最新記事一覧

Vol.94  5割、8割引きは当たり前?

医療ガバナンス学会 (2014年4月14日 06:00)


■ 関連タグ

医療界を直撃する問答無用の価格引き下げ

※このコラムはグローバルメディア日本ビジネスプレス(JBpress)に掲載されたものを転載したものです。

http://jbpress.ismedia.jp/

武蔵浦和メディカルセンター
ただともひろ胃腸科肛門科
多田 智裕
2014年4月14日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


4月より2年に一度の保険点数改正により医療費の価格が変わっています。「0.73%のプラス改訂」「初診料は2700円から2820円に」などと報じられていることから、 「医療費は4月から少し値上がりしている」と受け止めている人が多いのではないかと思います。
しかし、今回の改訂では大幅な値下げが一部で行われています。
まず、薬局が手にする薬剤調剤料がそれです。個別の調剤薬局によって変動するものの、およそ5~7割のダウンです。医療においても、老人ホームの訪問診療代金は月4万2000円から1万円にと実に8割近くの値下げです。
これまでも保険点数改正においては、国の施策に沿って優遇されてきた点数が下げられてしまう”梯子外し”のような事例はありました。
でも、前回のコラムで取り上げた”老人慢性疾患外来総合診療料”(かかりつけ医制度)廃止の際もそうでしたが、価格の引き下げが行われる際に は、”半年後の施行”などの緩和措置がついていました。また、眼の白内障手術のように、これから件数が増えて効率化が見込まれる場合に価格が値下げされる こともありました。それでも、値下げ幅は1回の改正あたり10%程度で、通算10年で25%ほどでした。
ですから、医療において80%近くもの大幅な価格の引き下げがいきなり行われるのは、まさしく前代未聞です。このような公定価格変更が公然と行われたことは、医療のみならず他の分野にも影響が及ぶ悪しき前例ができてしまった気がしてなりません。

●撤退や閉鎖に追い込まれる薬局が続出?
今回の保険点数改正で最も打撃を受けるのは調剤薬局とされています。

改訂資料

http://www.nichiyaku.or.jp/action/wp-content/uploads/2014/03/h260401.pdf

を一見すると調剤基本料が400円から410円に値上げされていますので、実質5~7割もの大幅な値下げになっているとは分かりにくいと思われます。
問題は 「基準調剤加算」の要件にあります。こちらも300円から360円にアップされていますが、「24時間調剤並びに在宅患者に対する薬学的管理及び服薬指導を行うにつき必要な体制が整備されていること」という要件が新たに付け加えられました。
けれども、24時間態勢で調剤を行い、在宅患者に対応できるようにスタッフを配置できる薬局はほとんどありません。ということは、実質この「基準調剤加算」は算定できなくなります。
また、「後発品管理加算」(150円)も、後発品(=ジェネリック医薬品)の割合が今までの最低22%以上から55%以上に引き上げられるため、こちらも大部分では算定不可能になってしまいます。
ですからあくまでモデルケースですが、これまで、400円+300円+150円=850円だった調剤料が410円にと大幅にダウンします。これ は、同じことをやっていてもその対価は4月以降半分以下になってしまうということです(下の図を参照ください)。一医療機関からの処方箋割合が70%や 90%を超えている場合にはさらに点数が下がるので、最大7割もの減収になります。

24時間265日調剤で在宅患者に対応し、ジェネリック医薬品の使用率55%以上というハードルは、ほとんどの薬局で対応不可能だということは分かり切っています。その上でこのような条件を付けたのは、実質的に調剤料金を半額以上カットしていることに他なりません。
引き下げに耐えられず撤退や閉鎖に追い込まれる薬局が出てくるのは必至でしょう。これが「今回の改正で一番打撃を受けるのは調剤薬局」と言われている理由です。

●老人ホームの訪問診療代金8割値下げは妥当か?
次に、老人ホームの訪問診療代金について見てみましょう。こちらは月4万2000円から1万円にと実に8割近くの値下げです。
老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅(高専賃)などの同一建物では、確かにまとめて多くの患者を診察できます。とはいえ、月2回以上の診察と24時間態勢での患者対応の対価を、ここまでいきなり下げるのは妥当なのでしょうか?
通常、老人ホームなどに入居している人のうち、本当に訪問診療が必要な方はせいぜい2~3割と言われます。しかし、ほぼ全入居者を診察しているという事例も聞きます。
それを取り締まりたいのであれば、薬局に導入している「同一医療機関からの処方箋割合が70%を超えた場合には、調剤料を減額する」仕組みを訪問 診療にも取り入れればよいのです。「同一建物の入居者数のうち、7割以上が訪問診療を受けている場合は、半額に減額する」仕組みでも問題ないはずなので す。
8割もの値下げを正当化する理由は、私には思いつきません。今後、採算が合わないため往診する医師がいなくなる老人ホームが間違いなく続出することでしょう。

●大幅引き下げで一番被害を受けるのは医療の利用者
調剤料金の引き下げの理由は「調剤薬局が儲け過ぎだからそれを是正するため」、そして老人ホームの訪問診療費引き下げの理由については「訪問診療で一部不適切事例があったから」とされています。
しかし、公定価格はそのような感情的な議論に左右されるものではなく、もっと合理的な理屈に基づいて決められるもののはずです。
実際に起こっていることは、同じ仕事をしていながら4月以降はその対価がいきなり半分ないしは5分の1になってしまうという事実です。これは、日 本国の財政難を考えると、医療以外の分野でも同様のことが起こる可能性を秘めています。まさに悪しき前例となってしまった気がしてなりません。
将来、電気代や水道代がいきなり倍に跳ね上がっても、公務員の給料がいきなり半額に減っても、「円安で燃料費が上がったから」「公務員は今まで待遇が良かったから」と片付けられてしまう事態が起き得るということなのです。
そして、このような強引な価格改訂が行われた場合、真っ先につぶれてしまうのは零細の薬局であり、訪問する医師が真っ先にいなくなるのも零細の老人ホームです。そして何よりも一番被害を受けるのは医療の利用者です。
このような改訂をせざるを得なくなったそもそもの制度設計の責任を含めて、しっかりとした検証がなされるべきであると私は思います。

MRIC Global

お知らせ

 配信をご希望の方はこちらのフォームに必要事項を記入して登録してください。

 MRICでは配信するメールマガジンへの医療に関わる記事の投稿を歓迎しております。
 投稿をご検討の方は「お問い合わせ」よりご連絡をお願いします。

関連タグ

月別アーカイブ

▲ページトップへ