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Vol.180 私たちが「造影剤誤投与などの単純ミスは届けない」とする理由

医療ガバナンス学会 (2014年8月15日 06:00)


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現場からの医療事故調ガイドライン検討委員会委員長
現場の医療を守る会 代表世話人
坂根Mクリニック 坂根みち子

2014年8月15日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

造影剤の誤投与などの単純ミスは届け出る必要がない、と言ったら、「ミスしたとはっきりわかっているのに届け出なくていいのか」と医療関係者でさえ疑問に思うと思います。
どういう事でしょうか。
ミスがあったら、まず患者側と向き合って迅速に真摯に対応してする、この時にごまかしたり隠蔽したりするのはもっての外です。そして、院内の規定に沿って患者さんの保障はしっかりしていただきたい。これは今作られている医療事故制度と関係のない医療に携わる者としての基本です。患者側とのコミュニケーション不足が時に不要な紛争化を招きます。

今回成立した法律では、医療現場で「管理者が」予期せぬ死亡があったとき、第3者機関に届けて院内事故調査をし再発防止に役立てる、というものです。
誤薬等の単純ミスは、すでに医療機能評価機構という組織が事例を積み重ねています。それなのにこの手の事故が繰り返されているのはなぜでしょうか。それはこれらの組織が分析だけして再発防止策をとってこなかったからに他なりません。現場の教育、ダブルチェック、過重労働への配慮ほか、誤薬等の単純ミスを起こさないために、スイスチーズの穴を塞ぐように幾重もの防御策を練ってシステムエラーを防いでいかなければいけないのですが、組織を作って分析してそれで終わり、国は現場が具体的に再発防止策をとれるような予算措置をしてこなかったのです。
またどういった事例を届け出て医療事故調査制度を作ればいいかというモデル事業は、医療安全調査機構が担ってきました。ここでのやり方は、医療事故が疑わしいものも含めすべて届け出るというものです。1事例あたり、平均10ヶ月、95万の費用と、調査のために9人の医師の動員が必要でした。マンパワーとコスト、時間がかかりすぎ、「本当に大変だった、これを制度として広げるのは現実的ではない」という評価が委員の間からもだされていた(1)という代物です。
それではこの事業の費用対効果はどうだったかというと、「遺族に感謝されている」という極めてあいまいな評価しかされておりません。現場の負担がどれくらいあったのか、当事者の意見聴取はなされていません。その後の新モデル事業でも年1億8千万円もの予算をかけて1年間にたった20例から30例の事例にしか対応できませんでした。(2)
そしてこれが再発防止策に生かされたかというと、最近起こった脊髄造影剤の誤投与事件が、現在の医療事故ガイドラインを作成している西澤班の中心メンバーである日本医療安全調査機構 中央事務局長 木村壮介医師の在籍していた病院で起こっているということから見ても明らかでしょう。西澤班の中心メンバーの方々のお膝元でさえ、現場へのフィードバックはなされていなかったのです。
現場のシステムの改善が放置されたままなのを管理者は知っています。したがって誤薬等の単純ミスは起こりうること、と管理者は予期していたことになり法律的にも届け出の対象とはならないのです。
こういう視点で考えると現場の医療者もある意味被害者です。システムのエラーを放置されたまま、事故が起こると個人の責任に矮小化され、メディアにさらされ、さらに「念のため警察に届けられ」業務上過失致死罪に問われる可能性まで出てきてしまうのです。
患者を守るのと現場の医療者を守るのは表裏一体です。どちらも守るという視点がないと医療安全の向上は望むべくもないどころか、持続可能な医療制度にはなりません。

私達、現場からの医療事故調ガイドライン検討委員会では、届け出の対象として、現場の医師も管理者も予期しなかった場合に限ることを要望していきます。医療事故調査は、時間もお金もマンパワーもかかります。したがって、原因がわからずきちんと分析して再発防止に役立てる症例に限定すべきです。
医療機能評価機構と医療安全調査機構という組織の温存だけされても、現場はさらに疲弊するだけです。その予算があるなら現場に落としてほしい、再発防止策を具体化して欲しい、これが最前線でブラック企業よりひどい職場環境で働き続ける医療者たちの切なる願いです。

1)「死因究明モデル事業は、本当に面倒で大変」

https://www.m3.com/iryoIshin/article/87321/

2)“事故調”モデル事業、厚労相に三つの要望提出

https://www.m3.com/iryoIshin/article/155628/

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