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Vol.240 医療事故調の指針 – 医療事故調が現場を混乱させないように -

医療ガバナンス学会 (2014年10月20日 06:00)


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この記事はMMJ (The Mainichi medical Journal 毎日医学ジャーナル) 10月15日発売号より転載です。

 

井上法律事務所
弁護士 井上清成

2014年10月20日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


1 厚労省の検討会がスタート
医療法が改正され来年10月1日の施行に向けて、厚生労働省令(医療法施行規則)・告示・ガイドライン作りのため、厚労省が検討会をスタートさせる。
既に厚労科研費研究によっていわゆる西澤研究班がその研究を行ってはいたが、必ずしも「法律にのっとった研究内容」とはならず、「モデル事業で明らかとなった課題」を踏まえずにむしろモデル事業の実績・経験を強調してしまったことから、その反省を踏まえた厚労省検討会となることが望まれよう。

2 現場からの医療事故調ガイドライン
厚労省の検討会スタートや西澤研究班の研究成果発表に先立って、四病協の一つである日本医療法人協会の「現場からの医療事故調ガイドライン検討委員会」(委員長・坂根みち子医師)が、最終報告書を発表した。既に9月2日にはその中間報告書が田村憲久厚労大臣(当時)に手渡されてはいたが、今回はその追加分で最終報告である。
現場からの医療事故調ガイドラインは、「臨床現場の医療従事者が判断に迷わないよう、また、臨床現場に過剰な負担が生じ、患者さんが危険にさらされることのないよう、改正医療法の条文を原則論から解説するとともに、本制度の在り方について提言を行」った。

3 ガイドラインの項目
現場からの医療事故調ガイドラインでは、かつて医療界を散々混乱させた「医師法21条について」のコラム、「死亡から報告の流れ」のフローチャート、「予期と過誤」の違いを明らかにした一覧表など、わかりやすさや使いやすさに配慮されている。目次(抜粋)は次のとおり。
1.当ガイドラインの原則
1)原則1:遺族への対応が第一であること
2)原則2:法律にのっとった内容であること
3)原則3:本制度は医療安全の確保を目的とし、紛争解決・責任追及を目的としない
4)原則4:WHOドラフトガイドラインに準拠すべきこと(非懲罰性・秘匿性を守るべきこと)
5)原則5:院内調査が中心で、かつ、地域ごと・病院ごとの特性に合わせて行うべきであること
6)原則6:本制度により医療崩壊を加速してはならないこと(範囲を限定すべきこと)
2.報告対象について
1)「過誤」「過失」は報告要件ではない(表1)
2)「管理」類型は報告対象ではない
3)「予期しなかった」とは(表2)
3.院内調査の方法
4.院内調査と非懲罰性・秘匿性(報告書)
1)報告書は法律上必須ではない
2)報告書を作成する場合の記載事項
3)秘匿性の確保
5.院内事故調査の支援体制について
6.院内調査結果のセンター及び遺族への報告
1)センターへの調査結果報告が中心
2)遺族に対する事前説明
3)遺族に対する調査後説明
7.センター業務について

4 ガイドラインの原則
このガイドラインでは、冒頭に6つの原則を掲げた。特にその第1が重要で、「遺族への対応が第一であること」を強調している。
「1)原則1:遺族への対応が第一であること
患者さんが死亡した時に、迅速にすべきことは、遺族への対応・遺族に対する説明で、センターへの報告ではありません。
遺族への対応・説明は、医療安全・再発防止を目的とする本制度の外にあるものですが、医療の一環として非常に大事な事柄であること、遺族とのコミュニケーション不足が予想外の紛争化を招き、遺族にとっても医療従事者にとっても不幸な事態になることから、当ガイドラインにおいてもその重要性を強調します。」
次に、特に西澤研究班において問題視されてしまったことを踏まえて、「法律にのっとった内容であること」も強調した。
「2)原則2:法律にのっとった内容であること
法律の文言には非常に重みがあり、文言をはずれた解釈は決してしてはいけません。」
第3には、かつての第三次試案・大綱案での混乱を踏まえ、「紛争解決・責任追及」との分離を強調している。
第4には、当然のことながら、「WHOガイドライン」への準拠が確認された。
第5には、院内調査中心主義と地域ごと・病院ごとの特性が強調され、特に忘れられがちな「本制度は、院内調査が中心ですから、医療事故調査・支援センターは院内調査に優越するものではありません。」という大原則を再確認している。

5 医療崩壊を加速させてはならない
最後に第6の原則も忘れてはならない。それは、「原則6:本制度により医療崩壊を加速してはならないこと(範囲を限定すべきこと)」である。そこで、「念のため幅広い報告が行われるおそれ」に警鐘を鳴らし、「本制度の対象は、範囲をごく限られたケースに限定し、膨大なマンパワーと費用をかけて行うべき事案に絞り込んで行うべき」だとした。これこそまさに、モデル事業で明らかとなった課題を踏まえた提言といえよう。

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