最新記事一覧

Vol.178 医療事故の法的定義―西澤研究班は改正医療法に違反する医療事故調ガイドラインを作るつもりなのか?

医療ガバナンス学会 (2014年8月13日 06:00)


■ 関連タグ

井上法律事務所

弁護士
井上清成

2014年8月13日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


1.厚労省HPの研究班会議概要
現在、平成26年度厚生労働科学研究費補助金に基づき、「診療行為に関連した死亡の調査の手法に関する研究」(研究代表者・西澤寛俊全日本病院協会会長)が進んでいる。その研究班会議は、「6月18日に成立した改正医療法に盛り込まれた医療事故調査制度について、厚生労働省が行うこととなっているガイドライン等の策定に資するよう、これまでの研究成果やモデル事業の実績などを踏まえつつ、学問として実務的な検討を行う場として設けられている」らしい。つまり、改正医療法に基づく医療法施行規則・告示・ガイドラインを作成するための厚労科研費研究である。公金を投入しての研究であるから、当然、そこに不正・不当があってはならないし、研究内容も研究協力者達の勝手な「思い」だけであってはならない。改正医療法に則ったものでなければならないのである。

ところが、この7月30日の第2回班会議の会議概要には、「①事案の標準化のための具体的な届出基準・具体的事案の例示等の考え方」について、「まとめると以下のとおりと考えられた。○平成16年の通知による分類に、モデル事業での具体的事例をもとにして整理すること」とあった(平成26年8月8日更新の厚労省HPより)。しかしそれでは、改正医療法に違反してしまうと思う。

2.平成16年の通知による分類
平成16年の通知とは、平成16年9月21日付け医政発第0921001号厚生労働省医政局長通知「医療法施行規則の一部を改正する省令の一部の施行について」のことである。医療法第16条の3第1項第7号、医療法施行規則第9条の23に法的根拠を有し、日本医療機能評価機構が行う医療事故情報収集等事業に関して定めた通知であった。もちろん、医療事故情報収集等事業は、日本医療安全調査機構がその実施主体になると名乗りを上げている医療事故調査・支援センターの事業とも、改正医療法に基づく医療事故調査制度とも、その内容も法的根拠も異なっている。したがって、平成16年通知をみだりに医療事故調査制度に流用してはならない。

(1)事故報告範囲具体例
平成16年通知の参考2によれば、事故報告範囲具体例は、下記のとおりである。

1.明らかに誤った医療行為又は管理に起因して、患者が死亡し、若しくは患者に障害が残った事例又は濃厚な処置若しくは治療を要した事例。
【医療行為にかかる事例】
・異物の体内遺残
・手術・検査・処理・リハビリ・麻酔等における、患者や部位の取り違え
・明らかに誤った手順での手術・検査・処置・リハビリ・麻酔等
・重要な徴候、症状や検査結果の見落とし又は誤認による誤診
【医薬品・医療用具の取り扱いにかかる事例】
・投薬にかかる事故(異型輸血、誤薬、過剰投与、調剤ミス等)
・機器の間違い又は誤用による事故
【管理上の問題にかかる事例、その他】
・明らかな管理不備による入院中の転倒・転落、感電等
・入院中に発生した重度な(筋膜(Ⅲ度)・筋層(Ⅳ度)に届く)褥瘡

2.明らかに誤った医療行為又は管理は認められないが、医療行為又は管理上の問題に起因して、患者が死亡し、若しくは患者に障害が残った事例又は濃厚な処置若しくは治療を要した事例。(医療行為又は管理上の問題に起因すると疑われるものを含み、当該事例の発生を予期しなかったものに限る。)
【医療行為にかかる事例】
・手術・検査・処置・リハビリ・麻酔等にともなう予期されていなかった合併症
・リスクの低い妊産婦の死亡
【医薬品・医療用具の取り扱いにかかる事例】
・医療器具等の取り扱い等による重大な事故(人工呼吸器等)
・チューブ・カテーテル等の取り扱いによる重大な事故
【管理上の問題にかかる事例、その他】
・熟練度の低い者が適切な指導なく行った医療行為による事故
・入院中の転倒・転落、感電、熱傷
・入院中の身体抑制にともなう事故
・その他、原因不明で重篤な結果が生じた事例

3.上記1、2のほか、医療に係る事故の発生の予防及び再発の防止に資すると認める事例。
※ヒヤリ・ハット事例に該当する事例も含まれる。
【医療行為等にかかる事例】
・移植にともなう未知の感染症
・遺伝子治療による悪性腫瘍
・汚染された薬剤・材料・生体由来材料等の使用による事故
【管理上の問題にかる事例】
・間違った保護者の元への新生児の引き渡し
・説明不足により、患者が危険な行為をおかした事例
・入院中の自殺または自殺企図
・患者の逸脱行為による転倒・転落、感電等
【犯罪、その他】
・院内で発生した暴行、誘拐等の犯罪
・無資格者・資格消失者による医療行為
・盗難

(2)報告範囲の考え方
平成16年通知の参考1には、報告範囲の考え方が整理されている。注意書きもあり、特に重要な点は次の2つであると思う。

1つ目は、注4で「事故とは、過誤および過誤をともなわない事故の両方が含まれる。」として、事故と過誤を切り分けようとしていることである。

2つ目は、注2で「ここにいう『管理(管理上の問題)』では、療養管理の問題の他に医療行為を行わなかったことに起因するもの等も含まれる。」として、いわゆる医療の不作為は「管理」に分類された。

3 改正医療法による医療事故の定義
ところで、改正医療法第6条の10第1項では、「医療事故」を、「当該病院等に勤務する医療従事者が提供した医療に起因し、又は起因すると疑われる死亡又は死産であって、当該管理者が当該死亡又は死産を予期しなかったものとして厚生労働省令で定めるもの」と定義している。医療法施行規則第9条の23や平成16年通知と比べると、この違いは明瞭であろう。
まず、参考2の事故報告範囲具体例の1に定める「誤った」事例が、改正医療法からは外されている。もちろん、3の事例もない。つまり、2の「予期しなかった」事例だけが改正医療法にいう「医療事故」と定義された。
次に、参考2の事故報告範囲具体例に定める「管理上の問題」も、改正医療法からは外されている。「管理(管理上の問題)」にはいわゆる不作為(医療行為を行わなかったこと)も含まれているのだから、改正医療法からは「不作為」も外されたと言えよう。
つまり、平成16年通知の参考2(事故報告範囲具体例)中、2の「予期しなかった事例」のうち、「医療行為にかかる事例」と「医薬品・医療用具の取り扱いにかかる事例」だけが、改正医療法にいう「医療事故」の対象となったのである。したがって、西澤研究班の研究では、改正医療法に沿うように、平成16年通知による分類からかなりの絞りをかけなければならない。

4 西澤研究班は法治主義の遵守を
西澤研究班は、厚労省令・告示・ガイドラインを作るための研究であるのだから、法治主義(法律による行政の原理)に違反するかのような内容の研究をしてはならないと思う。ここでは、その一例として、「医療事故」の法的定義をとり上げた。改正医療法に基づく医療事故調査制度の研究項目は多岐にわたっている。「医療事故」の定義にとどまらず、いずれの研究項目についても、法治主義(法律による行政の原理)を十分に遵守した研究が進められることを望む。

MRIC Global

お知らせ

 配信をご希望の方はこちらのフォームに必要事項を記入して登録してください。

 MRICでは配信するメールマガジンへの医療に関わる記事の投稿を歓迎しております。
 投稿をご検討の方は「お問い合わせ」よりご連絡をお願いします。

関連タグ

月別アーカイブ

▲ページトップへ