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Vol.232 除染作業員の健康問題

医療ガバナンス学会 (2014年10月13日 06:00)


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福島県南相馬市立総合病院
研修医 澤野豊明
2014年10月12日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

私は今年千葉大学を卒業し、縁あって2014年4月から南相馬市立総合病院で研修医をしている。元々縁もゆかりもない地域で働き始めた理由はさておき、この町に来てから「除染作業員が沢山いる」と思うことが少なからずあった。それは、朝コンビニに寄ったとき、夜間救急外来に従事しているとき、飲食店に行ったとき、など様々な場面だった。
東日本大震災から3年半の月日が流れた。ご存知のようにその影響で現在、除染が行われている。除染には莫大な時間と労働力を要する。そのために大量に雇われた除染作業員は、賃金を求め全国津々浦々からやってきた「被搾取層」と呼ばれる人々で、彼らに関しては不明な点が少なからずある。

例えば夜間救急外来に感冒症状を主訴に徒歩でやってくる患者の多くは彼らだ。彼らに、翌日のクリニック受診や平日外来受診を勧めると「納期が迫っているから休めないんです。」と口をそろえる。当然入院患者にも彼らは散見される。その背景には彼らの元々持っている基礎疾患や、劣悪な労働環境が関係している可能性が高い。彼らの健康問題を少しでも理解するため、今回筆を執った。

南相馬市立総合病院にH23年9月以降に入院した患者の中で、カルテの中に除染の文字がある入院患者について調べてみた。患者はすべて男性で、彼らの年齢層はほとんどが生産年齢人口(15歳~65歳)に一致していた。データを集計したところ、入院病名で最も多かったのは脳卒中で、基礎疾患では糖尿病が多かった。この結果は当院が相双地区唯一の脳外科病院であることを差し引いても、生産年齢人口においては非常に多い数であった。糖尿病に関して、特筆すべきはそのうち半分以上の患者が未治療または治療拒否をしており、入院病名もやはり糖尿病に伴う合併症と考えられる脳卒中や蜂窩織炎が多かった。

実際に診療にあたっていると、彼らの健康への関心が低いことは一目瞭然で、本当に入院が必要なほど重篤でも「薬をくれればそれで良いです。明日も仕事なので。」と驚くほど危機意識はない。つい先日も、とある作業員が重症疾患と診断され、地元病院へ紹介したのだが、「必ず受診します。」と言っていたのにも関わらず、紹介先病院から「受信されませんでした。」と連絡があった。その危機意識の欠如から生活習慣病を患い、その結果脳卒中や心筋梗塞といった致死的な病の発症率が高いという忌々しき方程式が容易に想像できた。今回示した結果は、除染作業員の有する健康問題のほんの氷山の一角にすぎないであろう。

とある除染関連企業の事業主から話を聞いた際に、健康問題に目を瞑らなれば労働力が集まらないという話を聞いた。同時に蛇足ではあるが、今回の患者の出身地には確かに全国ばらばらであるが、いくらか法則あるように感じ、その点に関してその事業主に尋ねたところ、「理由があるとすれば都道府県ごとに最低賃金が異なることが関係しているかもしれない」、という話を戴いた。確かに出身者が多かった県の一つに青森県があるのだが、青森県のH26年最低賃金は679円と、さほど高くはない福島県の689円を下回る。(全国最低は677円。)なるほど、国内出稼ぎといえば聞こえは良いが、故郷と家族を離れ劣悪な環境で除染作業に従事するというのは並大抵のストレスではないだろう。
だから健康に問題を抱える人を雇うな、というつもりはない。結果的に健康リスクの高い人を雇い、彼らを劣悪な環境で労働させている以上、例えば定期的に健康診断を行うなどフォローがなければ、彼らの健康は守ることができないと私は非常に心配している。

澤野豊明
1990年神奈川県横浜市生まれ。私立横浜高校卒。千葉大学医学部卒。卒後臨床研修で福島県南相馬市立総合病院を選び、現在研修医1年目。趣味はバドミントン。

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