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臨時 vol 181 高久通信 「間接喫煙の害」

医療ガバナンス学会 (2008年11月28日 10:55)


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自治医科大学 学長 高久史麿


 日本ではいまだ実現していないが、外国では市や国レベルで、食堂、喫茶店を含めたすべての公共の場所を禁煙とする施策が行われているところが多い。実施国の中でも目立つのがイタリアで、2005年1月以来、事務所、小売店、レストラン、パブ、ディスコ等、すべての公共の場所での喫煙が禁止となった。その全面禁止による心筋梗塞等、急性冠動脈疾患への影響について、最近報告があったので紹介したい1)。
対象となったのは、ローマ市の住民で、公共の場での禁煙が始まる前の2000~2004年の5年間と、開始された2005年の1年間の急性冠動脈疾患の発症率を年齢別に分けて調査している。その結果、間接喫煙の防止により、急性冠動脈疾患の発症率は35~64歳の年齢層では禁止前の15.3%から11.2%に、65~74歳の層では12.2%から7.9%へと有意に減少していた。また、75歳以上の高齢者の間では、この禁煙による急性冠動脈疾患の発症率に相違が見られず、その理由について、研究者らはこの年代の高齢者は自宅にいる時間が長い、すなわち公共の場所に滞在する時間が短いため、2005年以降の公共の場所での禁煙の影響を受けなかったのであろうと推定している。
公共の場所、特にレストランやバーでの間接喫煙の害を最も受けるのは、当然のことながらそれらの店の従業員である。例えばアイルランドでは、2004年にバーを全面禁煙にしたところ、従業員の呼吸器疾患が明らかに減少したとのことである。 間接喫煙で最も問題になるのは、家庭内である。こればかりは法律で取り締まることができず、喫煙者の心掛けに任せるしかない。家庭内喫煙で最も問題になるのは、子供への健康影響で、この問題に関連した話題が最近、香港の研究者らによって報告されている2)。彼らは1997年に生まれた7,402人の子供を8年間にわたって追跡した。これらの子供のうち42%が家庭内で間接喫煙にさらされていた。その中で、生後18カ月以内に身近で間接喫煙にさらされた子供が8歳までに感染症のために入院した頻度について、間接喫煙にさらされない子供と比較して14%も高かったとのことである。しかも、この影響は生後3カ月以内の間に間接喫煙にさらされた乳児で特に著しく、これらの乳児では3人に1人が生後1年以内に感染症のために入院している。香港と同様に男性の喫煙率が高いわが国への警告といえるであろう。
家庭内喫煙のもうひとつの話題として、夫婦ともども喫煙者である場合、どちらか一方が禁煙すると、他方も禁煙する確率が67%に達するというアメリカのボストン大学の研究者の報告がある3)。ちなみに兄弟の場合には一人が禁煙しても他の兄弟が禁煙する割合は25%にすぎず、むしろ親しい友人の禁煙の影響の方がより強く、36%が禁煙すると報告されている3)。 この例が示すように、禁煙への影響の場合、夫婦間以外では、友人間のネットワークを通じての行動が有効なようである。
●プロフィール・たかく ふみまろ
1954年東京大学医学部卒。72年自治医科大学教授、82年東京大学医学部教授、88年同医学部長、95年東京大学名誉教授、96年自治医科大学学長、04年日本医学会会長。医療の質・安全学会理事長。

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