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臨時 vol 102 「「医の中の蛙」7」

医療ガバナンス学会 (2009年5月5日 11:55)


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久住英二


 医学部卒業後の臨床研修制度が2004年4月に開始して5年。今、評価と見直しの
議論の的になっています。厚生労働省の「臨床研修制度のあり方等に関する検討
会」や「医療における安心・希望確保のための 専門医・家庭医(医師後期研修制
度)のあり方に関する研究」などで熱い議論がたたかわされています。
 現在の卒後臨床研修制度の特色としては、幅広い診療能力を身につけるために
いろいろな診療科を回ること(スーパーローテート研修)、そして、アルバイト
をせずに研修に専念できるよう、ある程度の給与が支給されることが挙げられま
す。
 この制度が施行されるまでは、医学部を卒業した医師の7割は大学病院に残り、
それぞれの大学独自のカリキュラムで臨床研修を受けていました。内科に進んだ
医師は、内科全般の勉強はするものの、他の専門分野の研修は受けられませんで
した。例外的に一部の病院が臨床研修に力を入れており、ローテート研修を希望
する人はそのような病院に就職し、研修を受けていました。
 医療が高度化している今日では、ある程度の専門分化はやむを得ないものの、
最初から狭い専門領域の診療しかできないようではやはり困ります。そこで新臨
床研修では、産婦人科や小児科も含め、内科や外科などのあらゆる科を2年間で
回るカリキュラムが義務づけられました。
 給与に関しては、月給30万から40万円程度が支給されるようになり、立場も常
勤医師になりましたので、大幅に改善しました。実は、かつての研修医は日雇い
労働者だったのです。平成11年頃は、国立大学病院の研修医の月給は約15万円、
私立大学病院では2万5,000円からゼロでした。ですから、夜間や週末には外の病
院でのアルバイトが必須だったのです。
 新臨床研修制度が始まると、さまざまな混乱が起きました。まず、研修医の募
集定員が医学部卒業生よりも多かったため、募集定員を満たさない病院が多数あ
りました。また大学病院で研修する人が激減したため、大学からの医師派遣に頼っ
ていた病院で医師不足が起こりました。なにしろ、医療の現場から2年分の医師1
万3,000人が消えたのですから、数年間の混乱は避けられません。しかも、そも
そも医師不足の根本的な原因は厚労省の医師数削減政策ですから、これを新臨床
研修制度のせいにすることは議論を誤った方向へ導きかねません。
 医師不足を解決するために、前向きな試みが始まっています。例えば山形大学
では、一定の試験をパスした医学生は「スチューデントドクター」として、患者
さんの治療に参加する制度を創設しました。卒前教育を充実させることで、早く
一人前になれるようにするのが目的です。今後、同様の制度を導入する大学が増
えると思います。
 医師は、一朝一夕にはできません。勉強は一生続きますし、とくに最初の5年
間ほどは、勉強の仕方や心構えなど、しっかりと教育を受ける必要があります。
医者も人間ですから、若造のうちは、いろいろと間違いも犯します。すぐ天狗に
なったり、結構いじけたりもします。どうぞ皆さんも「医者の卵」がちゃんと孵
化して、一人前の医者になれるよう、温かい目で見守ってやってください。そし
て、臨床実習や研修に協力いただきたいと思います。
くすみ・えいじ 1973年新潟県長岡市生まれ。新潟大学医学部医学科卒業ととも
に上京、国家公務員共済組合連合会虎の門病院で内科研修後、同院血液科医員に。
2006年から東京大学医科学研究所客員研究員。2008年に「ナビタスクリニック立
川」開設。
※この記事は、新潟日報に掲載されたものをMRIC向けに修正加筆したものです。
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