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Vol.143 「電子タバコ論争」勃発! 子どもが口にする危険性も!?

医療ガバナンス学会 (2014年6月25日 06:00)


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この原稿は日経トレンディネットより転載です。
(イラスト画像を含むオリジナル記事はこちら↓)

http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/column/20140612/1058407/?P=1

内科医師
大西 睦子
2014年6月25日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

2014年6月11日に、日本たばこ産業(JT)が、英国の電子たばこ会社ザンデラ(ウスターシャー州)を買収すると発表し話題になりました。電子たばこ は禁煙に効果があるとされる一方で、健康被害の懸念が取りざたされています。WHOは、2014年10月に開催される加盟国会合での発表をめどに、電子た ばこの規制に関する勧告の作成に取りかかっていますが、今回はそんな電子たばこ論争について、解説していきます。

電子タバコは、米国を中心に禁煙に役立つとして推奨され、売り上げが急増しています。ところが、健康に対する悪影響やその規制の緩さへの懸念が高まり、米国では今、大議論となっています。
そもそも、電子タバコって何でしょうか?

●ニコチンを含む液体を使用した製品もある電子タバコ
電子タバコは、見た目は普通の紙巻タバコによく似た、バッテリー駆動のニコチン蒸気の吸引器のこと。マッチやライターで火をつける必要はありません。カー トリッジ側を口で吸うと電源が入り、カートリッジ内の液体ニコチンが加熱されて気化し、その蒸気を吸い込んで吐き出し楽しみます。遠目には紙巻タバコを 吸っているようにも見えますが、何も燃えていないため臭いはありません。

日本では液体ニコチン入りの電子タバコの製造・販売は薬事法で規制されています。つまり国産の電子タバコも売られてはいますが、カートリッジには液体ニコチンは含まれていません。たばこの葉を詰めたカートリッジを用いるタイプは、未成年の利用は禁止されています。

一方、外国産の電子タバコには、ニコチンを含む液体を使用した製品もあります。日本の薬事法では個人がニコチン入り電子タバコ(あるいはカートリッジや液 体)を海外から入手してたしなむことまでは規制していないので、日本でも外国産を個人輸入して利用している人もいます。

●電子タバコで、禁煙できるの?
先日、英国の研究者らが、専門家の助けを借りず(例えば病院に通うなど)に禁煙にトライする人が電子タバコを使用している場合は、意思のみ、あるいはパッチやガムなどのニコチン置換療法の場合と比べて、約60%以上も成功する可能性が高いことを報告しました。
<参考文献>
Addiction「E-cigarette use for quitting smoking is associated with improved success rates」 http://www.addictionjournal.org/press-releases/e-cigarette-use-for-quitting-smoking-is-associated-with-improved-success-rates-

この報告だけ見ると、電子タバコは禁煙に有効なんじゃないかと感じますが、多くの専門家が、この研究の結果を疑問視しています。
<参考文献>
Knight Science Journalism Program at MIT「E-cigs help smokers quit–if you believe the study.」

http://ksj.mit.edu/tracker/2014/05/e-cigs-help-smokers-quit-if-you-believe

●減らないニコチンと成分表示の問題
米国食品医薬品局(FDA)や専門家は、電子タバコによる純度の高いニコチンの吸入に伴う副作用は十分に研究されておらず、不明な点が多いとしています。

また、FDAは電子タバコに含まれる全化学成分を適切に開示していないメーカーが複数あると指摘。カートリッジラベル記載のニコチン量は、カートリッジに入っている実際の量と一致しない場合があるため、品質管理に対する懸念があると報告しています。

電子タバコは“禁煙を補助する”というイメージとは裏腹に、通常のタバコと同じくらい、あるいはそれ以上のニコチンを含むことがあるのです。

肺から血中に入ったニコチンが脳に達すると、集中力が高まり、気分が落ち着き、さらに快感や覚醒といった効果をもたらします。ところがニコチンは依存性が 強いことでも知られていますよね。依存状態に陥った人は、ニコチンが切れるとイライラ感や不安などの離脱症状(いわゆる禁断症状)を生じます。ニコチンの 依存性は、ヘロインやコカイン、アルコール、カフェインなどよりも強いと言われるくらいですから、問題になるわけです。

●問題は、ニコチンだけではない
ニコチンだけではありません。
2009年7月、FDAは、複数の電子タバコ製品を予備的に分析し、電子タバコのカートリッジには、発がん性物質(特定のニトロソアミン類など)や人体に有害な化学物質(溶剤や凍結防止剤に使われるジエチレングリコールなど)などが含まれていることを報告しました。
<参考文献>
U.S. Food and Drug Administration(FDA)「Summary of Results: Laboratory Analysis of Electronic Cigarettes Conducted」

http://www.fda.gov/NewsEvents/PublicHealthFocus/ucm173146.htm

確かに電子タバコは副流煙を生みませんが、副蒸気は発生します。副蒸気は単なる水蒸気であって無害だとメーカー側は主張していますが、規制当局や専門家は電子タバコメーカーがそれを証明できるような研究さえしていないことを批判しています。

実際、電子タバコの副蒸気は、人によっては目や鼻、喉への刺激、吐き気、呼吸への影響といった症状を引き起こすことが報告されています。電子タバコの反対 派は、子どもや高齢者、特定の病状を持つ人々を含むすべての人にとって安全だとメーカーが証明するまで、副蒸気にさらされるべきではないと主張していま す。

先日サンディエゴで開催された米癌学会(AMERICAN ASSOCIATION FOR CANCER RESEARCH;AACR)の学術総会では、カリフォルニア大学やボストン大学などの研究者が発表した研究成果が話題になり、科学雑誌「Nature」 ウェブ版のNews&Comment欄でも紹介されました。
<参考文献>
Nature「E-cigarettes affect cells」

http://www.nature.com/news/e-cigarettes-affect-cells-1.15015

電子タバコの蒸気にさらされた培地中で増殖した気管支細胞は、紙タバコの煙にさらされた培地中で増殖した気管支細胞に非常によく似た、遺伝子の変異を示し ました。明確な結論を引き出すにはさらなる研究が必要とされますが、この類似性は、電子タバコの蒸気ががんのリスクを高めることの潜在的指標と言えます。

●若者や子どもが電子タバコを吸う!?
実は今、米国では子どもや若者が口にする可能性も問題視されています。

電子タバコメーカーは、直接若者に販売しないように注意を促していますが、電子タバコ用ニコチンカートリッジには、子どもたちにとって魅力的なチョコレー トやフルーツ、キャンディーなどの風味が加えてあり、デザイン的にもスタイリッシュでちょっとおもちゃのように魅力的でもあるのです(ちなみに、風味に は、タバコやカクテルなどもあります)。

米国の法律では、未成年は紙巻タバコを購入できませんが、電子タバコにはこうした法律は適用されません。ですからインターネットでも販売でき、実際に売られているため、未成年者でも簡単に購入できるのが現状です。

こうした電子タバコの中には、紙巻タバコより安い値段で売られているものもあり、若年層の使用が一気に広がっています。若者にしてみたら、映画やテレビで自分の憧れのスターが電子タバコを吸う姿を見たら、思わずマネしたくなるということもあるのでしょう。

医学雑誌「Pediatrics」の報告によると、2011年~2013年の間で、テレビ広告により、電子タバコの情報にさらされる若者が、12歳~17歳の青年で256%、18歳~24歳で321%も増えました。
<参考文献>
Pediatrics「Exposure to Electronic Cigarette Television Advertisements Among Youth and Young Adults」

http://pediatrics.aappublications.org/content/early/2014/05/27/peds.2014-0269

これでは電子タバコの禁煙の有効性をうたうどころか、これまでに喫煙をしたことのない若年齢層の利用者まで急増させ、“電子”とはいえ喫煙者を減らすどころか増やす結果になってしまいます。

●激増する子どものニコチン中毒
また、米国では子供たちの間で事故的なニコチン中毒の報告が激増しています。2011年以来、大人のニコチン中毒による死亡は、ニコチンを注射して自殺した1例だけです。

ところが中毒センター(POISON CONTROL CENTER)に報告されるニコチン中毒の全国件数は、2013年には2012年に比べて300%に増加し、1351症例となりました。今年はさらに倍増するペースで増えています。

先ごろ、オクラホマシティの2歳の少女が、親の液体ニコチンを小瓶1瓶飲んで嘔吐し、緊急治療室に運ばれる事故がありましたが、液体ニコチンが消化管に入ると、タバコを吸って肺から取り入れるより迅速に体内に吸収されるため、はるかに危険なのです。

こうした経緯や懸念から、海外では電子タバコ規制の動きが強まってきています。例えばフランスなどでは国の法律で、あるいは米国内でもニューヨークなどでは市の条例によって、電子タバコは禁煙場所で吸うことが禁止されました。

日本国内で、個人輸入で海外のニコチン入り電子タバコをすでに利用されている方も、やはりタバコと同じように健康のためには量や頻度を抑えたり控えたりすることをお勧めします。長期的な健康への影響は、まったく不明なのです。

【略歴】大西睦子(おおにし・むつこ)
医学博士。東京女子医科大学卒業後、同血液内科入局。国立がんセンター、東京大学医学部附属病院血液・腫瘍内科にて、造血幹細胞移植の臨床研究に従事。 2007年4月より、ボストンのダナ・ファーバー癌研究所に留学し、ライフスタイルや食生活と病気の発生を疫学的に研究。2008年4月より、ハーバード 大学にて、食事や遺伝子と病気に関する基礎研究に従事。現在もボストンで研究を続けている。

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