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Vol.139 消費税訴訟の主体 消費損税は租税法律主義に反するのではないか

医療ガバナンス学会 (2014年6月19日 06:00)


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この記事はMMJ (The Mainichi medical Journal 毎日医学ジャーナル) 6/15発売号より転載です。

井上法律事務所
弁護士 井上 清成
2014年6月19日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

1. 租税法律主義
現在、保険医療機関は、患者に渡す領収証に、「厚生労働省が定める診療報酬や薬価等には、医療機関等が仕入れ時に負担する消費税が反映されています。」などと明記させられている。厚生労働省は、診療報酬や薬価等が消費税込み価格であることを明示させて、隠れ消費税との批判をかわさせようというのでもあろうか。しかし、これは透明性うんぬんの問題ではない。
厚生労働大臣が強制力をもって定めた公定価格に、実は消費税が賦課されていたことこそに、本当の問題がある。消費税法にも健康保険法にもその他の法律にも、強制的な公定価格たる診療報酬において消費税を賦課する旨の定めはない。つまり、憲法第84条が定める租税法律主義に反しているように思われるのである。
憲法第84条は租税法律主義を、「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。」と明文化した。診療報酬改定の厚労省告示をもって厚生労働大臣が、「医療機関等が仕入れ時に負担する消費税が反映」されるようにしたいのならば、まずその旨を健康保険法に具体的に定めなければならない。

2. 健康保険法の改正案
厚労省告示に基づく診療報酬改定の根拠条文は、健康保険法第76条第2項である。ところが、そこには「療養の給付に要する費用の額は、厚生労働大臣が定めるところにより、算定するものとする。」との白紙委任的な定めしかない。これだけでは、消費税を反映させるのには無理があろう。
そこで、この条文に「ただし書き」を加えるべきである。「ただし、保険医療機関又は保険薬局が療養の給付のために当該課税期間中に国内において行う課税仕入れに係る消費税額の増額は、適切に算定しなければならない。」などという条文が、健康保険法の改正案の一つとして考えられよう。
このように明文化すれば、租税法律主義違反の問題はクリアーしうる。もちろん、これほど厳格でなくとも、「租税の増額」という程度でもよいかも知れない。しかし、いずれにしても、租税法令としての根拠を健康保険法に明記する必要があろう。

3. 保険者の立場―組合員間の不公平
現在はもちろん、健康保険法に何らの定めがなく、租税法律主義に反しているとも評しうる状態といってよい。にもかかわらず、健康保険法第76条第1項に定められているとおり、「保険者は、療養の給付に関する費用を保険医療機関又は保険薬局に支払うものと」されている。つまり、保険者の立場からすれば、「消費税が反映」している「療養の給付に関する費用」を厚労省によって消費税分も含めて丸々、支払うよう強いられているといってよい。
さらに、保険者の立場としてより深刻なのは、組合員の間の不公平である。本来、消費税は消費した者自身だけが負担すればよい。ところが、保険者への組合員の保険料支払いは公平なのにもかかわらず、その集められた保険料が療養の給付に関する費用の支払いを通じて、消費税分に流れてしまう。医療提供を受けていない組合員に、消費税負担が生じているので、不公平が生じてしまうのである。税負担の不公平が生じているとも評しえよう。これこそが保険者にとって、早急に解決しなければならない深刻な問題なのである。
もしも消費税訴訟の提訴を考えるとしたら、法原理的には、まず保険者、そして組合員個々人ということになるであろう。

4. 保険医療機関の立場
保険医療機関の立場からすると、租税法律主義違反での提訴の目的は、租税法律主義に沿うように健康保険法にきちんと明文を追加させることにある。先に述べたように、「ただし、保険医療機関又は保険薬局が療養の給付のために当該課税期間中に国内において行う課税仕入れに係る消費税額の増額は、適切に算定しなければならない。」と明文化できたとするならば、診療報酬改定において消費税が適正に転嫁されることになるであろう。
実際、消費税訴訟の先例たる神戸地方裁判所平成24年11月27日判決でも、「厚生労働大臣は、(中略)、医療法人等の仕入税額相当額の負担に関する制度の整合性の見地に照らし、上記改定(筆者注・診療報酬改定)が転嫁方法の区別を解消するための代替手段として想定されていることに鑑みて、医療法人等が負担する仕入税額相当額の適正な転嫁という点に配慮した診療報酬改定をすべき義務を負う」とした上で、「このような配慮が適切に行われていない場合には、当該診療報酬改定は、裁量権を逸脱又は濫用するものと評価することができる。」とまでは判示した。租税法律主義に関する詰めは甘い判決ではあるが、一応の評価には値する判示であると思う。
しかし、その判決を受けた今回の平成26年度改定でも、結局、カバー率が60%程度であったり、甚だしくは20~30%であったという医療機関も存在するらしい。「裁量権を逸脱又は濫用」されたと評されうる被害医療機関が出てきてしまったのである。60%程度でも疑わしいし、20~30%に至っては明らかに「裁量権を逸脱又は濫用」された個別被害医療機関と評せざるをえない。
結局、神戸地裁判決では、すべての医療機関を適切にカバーするインパクトまでは無かったということであろう。新たな消費税訴訟の主体となりうる個別の被害保険医療機関は多数にのぼることが想定される。

5. 消費税訴訟の主体と客体
いわゆる消費損税を巡る問題は根深く、そして、幅広い。消費税訴訟とひと口にいっても、その着眼点は訴訟の仕立て方によって様々となろう。訴訟の主体となりうる者、つまり、原告も、保険者、組合員、保険医療機関開設者と多様である。
ただ、共通しているのは、被告が国で、その実質は厚生労働省であるということであろう。

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