医療ガバナンス学会 (2014年6月30日 06:00)
パルコール、電子タバコ、それともマリファナ、どれに投資しますか?
内科医師
大西 睦子
2014年6月30日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
今年の4月、ボストンの知り合いがこんな会話をしていました。
「水を加えるだけで飲料用のアルコールになる、粉末アルコール=パルコール(Palcohol)が市販になるみたい。これ売れそうだから、投資してみようかな?でも、電子タバコかマリファナもよさそうだし、どうしよう?」
パルコールは、ご存知ない方も多いと思いますが、今年の春、米国ではかなりの話題になりました。4月8日、米国財務省の酒類・タバコ税貿易管理局(TOBACCO TAX AND TRADE BUREAU:TTB)のウェブサイト上で、パルコールの認可を発表。ところが、約2週間後の4月21日、その承認の撤回が報告されたのです。安全上の問題、他のアルコール業界との関係など、様々な問題があったようです。
詳細:http://robust-health.jp/article/cat29/mohnishi/000472.php
ですので、パルコールの解禁は、相当時間がかかると思います。それでは、電子タバコはいかがでしょうか?この問題は、ハーバードビジネススクールのケーススタディとして、クウェルチ教授が議論されています。
http://hbr.org/product/e-cigarettes-marketing-versus-public-health/an/514059-PDF-ENG
http://hbswk.hbs.edu/item/7449.html?sf25342747=1
米国を中心に禁煙に役立つとして推奨された電子タバコ。ハーバードビジネススクールのニュースレターによると、2012年に、米国4380万人の喫煙者のうち、350万人は電子タバコに切り替えました。同期間中に、130万人の電子タバコ利用者は、タバコに切り替えました。 つまり220万人、5%の喫煙者が減りました。ところが、これまでに喫煙をしたことのない若年齢層の利用者などが急増し、新たに280万人が、電子タバコをはじめました。
この急速な電子タバコの利用者の増加にともない、2013年、電子タバコの米国の売上高は、3倍の約30億ドルになりました。米国のタバコ小売市場 は、約1000億ドルとされています。 2012年、ゴールドマン•サックスは、電子タバコを、注目すべきトップ10の破壊的テクノロジーのひとつ、と宣言しました。
そもそも、電子タバコは、小さな起業家(Logic eCig (founded 2010), Blu (2009), and NJOY (2006))によって開発されましたが、2013年までに、200以上のブランドが現れ、その成長は、タバコ製品を脅かしています。
クウェルチ教授は次のように述べます。もし私が、電子タバコに飲み込まれていくタバコ産業なら、自分の電子タバコのブランドを開発するか、電子タバコの会社を買います。実際、ナンバー3のタバコ会社、「Lorillard」は、電子タバコ会社「Blu」を、1.35億ドルで購入しました。電子タバコは税金がかかりませんので、業者は、同じ値段で販売しても、利益がまるで違います。例えば、ニューヨークで、一箱14.5ドルのタバコを買うと、そのうち、4.35ドルは州税、1.5ドルは市税となります。
ただし今後、電子タバコがタバコと同じ規制になると、電子タバコの市場の成長は止まり、これまでと同様にタバコの消費が優勢となると思います。いずれにしても、タバコ産業が市場を管理することになりそうですね。クウェルチ教授は、ビジネスを決めるときに、そのビジネスが公衆衛生に及ぼす影響をしっかり考えるべきだと述べています。
2014年6月11日に、日本たばこ産業(JT)が、英国の電子たばこ会社ザンデラ(ウスターシャー州)を買収すると発表し話題になりましたよね。これは、ビジネスとしては大きなチャンスだと思いますが、公衆衛生には負の影響を及ぼすと思います。
さて最後に、米国でマリファナ合法化が急速に進んでいます。
参照:http://www.fsight.jp/26840
米国では、医療用のマリファナを使用している州も多く、米国人のマリファナに対する考え方は、驚くほど日本人と異なります。ただし、特に娯楽用のマリファナの合法化に関しては、反対の意見もあり、科学者たちの間でも、その安全性が大議論になっています。
結局、知り合いはマリファナに投資することに決めたようです。繰り返しになりますが、クウェルチ教授がおっしゃるように、ビジネスを決めるときに、そのビジネスが公衆衛生に及ぼす影響をしっかり考えるべきだと思います。
【略歴】おおにし むつこ
内科医師、ボストン在住。医学博士。東京女子医科大学卒業。国立がんセンター、東京大学を経て2007年4月から7年間、ハーバード大学リサーチフェローとして研究に従事。
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