医療ガバナンス学会 (2014年10月18日 06:00)
ベイラー大学病院ベイラー研究所
膵島移植部門 (テキサス州ダラス・フォートワース)
滝田盛仁
2014年10月18日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
2) なぜ、病院で2次感染?
具体的にどのような作業が原因で、2人の看護師がエボラウイルスに感染したか未だ不明である。病院の説明(脚注1)では、2回目(脚注2)にトーマスさんが救急搬送されて以降、医療スタッフは全員、CDCのガイドラインに沿って、ガウンや手袋、マスクなどの血液・体液感染を想定した感染防御対策をしていたという。エボラウイルスに感染した2人の看護師は、1回目にトーマスさんが救急外来を受診した際に診療に携わっておらず、感染防御対策を開始した2回目の来院からトーマスさんの治療に当たっている。
これに対し、全米看護師連合 (National Nurses United)の調査によれば、(1)トーマスさんは救急搬送後、数時間、個室に隔離されていなかった, (2)手首や首が完全に締まらない簡易タイプのガウンが看護師に支給された, (3) 看護師を対象とした実地訓練は実施されていなかったなど、病院の受け入れ体制に不備があったと言う (脚注3)。病院長はトーマスさんの1度目の救急外来受診について対応のミスを認め、公式に謝罪した。現在、CDCが真相を究明中だ。
3) 『エボラウイルスは血液・体液で感染する』
エボラウイルスは血液・体液で感染する。従って、エボラウイルス感染者の血液・分泌物・嘔吐物・排泄物に直接、触れない限り感染することはない。しかし、仮にエボラウイルスに感染した2人の看護師が「完璧に」感染対策を行っていたとしたら、現在、分かっている以上に、インフルエンザのような飛沫感染(患者の咳やくしゃみで健常者が病原体に感染すること)でエボラウイルスに感染するリスクがあるのではないか―地元のニュースではそう指摘する医師もいる (脚注4)。感染したアンバーさんは治療のためダラスからアトランタに、ニーナさんはメリーランドに飛行機で搬送されたが、実際、患者および付き添いのスタッフはともに、厳重に全身を覆ったスーツを着用していた。ただし、アンバーさんの搬送の際、航空会社の社員1人が防御スーツやマスクを着用することなく患者に近付いていたところが報道され、航空会社は釈明に追われた。
4) 広がる感染リスク群
2人の看護師へのエボラウイルス感染が判明したことによって、CDCや保健当局は、エボラウイルスに感染している可能性のある人々の把握に難渋している。さらに、アンバーさんは微熱がありつつも週末に飛行機でクリーブランド(オハイオ州: 米国の北東に位置)に旅行していたというからなおさらだ。現在、トーマスさんの治療に携わった病院スタッフへの感染、さらにはその家族への感染が疑われる事態に発展している。この結果、ダラス周辺の複数の小学校・中学校・高校が除染のため臨時休校することになった。
地元当局では、地域社会をパニックに落とし入れるリスクがあり、感染している可能性のある人に対する法的な隔離など強制的な手段について、議論はしているが行使はしていない。現在のところ、市民の良心に委ね、個別の感染症対策を行っている。西アフリカではエボラ出血熱での死亡が顕著に増加しており(脚注5)、一方で、今回のダラスでの事例では、発熱などの症状が現れる前にエボラウイルス感染者が国境の検疫をすり抜け、2次感染を引き起こすことが明らかとなった。ここには書ききれないが、地域や病院の医療体制や感染制御の難しさなど様々な問題を浮き彫りしている。
脚注)
1. http://texashealth.org/news-alert.cfm?id=1629&action=detail&ref=1898
2. トーマスさんは9月25日に同病院の救急外来を受診。抗生剤をもらい帰宅。しかし、9月28日、容態が悪化、救急搬送された。
3. http://www.nationalnursesunited.org/press/entry/national-nurses-praise-rn-for-speaking-out-on-hospital-lapses-in-dallas/
4. http://dfw.cbslocal.com/2014/10/15/doctor-ebola-might-be-transmitted-by-air/
5. http://apps.who.int/iris/bitstream/10665/136508/1/roadmapsitrep15Oct2014.pdf