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MRIC vol 22 「「医療/公衆衛生×メディア×コミュニケーション」」

医療ガバナンス学会 (2008年11月20日 10:07)


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   第15回 メディアキャンペーンの組み立て その1
林 英恵


【マスメディアキャンペーン】
教育工学とコミュニケーションの観点からこの連載を書かせていただいている。以前、自分の周りからでも少しずつ変えていけるコミュニケーションの手法として、ターゲットの見直しや、使用するメディアの再考などをお話しさせて頂いた(2008年1~3月20日発行の記事をご参照ください)。
今回は、マスメディアキャンペーンにテーマを絞って、ヘルスコミュニケーションという専門分野が確立されているアメリカで、どのようなアプローチがされているのかについて追っていきたい。
ヘルスコミュニケーションというのは、ScienceとArtの融合である。このScienceが欠けると、根拠に基づかない、また信頼性や持続性に疑問が出てしまうものとなり、Artが欠けると、人々を魅了するのに十分でない、はっきりいってしまえば「つまらない」キャンペーンが出来上がってしまう。
まず、今回のテーマを掘り下げていくにあたり、マスメディアを使用するキャンペーンが通常どのように組み立てられているのかについて着目したい。
【キャンペーンを計画する際の必要事項】
The Art of Cause Marketingの著者で、外資系の大手広告代理店で数十年にわたってキャリアを積み、クリエイティブディレクターとして活躍したRichardEarle氏。彼は先日ゲストレクチャーとして大学院の授業に登場した。キャンペーンを計画する際の必要事項として次のことを明確にすることの必要性を述べている。
1. マーケティングの目的
2. 広告(コミュニケーション)の目的
3. ターゲットバックグラウンドとターゲットのもつ思想
4. ライバルとなるようなキャンペーンのメッセージ
5. ターゲットの利益となるような、一番大切なメッセージ
6. 5を聞いたターゲットの行動変容を支えるような社会的なサポートシステムの有無
7. 期待する行動変容
8. メッセージを流布する際のトーンとスタイル
9. キャンペーンを実施する際の条件
とある。
*補足的な説明であるが、この本のタイトルにもなっている”Cause Marketing”という言葉は、作者いわく、Social Marketing(社会的なキャンペーン活動のために、ビジネスにおけるマーケティングの知識と経験を使用すること)と、ほぼ同義的に使用されているとのこと。厳密に言うと、Cause Marketingはその名の通り、「Cause」、つまり行動を起こさせるような「要因」に着目するといった意味で、「Social Marketing」の広い意味よりも、より表現を鋭くした単語だそうだが、同義に使ってかまわないということだった。
【ビジネスの発想を公衆衛生に】
Social MarketingもCause Marketingももともとビジネスの発想を公のキャンペーンに取り入れているため、「Marketing(マーケティング)」や、「Competitor(競合)」、「Client (顧客)」、「Advertisement(広告)」など、これらの著作にはビジネスの用語が満載になるので、ビジネスの経験を持たない人々にとっては聞きなれない用語に圧倒されてしまう可能性がある。
しかし、これは単に用語的な問題で、例えば上で述べられた「マーケティングの目的」というものは、「全体としてどのような社会貢献活動をしたいのか」というキャンペーン自体よりも上流にある全体の目的としてとらえられる。例えば、乳がん検診の受診率をあげることなどがあげられる。
次に、広告(コミュニケーション)の目的というのは、上での「マーケティングの目的」(大枠、キャンペーンの大前提となる目的。)を達成するために、コミュニケーション上で行うことができる活動の目的になる。上の例で言えば、「(乳がん検診の受診率をあげるために)乳がん検診についての認知率をターゲットの80%に上げる」というようなものがこれに当てはまる。
ピラミッド型の構造を想定してもらうと、1のマーケティングの目的というのがトップにきて、その下に2の広告(コミュニケーションの目的)が来る。この二つは、どのキャンペーンを始めるにあたっても、非常に大切な要素である。しかし、「キャンペーンに取り組みたい」という時、この二つの要素を抜かして議論を始めてしまっているところが多々あるのは事実である。確かに、この二つの事項は、例えば、乳がんのプロジェクトチーム等で日頃から乳がんに対してチーム内で話し合っている場合、「今さら何を?」といったような周知の事実になっているのかもしれない。また、肺がんに対して取り組んでいるチームであれば、「たばこに対して意識を向けてもらうことなんてチーム内での暗黙の了解でしょ?」と思うかもしれない。
しかし、ここが公衆衛生のキャンペーンの大きな盲点になりがちなポイントである。ビジネスにおいて、各メーカー等の製品担当者が、年単位、もしくは何年か単位でのその製品の売り上げ目標等を最初に各部署、社内のメンバーで合意するのと同じように、公衆衛生の分野でも、常日頃から携わっている場合でも、今一度チームの中での合意事項と方向性を確認する必要がある。なぜならば、次回以降で話が進んでいくことだが、今後、このようなマスメディアのキャンペーンを進めるにあたって、チームの構成メンバーがだんだん増えてくることになる。
最初は、例えばどこかの医療チームのメンバーで始まった「乳がん検診の受診率向上」プロジェクトが、キャンペーンをすることを決定したりしていく過程で、プランナー(キャンペーンの企画をする人)や、クリエイティブスタッフ(実際のデザイン等を担当する人)や、メディアプランナー(どの媒体を使うのかを企画していく人)や、リサーチコーディネーター等、あらゆる立場の人々が参加することになる。その際に、誰もが確認できる共通の目的は、必ず文書に落とし、常に見直せる状態にある必要がある。キャンペーンのひな型となるものだ。
次回は、Earle氏による必要事項の解説と共に、どのような環境の考察が必要かについて述べていきます。
参考文献
※The Art of Cause Marketing: How to use advertising to change personal behavior and public policy, Richard Earle
※ Lessons Learned From Public Health Mass Media Campaigns: Marketing Health in a Crowded Media World, Whitney Randolph and K. Viswanath, Annu. Rev. Public Health 2004, 25*419-37
林 英恵(はやし はなえ)
早稲田大学社会科学部卒業。ボストン大学教育大学教育工学科修了後、株式会社マッキャンヘルスケアワールドワイドジャパンにて、アソシエイトプランナーとして勤務。2008年秋よりハーバード大学公衆衛生大学院修士課程(ヘルスコミュニケーション専攻)進学。

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