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臨時 vol 175 「中国四国地区における若手血液臨床医による研鑽・育成の取り組み」

医療ガバナンス学会 (2008年11月25日 11:03)


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岡山大学大学院 血液・腫瘍・呼吸器・アレルギー内科学
西日本若手血液臨床医ネットワーク(West-JYH) 事務局
小林孝一郎



近年の医療を取り巻く環境や研修制度の変化により、血液内科を志す若手医師は減少しつつある。大学単位での人材や情報の交流は限られており、特に若手医師が不足する地方では、閉塞状況に陥っている。そこで、今回、私たちは中国四国地区において、若手血液臨床医自らの運営によるネットワークを立ち上げ、「他流試合」を通じて地域単位で血液内科の輪を広げていく試みを行った。
●はじめに
血液内科は専門性の高い分野であるが、近年の遺伝子レベルでの病態の解明と分子標的治療薬の開発、造血幹細胞移植治療の発展によりに原因究明から治癒を目指した医療まで幅広く発展性のある分野となっている。治療により患者は実にさまざまな転機を辿ること、まだまだ未解明の部分も多いことから個々の受け持ち症例は多くの教訓と示唆に富み、大変貴重な経験となる。
血液内科はそんな魅力あふれる分野であるが、近年の医療を取り巻く環境や卒後研修制度の変化により、血液内科を志す若手医師は減少しつづけ、わが国における血液内科医は慢性的な人材不足となっている。若手医師が入ってこない施設の残された医師はますます多忙となり、悪循環に陥り、疲弊しているのが現状である。中国四国地区においても若手医師が不足し、これまで大学を中心とした人材派遣と教育交流の基盤は崩れ、各地で閉塞状況に陥っている。そこで私たちは、中国四国地区において、若手血液臨床医自らの運営による勉強会(中国四国血液レジデントカンファランス)を立ち上げ、学閥や施設を越えた、いわば「他流試合」を通じて地域単位で血液内科の輪を広げ、血液内科診療の醍醐味を伝えていく試みを行うこととした。
●血液レジデントカンファランスの誕生
はじめに、交流のあった徳島大学に連絡を取り、趣旨を説明、若手医師によるカンファランス設立に対する賛同をいただいた。中国四国レジデントカンファランスは、(1)中国四国地区の各血液診療施設における治療情報の共有、(2)若手血液臨床医間での意見交換と知識の整理、(3)初期・後期研修医への魅力ある血液内科臨床の紹介、を主な目的として2006年9月に発足した。年4回の勉強会を定期的に開催し、2008年10月までに計7回の勉強会を開催した。
設立にあたり、岡山大学と徳島大学が幹事となり、事務局を岡山大学に設置した。次に、カンファランスに参加していただける大学や各施設の部長先生を中心に顧問になっていただき、若手の活動を暖かく見守っていただく環境作りを行った。なるべく「オープンで顔の見えるアットホームな会」をモットーとし、幹事会では、症例発表とミニレクチャーを中心にした内容とすることを決めた。
●レジデントカンファランスの開催と運営
第1回カンファランスは、2006年9月23日に岡山市で開催し、11名の出席があった。初期研修医、後期研修医による非ホジキンリンパ腫の症例発表に続き、「岡山大学病院における造血幹細胞移植の現状」と題したミニレクチャーが行われた。その後、倉敷中央病院と岡山市民病院が幹事に加わり、当番施設の持ち回りで、季節に1度勉強会を開催している。第2回では造血幹細胞移植アンケートを実施し、施設毎の対処法に違いで大いに盛り上がった。さらには、学術講演会と称し、2007年11月に岡山大学病理・病態学の市村先生をお招きし、講演会「若手血液病理医による悪性リンパ腫診断についての鑑別診断」を開催した。医学生、研修医からの参加も多数あり、有意義な会となった。
現在は、岡山大学、徳島大学、倉敷中央病院、山口大学、中国中央病院の5施設5名の幹事により会は運営されている。レジデントだけによるカンファランスは、ともすれば若手医師であるが故の誤解などの危険性も伴うことから、施設を代えながら毎回、卒後10年目程度の先生に来ていただき、修正とコメントをいただいている。これまで、のべ14施設105名の若手医師の参加があった。カンファランスでは、参加者アンケート調査を実施し、会の進行や構成の良し悪し、発表演題への評価、感想や意見を聞き取り、カンファランスの質の向上に努めている。また、カンファランスの後は情報交換会を開き、症例の相談や各施設の現状などの意見交換を行っている。カンファランスの設立により、これまでほとんどなかった他施設の先生との交流の場ができ、新たなネットワークが形成されつつある。
●メーリングリストWest-JYHの設立
カンファランスの定期開催で、若手血液臨床医の交流が目に見える形になってきたものの、季節に1度の会では日常業務の忙しさなどで当日参加できないこと、症例の相談などがタイムリーでできないことなどの意見があった。そこで、メーリングリストを設立し、メールという手段を通じてリアルタイムに交流が図れる状況を構築した。メーリングリストでは、(1)血液レジデントカンファランスの演題募集、案内および質疑、(2)中国四国地区で実施される様々な講演会、研究会の案内、(3)症例の相談やアンケート調査、(4)血液診療に関する有益な情報など、を配信している。地理的条件、日程などの理由でカンファランスに参加困難な先生にも届くよう、より広く学閥や施設の垣根を越え、West-Japan Young Hematologists (West-JYH)とメーリングリストを名づけ、血液関連情報を配信している。
このメーリングリストは、インタラクティブ形式としており、メンバーであれば誰でも配信ができるようにしてある。メールマガジンのように一方的にnewsを受診するのではなく、メンバーがお互いに意見を送りあい、情報をシェアする中で交流を図ることができるようにしている。関西や九州からもメンバーの参加があり、2008年3月の設立から現在までに、20施設70名からなるメーリングリスト集団を形成し、のべ70件以上のメールが配信された。
●医療情報ネットワークとしてのWest-JYH
中国四国地区の若手血液臨床医の研鑽・育成の取り組みは当初は定例勉強会として発足したが、その後メーリングリストの活用もあり、現在は、この若手医師間の医療情報ネットワークをWest-JYHの名のもとに、カンファランスとメーリングリストを大きな柱として活動を展開している。West-JYHは血液内科領域で仕事をする医師であれば研修医はもちろんのこと誰でも参加できるオープンな緩やかなネットワークであり、中四国で情報を共有し、自施設における治療方針や結果を振り返り、学び得たものを日常臨床に還元することが目標である。
このネットワークを通じて症例の相談や、多施設アンケート調査の実施などこれまでこの地区で実現が困難であった内容が可能となった。また、造血器腫瘍の治療成績向上のために症例を持ち寄り、このネットワークを通じて後方視的研究を行いたい希望の声も上がっており、勉強会発足後2年を経た現在、若手を問わず、中国四国地区の血液臨床医全体の中でWest-JYHの存在が認識されつつある。この地域における若手血液臨床医が自由に意見や議論ができる「他流試合」の場ができ、そこから大学を越え、施設を越え、地域という単位で血液臨床の輪が広がってきている。今後は他地域の若手血液臨床医との交流も図っていきたい。
●課題と今後の展望
ネットワークとしてのWest-JYHの継続については、いくつかの困難もある。その一つに地域の特殊性として、東京や名古屋地区のような大都市を持たない中国四国エリアに、しかも広範囲に点在する一般診療が主体である中規模病院が多いという点があげられる。勉強会開催にも距離の問題や多忙な診療業務もあり、頻繁に集まることができない点についてはメーリングリストを活用することと、学会、研究会で声かけや意見交換を通じて親睦を深めるよう努力している。また、このネットワークは臨床試験を遂行する多施設共同研究グループではないため、ネットワークの必要性や興味の共有などが維持できず、何を目的としているのか今一歩理解できないという意見がある。
このネットワークの設立は、中国四国地区における大学および関連施設からなる各学閥単位での閉鎖性と、今日の卒後臨床研修制度による研修医の大都市への流出によって生じた地方の医師不足に端を発している。地方にいる医師が「地方としてのまとまり」をみせ、「一体となって教育、診療および研究に取り組む」ことで、この地区が血液診療を行う上で魅力あふれる地域となれば、人材は必ず集まってくると考えている。そのために、できることとして「大学という垣根を越えて地域単位で交流を行い、若手医師が主体性をもって取り組むことで大都市同様、大いに学び、成長できる場がある」という環境づくりを現在、行っている。それが、West-JYHネットワークである。
2007年3月に鳥取で開催された日本血液学会中国四国地方会では、「今後の中四国領域の血液診療を素晴らしいものにするために」と題した施設アンケート調査およびパネルディスカッションが行われた。その中で、(1)施設間で気軽にメールで情報交換ができる関係を築く、(2)新人のリクルートに協力して取り組み、魅力的な分野であることを伝える、(3)若手の人事交流を行い、情報交換の場を作る、などの意見が相次いだ。各施設の責任医師の多くが、こうしたWest-JYHのようなネットワークの必要性を感じていたことが伺える。今後は何らかの形で、血液学会中国四国地方会や本地区の多施設共同研究グループであるWest-JHOGと連携を図っていきたいと考えている。
●おわりに
エレクトロニクスや交通網の発達により世界はますます身近となり、言葉や医療に国境は無くなり、世界では実にさまざまな人材交流がなされている。わが国における道州制の話題もあるように、橋により瀬戸内海という境界がなくなった中国地方と四国地方において今後、大学や施設の壁を越えて人材や意見の交流が促進され、世界に情報を発信できるような環境が整っていけばと切に願っている。そのためにまずは、各施設の若手血液臨床医がカンファランスで「見たこと、聞いたこと、感じたこと」を各施設に持ち帰り、明日の臨床に還元してもらえるような会にしていかなければならない。臨床や血液内科医のキャリアアップに役立つような内容のメーリングリストにもしていかなければならない。私自身もまだまだ知識および経験が不足しており、このネットワークを通じて、様々な血液疾患・症例の勉強ができればと思っている。
今回、勉強会およびネットワークの立ち上げを通じて、無形から有形のものを作りだす作業は苦労が多く、合意を形成し、認知され軌道に乗るまでには時間を要するということがわかった。と同時に、「作り上げる楽しさ」という喜びも実感でき、大変貴重な経験となった。現在はまだ小さなネットワークであるが、ここから絶えず情報を発信し続けていくことが、中国四国地区全体の活性化につながり、各県に血液を志す若手医師が増え、魅力あふれる地域に変わっていくものと信じている。こうしたWest-JYHの地道な活動が近い将来、大きな流れとなり、魅力あふれるYoung Hematologistsのcultureが全国へと広がり、やがてはわが国全体の血液診療への活性化とつながっていくことを目標とし、今後もたゆまぬ努力を続けていきたい。
謝辞
West-JYHの活動は、レジデントカンファランス幹事および参加者、West-JYHメーリングリスト参加者全員の努力により成り立っています。ここに深謝いたします。また、若手の自由な意見交換を見守り、サポートいただいております以下の顧問の先生方(順不同)に深謝いたします。谷本光音先生、杉原尚先生、上田恭典先生、今城健二先生、安倍正博先生、湯尻俊昭先生、宮田明先生、原雅道先生、安川正貴先生、木村昭郎先生、大西宏明先生、角南一貴先生
※この内容は、来る2008年10月10日~12日に京都で開催された第70回日本血液学会総会のポスターセッションで発表いたしました。
※中国四国血液レジデントカンファランスへの多数のご参加、また、メーリングリストWest-JYHへの若手の先生方のご登録、お待ちしています。
連絡先:小林孝一郎Kouichiro.Kobayashi@mb3.seikyou.ne.jp

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