医療ガバナンス学会 (2014年5月21日 06:00)
~国立国際医療研究センター病院医療事故報道に関連して~
一般社団法人全国医師連盟 執行部
代表理事 中島 恒夫
2014年5月21日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
今回の報道によると、「この医師は、医師になって5年目の(後期)研修医で、脊髄の造影検査を1人で行うのは初めてだった。(中略)同病院では、脊髄の検 査に別の造影剤を使用しているが、医師は病院の調査に、「造影剤は、血管用も脊髄用も同じものだと思っていた」と話したという。同病院は今後、造影検査を 行う際は撮影する技師も立ち合わせ、複数で造影剤を確認するなどして再発防止を図る。」とされています。
このような事故を防止するためには、個人の注意を促すのみでは効果は少ないことが知られています。事故を減少させるためには、(1)医師の基本的知識を充 足するための教育体制の問題、(2)複数職員での検査やダブルチェックを可能とするための勤務体制の問題、(3)誤った医療行為を行おうとしてもそれが防 止されるシステム等を検討することが必要です。
今回の事故のような業務に従事している者の知識不足や、単純な過失があっても、事故が起こらないようにシステム設計するのが、「フールプルーフ」の考え方 です。また、過去の刑事裁判で同様の事故が裁かれていますが、これが今回の医療事故の防止につながっていないことからも、個人の責任のみを追求する刑事罰 (業務上過失致死傷罪)は、医療事故再発防止に役立たないばかりか、システムエラーが放置される遠因にもなりうることが示唆されます。
今通常国会に上程された医療法改正案(以下、「改正法案」)に盛り込まれている医療事故調査機関については、「医療安全と再発防止」と「責任追及」の両立 し得ない2つの機能を持たせていること、事故調査機関の独立性が担保されていないこと、刑事司法介入の抑制がなされておらず、関係者の証言が刑事裁判の証 拠とされる可能性があることなど、さまざまな問題点が指摘されています。特に、事故原因の正確な解析のためには、刑事責任によって影響されない状況の下 で、関係当事者の正確な供述を得ることが必要です。このため「責任追及」を事故調査から切り離すことは、事故調査の手続における国際的な原則となっていま すが、改正法案ではこうした視点が欠落しています。
以上のような観点から、全国医師連盟は改正法案に対し、以下の7点を要望します。
1) 事故調査を実施する第三者機関には、システム事故調査に関する専門家を加えること。
2) 関係当事者による供述の刑事手続きへの流用禁止を規定すること。
3) 事故調査を刑事捜査に先行させるための具体的かつ実効性のある方策を盛り込むこと。
4) 事故調査を実施する第三者機関に関しては、調査の独立性を担保するため、厚労省の下に設置するのでなく、内閣府外局として設置する等の工夫を行うこと。
5) 事故調査には、事故に利害関係を有する者は参加させないこと。
6) 事故調査の開始の申し出は、関係する医療従事者も行うことができる旨を明記すること。
7) 事故調査機関に無過失補償等の他業務を担わせないこと
【参考文献】
1. 「医療事故調査関連の医療法改正案への公開質問」に対する11団体からの回答
http://zennirenn.com/news/2013/11/10.html
2. 医療事故調査関連の医療法改正案への緊急声明
http://zennirenn.com/news/2013/04/post-51.html
3. 第12回医療事故に係る調査の仕組み等のあり方に関する検討部会
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000003005u.html
4. WHO GUIDELINES FOR ADVERSE EVENT REPORTING AND LEARNING SYSYTEMS
http://www.who.int/patientsafety/events/05/Reporting_Guid…’WHO+GUIDELINES+FOR+ADVERSE+EVENT+REPORTING+AND+LEARNING+SYSYTEMS
5. 「同じものだと…」禁止造影剤脊髄に、女性死亡 2014年04月19日 07時22分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
http://www.yomiuri.co.jp/national/20140418-OYT1T50186.html?from=tw(4月25日22時閲覧)