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Vol.158 大西睦子の健康論文ピックアップ ~「運動しているのに太っている人」のダイエット

医療ガバナンス学会 (2014年7月17日 06:00)


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この原稿はロバスト・ヘルスより転載です。

http://robust-health.jp/

内科医師
大西 睦子

2014年7月17日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


健康維持のために運動を続けている人は少なくないですよね(それだけでもスゴイと思ってしまいますが)。でも、問題は「運動しているのに太っている人」で、日常的に体を動かすことがあまりない人とは、ダイエットの際にも気を付けることが多少違ってくるようです。ただ、動機を付けるのかは、誰しも知っておいてよさそうです。

理想の体重を維持するにあたって、もし、「エネルギーのバランスが、(摂取カロリー)–(使ったカロリー)=0 という単純な計算に従えばいい」というのなら、話は簡単なはずです。ところが、この古典的なエネルギーバランス方程式は成立しません。
よくある間違いは、 他のすべての要因を考慮せずに、方程式の両側だけで計算し、摂取と消費の差が3,500kcal増減すれば、常に体重が約0.5kg増減すると仮定することです。

これについてはSwinburn氏とRavussin氏が、例えば75kgの男性が40年間毎日100kcal余分に摂取した場合に、何が起こるかを明らかにしました。エネルギーバランス方程式に従えば、このエネルギー量は150万kcalに等しくなり、この期間に190kgの体重増加が推定されます。ところが、現実にはそうはなりません。なぜなら実際は、多くの要因がエネルギーバランス方程式に影響を与え、最終的に体重を決定するからです。
●エネルギー摂取に影響する要因:

食べた量、食べた物の栄養素成分、食物繊維※1の摂取量、食べ物の種類、身体活動に関連した食事のタイミング、今の体重、食欲調節ホルモンなど

●エネルギー消費に影響する要因:

日常生活の活動量、身体組成、遺伝的背景など

例えば、激しい運動は食欲調節ホルモンを鈍らせ、 エネルギー摂取量が減ることがあります。また、トレーニング以外でも日常的に非常に活発なアスリートと、一方で、トレーニングしていないときは体をほとんど動かさないアスリートでは、エネルギー消費量が違います。

さらに、今日の社会では環境因子が加わり、体重管理がますます難しくなっています。 美味しい食べ物が手軽に比較的安価に、かつ豊富にあふれているからです。また、生活スタイルとしても、活発に体を動かさずにじっと座っている時間が長くなり、消費カロリーが減っています。

現在、米国の成人人口の約66%が過体重~肥満で、34%は肥満です。その中で、このところ指摘されているのが、アスリートの肥満です。
米国は今、かつてないほど太りすぎのアスリートの数が増えていますが、 多くは肥満の危機に気づいていません。全国的に、高校フットボールのラインバッカー(ポジションの一種)の45%以上は、肥満と報告されています。大学レベルのスポーツでも、太り過ぎの学生の数が増えています。Borchers氏 らの調査によると、ハイレベル(division 1所属)の大学のアメフト選手、平均年齢20歳の21%が肥満(体脂肪25%以上)で、インスリン抵抗性※2を有しており、9%がメタボリックシンドローム※3でした。オレゴン州立大学のMelinda Manore教授は、アスリートに対して、脂肪を燃焼しながら筋肉を維持するには、トレーニングに加えて、高繊維、低脂肪などバランスのとれた食事が重要であることを報告しました

問題は、アスリートは既に活動的になっているので、運動をしない人たちとは対策が違ってくる点です。運動量を増やしたり、定番のトレーニングメニューを変更する選択肢が、もうないかもしれません。医療専門家は、アスリートは自分の体重目標を達成するために、医療専門家から科学的根拠に基づく効果的な栄養指導を受けるる必要がありそうです。

Melinda Manore教授は、多くのアスリートが、筋肉(除脂肪体重lean tissue)を失うことなく減量したり筋肉を増やそうとしても不健康かつ持続不可能な方法だったり、一過的な流行ダイエットや無理なカロリー制限だったりで、実現できないことも指摘しています。この間違ったダイエットは、疲労感を増やし、動けなくなるばかりか怪我の危険があります。ですから、カロリーだけ計算してもダメなのです。大切なのは、健康的なライフスタイルです。教授は、アスリートの最適な体重維持、パフォーマンス向上のために、いくつかの戦略を概説しました。
≪キーポイント≫

1.エネルギー密度の低いダイエット(Low-Energy-Dense diet)を取り入れる:

エネルギー密度とは、食べ物の重さに対するカロリー(kcal/g)を示します。低エネルギー密度の食べ物は、高いエネルギー密度の食べ物に比べて、グラム当りのカロリーが低くなります。具体的には、水分0 kcal/g、食物繊維1.5-2.5 kcal/g、タンパク質4 kcal/g、炭水化物4 kcal/g、脂質9 kcal/gで、水分や食物繊維をたくさん含んだ食品が低エネルギー密度の食べ物ということになります。例えば、野菜や果物が代表例。逆に、ドーナツ、フライドポテトなどは、高いエネルギー密度の食べ物となります。このダイエットでは果物、野菜、全粒穀物※4、赤身の肉、魚、低脂肪の乳製品を摂りますが、毎回お皿の半分が果物や野菜で満たされるようにします。。加工食品は避けます。砂糖、特にソーダやアルコールの高い飲料を避けるのはもちろん、その他の飲み物でカロリーを摂らないようにして下さい。例えば、オレンジジュースを飲むかわりに、オレンジを食べて下さい。オレンジは、多くの繊維と栄養素を含んでいます。
2.朝食を食べること:

アスリートには、運動トレーニングと食物摂取のタイミングが重要です。Astbury氏らは、朝食を食べた男性は昼食摂取量が17%減少していることを報告しています。National Weight Control Registryは、6.6 kgの減量を少なくとも1年維持した人々の80%は、朝食を食べる人であったことを報告しています。朝食を食べないと食欲が亢進し、長期的には体重増加につながる可能性があります。アスリートのために朝食は特に重要で、一晩の絶食後にグリコーゲン※5を補充し、運動のための燃料を提供します。高繊維の全粒穀物や、果物、卵白のような高品質のタンパク質、低脂肪の乳製品を豊富に取り入れた朝食をとることが大切です。
3.タンパク質を摂る:

ほとんどのアスリートは、タンパク質を多く摂取しています。 ところが多くの人は、それを1回の食事でまとめて摂取しています。しかしアスリートは一日のうちに分散して十分な高品質のタンパク質を摂取する必要があるのです。特に、運動後や朝食時に補給するようにしてください。肉類だけではなく、ナッツや豆類はタンパク質の優れた供給源です。タンパク質は筋肉の維持・増強のために重要なだけでなく、満腹感の増加やカロリー摂取量の減少とも関連しています。減量中のアスリートは、運動後に補給することが重要です。
4.高カロリー飲料の摂取量を減らす:

高カロリー飲料は、食事の摂取量を減らすわけではないのにむしろ食事に余分なエネルギーを追加してしまいます。
5.いわゆる流行ダイエットを避ける:

むやみに激しいトレーニングと厳しいカロリー制限を組み合わせると、以下の問題が起こります。

–栄養摂取量が減るとトレーニング能力が減り、パフォーマンスが低下
–疲労と筋肉の喪失で、怪我のリスクが増加
–厳しいエネルギー制約から、食行動の乱れのリスクが増加
–脱水のリスクが増加
–栄養不足・失調のリスクが増加
–エネルギー制限食により、空腹、疲労やストレスからくる、精神的苦痛が増加
このダイエットは、競技をするアスリートだけではなく、楽しみでスポーツをされている方、これからダイエットを始めようと考えていらっしゃる方、どなたにもお薦めです。試してみて下さい!最後に一言。お弁当箱はぜひ大きなものにして、その分、低エネルギー密度の食べ物をたくさん入れるようにしてみて下さいネ!

※1・・・人の消化酵素では消化することのできない食べ物の中の成分で、小麦ふすま(ブラン)に含まれるセルロースに代表される水に溶けない不溶性食物繊維と、果物に含まれるペクチンに代表される水に溶ける水溶性食物繊維とがあり、これらを合計したものが食物繊維(総)量。便の量を増やし、また腸内細菌の餌となって便秘を防ぐほか、心筋梗塞、糖尿病、肥満などの生活習慣病の予防に役立つことが分かってきている。穀物、いも、豆、野菜、果物、きのこ、海草などに多く含まれるが、一般的日本人の食物繊維摂取量は少なく、 「日本人の食事摂取基準(2010年版)」では成人の食物繊維「目標量」を1日18g以上(男性では19g以上、女性では17g以上)としている(ただ、心筋梗塞による死亡率の低下が観察された研究では1日24g以上と報告されている)。

※2・・・インスリンは、すい臓から分泌され、筋肉や脂肪細胞が血液中のブドウ糖を取り入れる量を調節しているホルモン。インスリンへの反応が低下し、十分作用しない状態が「インスリン抵抗性」で、そうなると体はもっと大量のインスリンを出して血糖値を調節しようとする。この状態を「インスリン抵抗性の増大」あるいは「インスリン感受性の低下」と言う。やがてその能力が衰えれば高血糖になり、メタボリックシンドローム(※3)、そして糖尿病へと進行してしまう。

※3・・・内臓脂肪型肥満に加えて、高血糖、高血圧、脂質異常のうちいずれか2つ以上をあわせもった状態(内臓脂肪症候群)。糖尿病や高血圧症、高脂血症等の生活習慣病を併発しやすく、まだ病気とは診断されない予備群でも動脈硬化が急速に進行する。

※4・・・玄米、全粒小麦、雑穀など、未精製の穀物のこと。精製の過程で失われるビタミンやミネラル、食物繊維などの栄養素を豊富に含む。白米、砂糖、小麦粉など、精製された炭水化物は血糖値を急激に上げるが、全粒穀物は食物繊維を含むため、血糖値の上昇は緩やかで、急激なインスリンの分泌が抑えられ、満腹感が持続する。さらに、総コレステロール、悪玉(LDL)コレステロール、中性脂肪などを下げる働きもある。全粒穀物の摂取によって、心臓病、2型糖尿病、肥満や大腸がんのリスクを減らすことが報告されている。

※5・・・余剰のグルコースを一時的に貯蔵しておく貯蔵多糖で、動物デンプンとも呼ばれる。肝臓と骨格筋で主に合成されるが、骨格筋中ではグリコーゲンは骨格筋重量の1-2 %程度の低い濃度でしか貯蔵できないのに対し、肝細胞は食後直後に肝臓重量の8 %(大人で100-120 g)までのグリコーゲンを蓄えることができ、肝臓に蓄えられたグリコーゲンのみ他の臓器でも利用することができる。グリコーゲンは直接ブドウ糖に分解できるのが利点。
【略歴】おおにし むつこ
内科医師、ボストン在住。医学博士。東京女子医科大学卒業。国立がんセンター、東京大学を経て2007年4月から7年間、ハーバード大学リサーチフェローとして研究に従事。

大西睦子の健康論文ピックアップのバックナンバーがそろっています。

http://robust-health.jp/article/cat29/mohnishi/

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