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Vol.144 薩摩と被災地が繋がるキッカケ

医療ガバナンス学会 (2014年6月26日 06:00)


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この原稿はハフィントンポストからの転載です。

http://www.huffingtonpost.jp/hisataka-shimadu/story_b_5496047.html

帝京大学法学部
精矛神社権禰宜
島津 久崇
2014年6月26日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

私は生まれながらに加治木島津家と精矛神社を継ぐ宿命を負っている。加治木島津家は関ヶ原合戦において徳川家康の本陣を敵中突破した島津義弘公から始まった分家筆頭である。その関係から、薩摩に伝わる郷中教育の一貫である野太刀自顕流、天吹や薩摩琵琶、そして雅楽で使われる笛である龍笛を学んでいる。現在は帝京大学法学部で法律を学んでいる傍、精矛神社権禰宜として年末年始に奉仕している。

今回、縁あって福島県原町高校にて音楽の授業をさせていただいた。授業の日程は4月30日から5月2日までの3日間。主に高校1年生と2年生音楽選択者のクラスで行うことになった。

滞在先は相馬市。震災の復興が進んでいるところだ。散策しても震災の痕が見当たらないほど綺麗だった。道行く高校生や年配の方も元気な挨拶をしてくれて、暗い雰囲気はなかった。荷物を置き、宿泊先の車を借りて南相馬市まで運転してみたが、瓦礫等は見当たらなかった。しかし、浸水区域等の看板が表示されていることから、震災の爪痕は残っていることはわかった。

運転すること約30分、翌日から授業をする予定の原町高校に着いた。高校の隣の土地は仮設住宅で埋められているのを見て驚いた。普通のマンションやアパートとは違い、とても簡素なプレハブのような家に住まわされている現実を目の当たりにしたからだ。自分がいかに恵まれた場所で暮らしているのかが良く分かる。

その後、南相馬市立総合病院で研修医をされている藤岡将医師に避難区域の小高区、浪江町を車で案内して頂いた。藤岡医師は東大医学部を卒業し、昨年から南相馬で研修している。私は東大の研究室で「修行」しており、そこの先輩にあたる。

小高区や浪江町で目の当たりにしたのは残されたままの瓦礫や1階の流された家、割れた窓、ひっくり返ってボコボコになっている車だ。震災初期の報道と、全く同じ状態だった。「未だにこんなに残っているのか」とショックを受けた。ここでは復興を感じない。このあたりの空間線量は相馬市と変わらない。何が両者をわけてしまったのか。少なくとも「被曝」ではない。

翌日は、原町高校での特別授業として、ジャズ、天吹、龍笛についての話をした。自分が一番伝えたかったのは楽器についてよりも、天吹の話を通した「薩摩の生き方」だった。 天吹は尺八の小さくなったような形をしていて、鹿児島に伝わるコサン竹で作られた幻の笛であり、どこにも売っていない。伝承されているのは7曲だ」天吹には、あるエピソードが伝わっている。慶長5年(1600年)、関ヶ原の戦いにおいて敵中突破を果たした島津義弘公の家来、北原掃部助という人が愛用の天吹を陣中に忘れて取りに帰った。徳川方に捕まってしまうが、「死ぬ前にもう一度天吹を吹かせて欲しい」と懇願し、吹奏したところ、徳川方は感動し解放されて薩摩に戻ることが出来たそうだ。

私は、この話を「芸は身を助く」の実例と理解している。戦場では、何が自分の身を助けるか分からない。まさか天吹が役に立つとは想像する人もいないだろう。

高校は勉強するところである。しかし、勉強という言葉が指すのは学問だけでは無い。自己啓発、教養、コミュニケーション、マナー、プレゼンや興味を持ったことを突き詰める等、得るものは沢山ある。ここまでは、よく言われる話だ。ただ、具体的に言われないと、何をどうしていいかわからない。薩摩には、天吹のような先人達の話が伝わっており、それが「教材」として使われている。島津家に生まれた私は、地域社会の中で、このような伝統を伝えるのが使命だと考えている。

では、どうすれば「学校の勉強」以外の素養を身につけることができるだろうか。それは行動に尽きる。思い立ったら即行動することである。なぜならその時が一番集中して物事に打ち込めるからだ。

私が把握している行動に関する一番古い教えは、「いにしへの道を聞きても唱へても 我が行ひにせずばかひなし」という歌である。戦国時代から鹿児島に伝わり、我が家の家訓でもある島津日新公いろは歌の一つである。「どんなに古くから存在する良い教えを受けていても、自分の行動に移さなければ意味が無い」という内容だ。

長州の吉田松陰も「賢者は議論より行動を重んじる」と遺している。明治維新をリードした薩長の何れにも、同じような教訓が伝わっているのは興味深い。おそらく、「何かをなす」ために必要不可欠な覚悟なのだろう。ただ、わざわざ教訓にするということは、人間は基本的に臆病なため、ほっておけば尻込みしてしまうためかもしれない。太古、野獣から何とか身を守ってきた我々の先祖のことを考えれば、人間は臆病であるのが普通なのかもしれない。

薩摩には、この手の話は数多く伝わり、我々の世代にも影響している。例えば「泣こかい!飛ぼかい!泣こよかひっ飛べ!」という言葉がある。ざっくり言うと引くぐらいなら突っ込めということである。分かりやすい例は敵中突破だ。駄目元でも突っ込んでみれば活路を見出せるのだ。やって見なければわからない。なのでどんな人も前向きに突っ込んでみると良いのである。

原町高校の授業は、鹿児島の教えを用いて行動力や積極性について説いた。この授業は、これからの鹿児島と南相馬市、福島と未来において繫がるキッカケになったはずだ。それは即ち、今回の特別授業で原町高校生が天吹や鹿児島に興味を持って、将来鹿児島に遊びに行きたい、実際に天吹を作ってみたいと思い立つ生徒が現れ、鹿児島を訪問すればそこで同年代と繋がる。そうすると福島へ遊びに行く事になる。そこで、鹿児島の人は震災から学んだ事を直に教えてもらえるのだ。個人個人のネットワークが政府よりも信頼出来る情報をもたらす事は先の震災に置いて明らかになっている。つまり今回の授業は、これからを生きる原町高校と鹿児島との将来的に助け合えるネットワークを築くキッカケになったはずである。

今回このような機会を頂けて本当に良かった。被災地の高校生は楽しそうに過ごしていて、復興も場所の差はあるが、進んでいる事が分かった。これからもこのような話を今度は別のところでも、ぜひさせて頂きたい。そうして1人でも多く鹿児島と被災地が繋がるようにしたい。

【略歴】しまづ ひさたか
平成4年、鹿児島県に生まれる。平成20年公開の映画「チェスト!」に出演。私立鹿児島修学館高等学校卒業後東京薬科大学生命科学部に進学在学中に神職の資格を取得。平成26年2月より鹿児島の精矛神社権禰宜に任じられる。3月に東京薬科大学を中退後翌4月に帝京大学法学部に編入。

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