院の勤務医に比べて、開業医の給料が高すぎる」とい
う主張が見られました。6月15日の産経新聞の社説でも同様の主張が載り、日本
医師会が反対声明を出しました。
 「開業医の給料が高い」という主張を裏付けるものとして、「米国では専門医
(勤務医)の方が家庭医(開業医)よりも給料が2倍くらい高い」という事例が
引用されていました。
 しかし、その時に提示されていた資料をよく見ると、米国の医師の平均給料は
外科専門医だと3200万円(!)なのです。実際、「米国の医師と日本 の医師が
話をしていて、両国の給料の比較になった際に、どちらも給料は1000万円だった。
ただし、日本の医師の給料は年棒で、米国の医師のは月給だっ た」という笑い
話があるくらい給料が違うのです。
 「米国では・・・」という主張をした人たちは、日本の医師の給料をグローバ
ルスタンダードに合わせて引き上げよ、と言うつもりだったのでしょうか? 私
は米国並みにGDP比15%を超えるまで医療費を高騰させるのが必ずしも良いとは
思いません。
 また、オバマ大統領が行なっている医療改革も、公的な国民皆保険が達成され
ている日本人からすると、「みんなに健康保険を提供するのがなぜ『最大の試練』
なのか」理解しがたいのではないでしょうか?
 NHKで放映された米国の人気テレビドラマ「デスパレートな妻たち」で、セレ
ブである主人公の1人、スーザンが健康保険に入って入院医療費を払うために元
夫と偽装再婚する、なんて言うのは日本では冗談以外には見えないでしょう。
 米国の制度を真似する事が、必ずしも良い方向に進むわけではないと思うのは
私だけでしょうか。
そんな目標なら既に実現している
 英国を見習うべきという声も聞かれます。しかし、本当にそうなのでしょうか。
 英国ではブレア首相が1997年から2006年にかけて、大規模な支出増加を行なう
医療改革を実施しました。その改革で掲げられた目標には、次のようなものがあ
りました。
・病院外来の診療を13週以内に
・入院待ちを26週間以内に
・救急患者は4時間以内に診察
 日本の医療従事者から見ると、「医療費を倍増して改革するまでもなく、そん
なの日本では既に達成されてまんがな!」とツッコミを入れたくなる程の控えめ
な目標だったのです。
 それでもなお、「英国のように病院勤務医を全員公務員にして、開業規制をか
けて医師の偏在を調整すべき」と言ってよいのでしょうか?
日本の医療制度は世界ナンバー1だという認識を
 今の日本の医療体制が完璧で、問題点がないと言うつもりは、決してありませ
ん。
 でも、現時点に限って言えば、フリーアクセス、公的な国民皆保険、安い医療
費に高度な医療、平均寿命の高さ、低い乳幼児死亡率など、他の国々が必死になっ
て手に入れようとしているものを既に手にしているのです。
 日本の医療は他国からうらやましがられるくらいの状況だという事実を認識し
ていれば、また違った報道のされ方や意見になるのではないかと思います。
 繰り返しになりますが、日本は世界ナンバー1の医療を実現している国です。
何から何まで外国を見習うのではなく、外国のいい点、悪い点を正しく評価すべ
きです。いい点は参考にすればいいのですが、悪い点まで見習う必要はありませ
ん。
 そして、何よりもその認識があってこそ、「医療の質を高める本当の改革」の
アイデアが出てくるのではないでしょうか。
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