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Vol.194 西澤研究班は医療法に適合する一つの事故調参考案に徹すべき

医療ガバナンス学会 (2014年9月3日 06:00)


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この原稿は『月刊集中』8月31日号からの転載です。
井上法律事務所
弁護士
井上清成

2014年9月3日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

1 研究班会議概要の勘違い
現在、平成26年度厚生労働科学研究費補助金に基づき、「診療行為に関連した死亡の調査の手法に関する研究」(研究代表者・西澤寛俊全日本病院協会会長)が進んでいる。その研究班会議は、「6月18日に成立した改正医療法に盛り込まれた医療事故調査制度について、厚生労働省が行うこととなっているガイドライン等の策定に資するよう、これまでの研究成果やモデル事業の実績などを踏まえつつ、学問として実務的な検討を行う場として設けられている」らしい。しかし、参議院の附帯決議によれば、正しくは、「モデル事業の実績」ではなく、「モデル事業で明らかとなった課題」を踏まえるべきである。欠点の多いモデル事業は真似てはならない。さらにこれは、改正医療法に基づく医療法施行規則・告示・ガイドラインを作成するための厚労科研費研究である。公金を投入しての研究であるから、当然、改正医療法に則ったものでなければならない。もちろん、研究班がガイドラインを定めるわけではないから、それが一つの参考案に過ぎないのも、当り前であろう。
ところが、この7月30日の第2回班会議の会議概要には、「①事案の標準化のための具体的な届出基準・具体的事案の例示等の考え方」について、「まとめると以下のとおりと考えられた。○平成16年の通知による分類に、モデル事業での具体的事例をもとにして整理すること」などとあった(平成26年8月8日修正の厚労省HPより)。しかしそれは、大いなる勘違いであると思う。

2 平成16年通知とモデル事業
平成16年の通知とは、平成16年9月21日付け医政発第0921001号厚生労働省医政局長通知のことである。医療法施行規則第9条の23に法的根拠を有し、日本医療機能評価機構が行う医療事故情報収集等事業に関して定めた通知であった。もちろん、医療事故情報収集等事業は、医療事故調査・支援センターの事業とも、改正医療法に基づく医療事故調査制度とも、その内容も法的根拠も異なっている。モデル事業も同様。したがって、平成16年通知やモデル事業をみだりに医療事故調査制度に流用してはならない。
(1)事故報告範囲具体例
平成16年通知の参考2によれば、事故報告範囲具体例は、おおむね下記のとおりであった。

1 明らかに誤った医療行為又は管理に起因して、患者が死亡した事例。
【医療行為にかかる事例】
【医薬品・医療用具の取り扱いにかかる事例】
【管理上の問題にかかる事例、その他】

2 医療行為又は管理上の問題に起因して、患者が死亡した事例。(医療行為又は管理上の問題に起因すると疑われるものを含み、当該事例の発生を予期しなかったものに限る。)
【医療行為にかかる事例】
【医薬品・医療用具の取り扱いにかかる事例】
【管理上の問題にかかる事例、その他】

(2)報告範囲の考え方
平成16年通知の参考1には、報告範囲の考え方が整理されている。注意書きもあり、特に重要なのは次の点であると思う。
注2で「ここにいう『管理(管理上の問題)』では、療養管理の問題の他に医療行為を行わなかったことに起因するもの等も含まれる。」として、いわゆる医療の不作為は「管理」に分類された。

3 改正医療法による医療事故の定義
ところで、改正医療法第6条の10第1項では、「医療事故」を、「当該病院等に勤務する医療従事者が提供した医療に起因し、又は起因すると疑われる死亡又は死産であって、当該管理者が当該死亡又は死産を予期しなかったものとして厚生労働省令で定めるもの」と定義している。医療法施行規則第9条の23や平成16年通知と比べると、この違いは明瞭であろう。
まず、参考2の事故報告範囲具体例の1に定める「誤った」事例が、改正医療法からは外されている。つまり、2の「予期しなかった」事例だけが改正医療法にいう「医療事故」と定義された。
次に、参考2の事故報告範囲具体例に定める「管理上の問題」も、改正医療法からは外されている。「管理(管理上の問題)」にはいわゆる不作為(医療行為を行わなかったこと)も含まれているのだから、改正医療法からは「不作為」も外されたと言えよう。
つまり、平成16年通知の参考2(事故報告範囲具体例)中、まず1の「誤った」事例が除かれ、2の「予期しなかった事例」のうち、さらに「管理上の問題にかかる事例」が除かれ、「医療行為にかかる事例」と「医薬品・医療用具の取り扱いにかかる事例」だけが、改正医療法にいう「医療事故」の対象となったのである。したがって、西澤研究班の研究では、改正医療法に適合するように、平成16年通知による分類とモデル事業での具体的事例から、さらにかなりの絞りをかけなければならない。

4 西澤研究班は法治主義に適合した一つの参考を
西澤研究班は、一つの参考案にすぎないとは言えども、厚労省令・告示・ガイドラインを作るための研究であるのだから、法治主義(法律による行政の原理)に適合する内容の研究をしなければならないと思う。ここでは、その一例として、「医療事故」の定義をとり上げた。改正医療法に基づく医療事故調査制度の研究項目は多岐にわたっている。「医療事故」の定義にとどまらず、いずれの研究項目についても、法治主義(法律による行政の原理)を十分に遵守した一つの参考案を策定する研究に徹することが望まれよう。

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