7月10日、私が事務局長を務める「細菌性髄膜炎から子どもたちを守る会」は、
NPO法人キャンサーネットジャパン、NPO法人パンキャンジャパン、NPO法人PAH
の会、ムコネットTwinkle Days、卵巣がん体験者の会スマイリーの5団体と連名
で、「薬害肝炎事件の検証及び再発防止のための医薬品行政のあり方検討委員会」
について、厚生労働大臣、厚生労働省医薬食品局総務課医薬品副作用被害対策室
長、薬害肝炎事件の検証及び再発防止のための医薬品行政のあり方検討委員会座
長宛に緊急要望書を提出しました。
私たち6団体は、ドラッグ・ワクチンラグの解消を願う患者会・患者支援団体
です。私たちは、「薬害肝炎事件の検証及び再発防止のための医薬品行政のあり
方検討委員会」の議論の行方に、大いなる危機感を抱いています。
医薬品にはその主作用(効能・効果)と副作用という不可分の作用があります。
これらはともに「リスク」により評価することができます。前者はもたらされる
利益により相殺するリスク、後者はそれにより発生するリスクです。後者が適切
にコントロールされなければ「薬害」というより大きなリスクを生じてしまいま
す。一方、前者のコントロールを誤ると、必要な医薬品にアクセスできない「ド
ラッグ・ワクチンラグ」というリスクが拡大します。相殺されるべきリスクが放
置される、拡大されるという状態です。
医薬品行政には、双方のリスク管理を適切に行なわなければなりません。
「薬害肝炎事件の検証及び再発防止のための医薬品行政のあり方検討委員会」
は、その名が示すとおり、薬害肝炎事件という「薬害」を切り口に、その再発防
止を図るために医薬品行政のあり方について論じる検討会です。つまり、医薬品
行政が行なうリスク管理のうち、一方のみを俎上にあげるものです。そのため議
論はどうしても偏ったものにならざるを得ませんし、それはこの検討会が立ち上
げられるまでの経緯等からしても止むを得ないでしょう。そもそも、委員構成も
「薬害」に特化した陣容です。ですから、私は同検討会でドラッグ・ワクチンラ
グというリスクのマネジメントまで論じてほしいとは考えていません。
とはいえ、「薬害」の再発防止というリスク管理に特化した議論を行なうとし
ても、そのリスク管理の前提となるリスク評価は適切になされなければいけませ
ん。医薬品が有する不可分の二つの作用とそこから生じる二つのリスクの一方を
著しく過小評価してしまってはリスク評価としては極めて不適切ですし、そのリ
スク評価に基づいて行なわれるリスク管理も誤ったものとならざるをえません。
現に、ドラッグ・ワクチンラグの一つである「適応外」について、検討会では
「薬害」というリスク評価のみに基づいた意見が見受けられますし、これは私た
ちが検討会の議論に危機感を抱いたポイントの一つでもあります。
第一次提言会では適応外使用により薬害被害が拡大したというリスク評価に基
づき、適応外使用を倫理審査委員会等を有する医療機関に限定する旨が盛り込ま
れています。一方で、「臨床上の必要性があり、安全性と有効性に関する一定の
エビデンスが備わっている場合には、速やかに保険診療上認められるシステムを
整備するとともに、適切な承認手続きのもとで承認を得られるように体制を整備
すべき」と適応外問題の解消に向けた記述もあるのですが、「適応外使用の大幅
な制限」と「適応外問題の解消」のそれぞれの実現のスパンには大きな差が生じ
るであろうことは、誰の目にも明らかなことでしょう。有効性、安全性が明らか
であるにもかかわらず適応を取得していない医薬品は数多くあります。そしてそ
の理由も単一ではありません。適応外使用の解消には数多くの施策と相応の時間
が必要です。検討会の提言では、適応外使用が大きく制限される一方で、適応外
の解消は遅々としてすすまないという状況に陥りかねませんし、これはまさに
「ドラッグ・ワクチンラグ」の拡大、そしてそれによるリスクの拡大を意味しま
す。この提言内容からも、ドラッグ・ワクチンラグというリスクを軽視している
ことが伺えます。
ドラッグ・ワクチンラグによるリスクは、救われるべき患者が救われないとい
う「被害」を生み出します。このリスクを過小評価するということは、それはド
ラッグ・ワクチンラグ被害者の存在を軽んじることと言っても過言ではないでしょ
う。薬害というリスク評価だけに立脚した議論ではなく、ドラッグ・ワクチンラ
グ被害者の存在をきちんと認識し、ドラッグ・ワクチンラグというリスクがある
ことを適切に評価したうえで、薬害の再発防止というリスク管理を論じてほしい
と願うものです。