臨時 vol 165 「二階俊博経産相の『医者のモラルの問題』発言への抗議文」
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周産期医療の崩壊をくい止める会
代表 佐藤 章
周産期医療におけるいたたまれない事態が今もなお続いている昨今の状況の改善には、周産期医療に携わる医療者一同努力を重ねておりますが、今もなお国民の皆様の期待と信頼に十分にお答えすることができない状況が継続しており、ご心配をおかけしておりますことをお詫び申し上げます。
しかしながら、現場の努力だけでは解決できない状況を二階俊博経済産業大臣へもご理解頂きたく存じます。そして、二階大臣が舛添要一厚生労働大臣との会談において、「政治の立場で申し上げるなら、何よりも医者のモラルの問題だと思いますよ。忙しいだの、人が足りないだのというのは言い訳にすぎない」と発言されたことに対して、周産期医療の崩壊をくい止める会代表として、強く抗議いたします。
■周産期領域の医療水準と受け入れについて
<水準が満たされていない状況で患者を受け入れることは違法な行為>
1 医師に課せられた法律上の義務
新潟地裁長岡支部平成14年7月17日判決は、「品胎(いわゆる三つ児)の分娩において帝王切開を行う場合、帝王切開を施行する医師2名、麻酔専門医で輸血を行う医師1名、出生した児の蘇生・介護・検査を施行する医師3名、その助手的看護師3名(新生児1名毎に各1名の医師と看護師)、手術の器械出し、手術の外回りにそれぞれ看護師1名の人的準備と、輸血用の血液、輸液、酸素、新生児蘇生用の気管内挿管器具3組、保育器3台、インファントウォーマー3台、全身麻酔器、血中ガス濃度分析機、その他新生児の血液生化学検査一式が可能な検査設備という物的準備が必要である。」と判示し、上記設備を持たない施設において「分娩を行うこと自体を違法な行為」と判示し、約1億1千万円の損害賠償責任を認めている。すなわち、上記の水準程の設備が整っていない限り、患者を受け入れることは、それ自体が違法な行為であるとするのが司法の判断である。
2 墨東病院、杏林大学病院の事案も受け入れること自体が違法
墨東病院の事案では、当直医が1名しかいない状況で、脳出血の疑いのある妊婦を受け入れることは、それ自体が違法な行為であることは明らかであった。
また、杏林大学病院の事案でも、産科医が手術中であったのであるから、実質的に産科医不在の状況であり、当然に妊婦を受け入れること自体が違法な行為であった。
3 二階大臣の言うモラルとは法に反すべしとの趣旨か
確かに、モラルとは内面的規範であり、外面的規範でかつ物理的強制を伴う法律とは異なる。
しかるに、二階経産大臣は、行政府である一省の長として、内面的規範と外面的規範たる法が相反する場合には、積極的に法に反せよとの趣旨で上記発言をされたことになるが、それでよろしいのか。
4 月平均300時間の勤務、月平均当直日数4日は政治と行政府の責任
日本産婦人科医会の産婦人科勤務医・在院時間調査によると、産科医の月平均勤務時間は300時間を超え、月平均当直日数は4.2日であり、産科医の労働基準法違反の違法な勤務状況が常態化している。
舛添厚生労働大臣は、この現状を鑑み、医療行政及び労働行政を管轄する監督省の長として、この違法な状況を速やかに改善しようと努力されている。
しかるに、二階経産大臣は、行政府たる内閣の一員でありながら、この明白な違法状態を「モラルの問題」であり、「言い訳」であると判断しているとするならば、その規範意識の欠落は看過できないものであるし、なにより、法律による行政の原理に反する「モラル」を信条として持っているのであるならば、内閣の一員たる資質において大きな疑問を感じざるを得ない。
■結語に代えて
私たち周産期に携わる者は、先の奥様を亡くされたご主人からのお言葉である「妻の死が浮き彫りにした問題を力をあわせて医師、病院、東京都、国で改善してほしい。妻の死を無駄にしてほしくないし息子のためにも息子にとって日本一の母親だったといえるような状態に改善してほしい。」を忘れることなく、事態解決に向けこれからも努力をして参ります。
二階大臣におかれましても、政治の立場において、我が国の医療の状況を正しくご認識頂き、国民のために内閣の一員として、事態解決にむけご助力を頂きますようお願い申し上げます。
以上の次第により、私は、周産期医療の崩壊をくい止める会の代表として、二階経産大臣の上記発言につき強く抗議し、発言の撤回を求めます。