vol 21 すずかん通信「医療費適正化計画で療養型病院は存続危機。皆様の選択次第です」
去る8月、厚労省は、我々の主張にも少しは配慮し、療養病床削減計画を若干修正しました(16頁特集2参照)。しかし、本質的問題は解決していません。
そもそも療養病床削減は、2006年6月、医療制度改革関連法の成立を受けて決定。同法に関しては「後期高齢者医療制度」が物議を醸していますが、「医療費適正化計画」について事の重大さを伝える報道は、まだわずかです。しかしこの5ヵ年計画こそ、3千億円の医療費削減のため、高齢者が多数、長期入院している療養病床(38万床)を23万床減らし、15万床にすることを定めたものなのです。
ところが、その策定過程は極めてずさんでした。削減目標の「23万床」は、厚労省保険局と老人保健福祉局による単なる「数合わせ」だと、国会質疑で厚労省も認めています。同省が病院関係者からの明確なシミュレーションの要求にも応えないまま、2005年小泉郵政選挙の直後、安直に決まってしまったのです。
今年4月には老人保健法も「高齢者の医療の確保に関する法律」に改正。以前の法目的「国民の老後における健康の保持と適切な医療の確保」は消え、「医療費の適正化」つまり削減が明記されました。
そして8月。計画修正で削減目標は当初の23万床から15万床に引き下がり、現在の療養病床も2006年より4万床近く減っていますが、今後、まだ12万床程度の削減が必要。
一方、受け皿を期待された介護施設や在宅サービスの整備も、進んではいません。慢性的な赤字に陥ることが明らかで引き受け手がいないのです。結局、診療報酬カットが先行し、このままでは多くの療養型病院は閉鎖に追い込まれる状況に。さらに総務省も赤字の公立病院を削減する方針を打ち出し、医療・介護難民の懸念は広がるばかりです。
政府、厚労省は難しい説明で煙に巻きますが、要は病院が減り、自宅で自力介護を迫られる家庭が続出するだろうということ。ただし政府が勝手に決めたわけではありません。国民の皆さんは2005年総選挙で、療養病床削減方針を掲げる政権を選択したのです。来る選挙で改めて追認するのか、白紙撤回を迫るか、熟考の上、ご判断ください。
著者紹介
鈴木寛(通称すずかん)
現場からの医療改革推進協議会事務総長、
中央大学公共政策研究科客員教授、参議院議員
1964年生まれ。慶應義塾大学SFC環境情報学部助教授などを経て、現職。
教育や医療など社会サービスに関する公共政策の構築がライフワーク。