医療ガバナンス学会 (2014年9月2日 09:14)
この原稿はハフィントンポストからの転載です。
http://www.huffingtonpost.jp/yuki-maehashi/club-activity_b_5689897.html?utm_hp_ref=japan
東京大学大学院工学系研究科
原子力国際専攻修士課程一年
前橋佑樹
2014年9月2日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
しかし、部活動を強くするというのは中々に難しい。2012年に大阪の桜宮高校で部活動での体罰をきっかけに生徒が自殺した事件が注目を集めたが、ともすると強くしたいと思うあまり、こういった間違った指導に陥ってしまう可能性もある。また、勉強との両立ともなると時間も限られてしまうため、保護者の中には子供には部活動など行わず勉強だけしていて欲しいと考える人も多いだろう。
私は部活動は集中力が向上し、限られた時間の中で勉強が出来るよう工夫するようになるなど、勉強にも大いに役立つと考えている。ではどうすれば限られた時間の中で部活動を強くすることができるのだろうか。以下に私の所属していた東大剣道部の近年の例を紹介したい。大学と中学高校の部活では勝手が違うだろうが、ご了承いただきたい。
東大剣道部は 70 人規模の部員を擁する運動部である。週 6 回の稽古機会を設けてはいるが、授業優先のため少ない者では週 3 回程度しか練習が出来ず、また道場のスペースも限られているため、他大と比べると稽古機会が多いとはいえない。
その東大剣道部が先日、全国七大学総合体育大会剣道競技で 13 年ぶりの優勝を飾った。大会は北海道大、東北大、東京大、名古屋大、大阪大、京都大、九州大の七大学によるリーグ戦が行われ、東大は5勝1分けで負けなしと他を圧倒した。また、昨年の関東学生剣道新人戦では慶應大学を破りベスト 16 に進出、今春の関東学生剣道選手権では主将の龍野翔選手が国士舘大、筑波大などの選手を破り 5 年ぶりに全日本学生選手権に出場するなど、好調が続いている。
実は東大剣道部は 2 年前から大きく変化している。 1 つは筋力トレーニングの導入である。OBの紹介で知り合った競輪選手の長塚智広選手を中心とした競輪選手たちの指導の下、当初は任意参加であったが、多くの学生が参加している。 2 つ目は、剣道専門誌「剣道時代」上で「赤胴通信」と題し、部員が連載するようになったことである。毎月試合について、また東大生ならではの受験についてのトピックを寄稿している。 3 つ目はこれまで以上に対外試合をするようになったことである。この春には初めて関西遠征を敢行し、関西チャンピオンの関西学院大学や Panasonic など、自分たちよりレベルの高い選手達と練習試合を数多く行った。
それぞれに効果はあった。筋力トレーニングを行うことで、強豪私大の選手と試合をしても当たり負けをしなくなった。また、今年の新入部員の中には「剣道時代での連載を見て剣道部に入ることを決めた」という者が現れた。強い選手達との練習試合は、学生達に経験を積ませるだけでなく、「俺たちは勝てる」という自信に繋がったようである。
これらの取り組みに共通しているのは「外とのコミュニケーション」である。実は当時筋力トレーニングのやり方を知っている学生はほとんどいなかった。一方で指導する競輪選手は剣道のことは全く分からない。自然とコミュニケーションは増え、お互いにとって新しい視点が増えることになった。剣道部員の中には競輪場まで足を運び、「先生」達を応援する者も現れた。
一方で雑誌連載はこちらからの発信である。中高生やその保護者を対象に記事を書いているが、そのリアクションがすぐにわかるわけではない。しかし、部員の中には地元に帰った際、「連載読んでいるよ」と声をかけてもらう者がいたり、高校剣道部の顧問の先生から記事を道場の壁に張っていますとの報告があるなど、少しずつだが東大剣道部への注目度が上がっている。これも一つの外とのコミュニケーションだろう。
対外試合の増加についてもう一つ変わったこととして、試合後も交流を続けるようになったことが挙げられる。試合後に宴会を行うなどして、学生同士、または社会人や先生とも仲良くなり、また次の機会へ繋げている。
部活動というとつい内側に閉じてしまいがちである。目標に向かってはいるが、自分たちの中だけで頑張った「つもり」になり、自己満足で終わってしまうことが多い。外とコミュニケーションは、そういった自己満足を打ち破ることになるのではないだろうか。最近では Facebook などのSNS の発達に伴い、端末一つで連絡先を交換したり、近況を伝えることが容易になっている。交流を深め、自分たちを知ってもらうことで、こちらが吸収するものも大きく増えるのではないだろうか。