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Vol.231 現地レポート: 米国初のエボラ出血熱による死亡

医療ガバナンス学会 (2014年10月11日 06:00)


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ベイラー大学病院ベイラー研究所
膵島移植部門 (テキサス州ダラス・フォートワース)
滝田盛仁

2014年10月11日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


1) 経過
本日(10月8日[原稿執筆時点])、米国内で初めてエボラ出血熱と診断されたトーマス・エリック・ダンカンさん (42才) がテキサス州ダラスのプレスビテリアン病院で亡くなった。プレスビテリアン病院はダラスでも有数の規模を誇る総合病院であり、また、他のウイルス感染症で臨床試験中の新薬 (brincidofovir: ブリンシドフォヴィル)の投薬や人工呼吸管理・人工透析など集中管理が行われたが、多臓器不全から回復することができなかった。以下、現地の保健当局の発表 (http://www.dallascounty.org/ebola_2014.php)や報道を元に経過を整理した。

9月19日、トーマスさんはリベリアを出国する直前に、19歳の妊婦が病院行きのタクシーに乗るのを介助した。この妊婦は同日夕刻に死亡。後にエボラ出血熱による死亡と診断された。介助の際にトーマスさんは、妊婦の血液或いは何らかの体液に触れ、エボラウイルスに感染したと考えられる。トーマスさんはリベリアを出国時、「エボラウイルスに感染した人に接触したことはない」と申告、ベルギー・ブリュッセル空港及びワシントン・ダレス国際空港を経由し、20日、フィアンセが待つダラスに降り立った。一連の出入国では、感染症症状を呈していなかった。

9月24日頃から発熱・腹痛が始まり、翌25日22時にプレスビテリアン病院の救急外来を受診したが、軽症との判断で、抗生剤の処方で帰宅となった。この際、トーマスさんは病院スタッフにリベリアから渡米したことを申告した。しかし、この情報が医師に伝わることは無かった。

容態が悪化した28日、トーマスさんは救急車で再びプレスビテリアン病院の救急外来を受診、緊急入院となった。意識レベルはかろうじて周囲の人々と会話できる程度だったと言う。2度のPCR検査 (高感度なウイルス遺伝子の検査法) でどちらも陽性になったことが30日13時に判明し、これが米国初のエボラ出血熱の診断となった。陰圧室に隔離され、前述の集中治療を施されたが、死亡に至った。遺体は病原性を保持しているため、点滴チューブや気管挿管チューブを外すことなく、2重のプラスチック袋に埋葬され、直ちに火葬となった。

2) 感染拡大阻止への3ステップ
米国疾病感染症センター (CDC) の動きは早く、診断が確定した9月30日19時にCDC職員がアトランタからダラスに到着した。感染拡大阻止への3ステップとして、1) 感染した患者さんへの集中治療、2) 今後、患者さんの治療に当たる病院スタッフへの感染予防の徹底、3) これまでにトーマスさんと接触し感染の可能性のある人を同定し、ダラスでのエボラウイルスの感染拡大の阻止することが発表された。

3) 市民の反応は概ね冷静
一時、トーマスさんと接触しエボラウイルスが感染した可能性がある人が少なくとも100人存在すると発表されたが、ダラス周辺の市民の反応は冷静で、大規模な避難やストライキは発生しなかった。その後の調査により、体温測定や感染症状の有無の観察(1日2回、電話での問診)が必要な人が48人に、その中でさらに感染のリスクが高い医療従事者人が10人(3週間の有給休暇とし1日1度外来診察が行われる)に絞り込まれた。ただし、学校現場は苦労しており、
エボラウイルスに感染した可能性のある数名の学生・生徒に自宅待機を要請する一方、学校生活を通じてのエボラウイルスの感染拡大の阻止のため、体温スキャナー(簡易体温計)の準備などに追われている。患者さんが隔離された病院周辺の学校現場では、出席率が約10%低下したと言う。また、恐怖を煽る虚偽のツイッターをしたとして、高校生1人が拘留された。

4) 実名報道
9月30日、エボラウイルス感染を最初に発表した記者会見では、患者の氏名は個人情報保護のために公表されなかった。しかし、翌10月1日になると、患者さん本人の実名が報道され始めた。地元のメディアによると、AP通信が患者さんの妹とのインタビューで、本人の氏名を確認したことが発端とのことであった。以降、テレビや新聞紙面、インターネット上で、facebookで公開していたトーマスさんの顔写真が使用されるようになった。地方公共団体であるダラス郡のホームページでも、トーマスさんの名前と共に追悼する文書が掲載されている。また、トーマスさんが死亡した当日、エボラ出血熱の可能性があるとして保安官のマイケル・モニングさんが緊急に隔離されたが (検査の結果、陰性)、このケースも実名報道であった。このような早期からの実名報道は、個人情報保護をこれまで幾重にも教育されてきた筆者からすると違和感を覚える出来事であったが、報道の信憑性や公共の利益を重視するアメリカの特性かもしれない。

5) ボーダレス時代のボーダー強化と感染リスク
この事態を受け、西アフリカからの渡航者の多い米国の主要空港では、体温検査を強化することになった。感染拡大のリスクを軽減するため、検疫の強化は必要だろうが、ダラスの患者さんの経過から分かるように、ウイルスに感染してから実際に症状が現れるまでに時間が掛かるため(潜伏期)、検疫で100%感染拡大を阻止できる訳ではない。ウイルス感染者が検疫をすり抜け入国している可能性は十分にある。これは、2009年に日本で流行した新型インフルエンザを彷彿とさせている。検疫の強化と、国内でのウイルス検査の体制強化が、ウイルス感染抑止の「車の両輪」であることを示した事例であった。最近、私はインフルエンザの予防接種を受けた。インフルエンザが流行する季節が近づいている。状況によっては、インフルエンザによって発熱している患者さんとエボラウイルスの初期で発熱している患者さんが混在する可能性があり、病院の感染症対策チームの緊張が続いている。

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