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Vol.249 子宮頸がんワクチンは高すぎる!!

医療ガバナンス学会 (2014年10月30日 06:00)


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帝京大学ちば総合医療センター
一色 雄裕

2014年10月30日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


この度は子宮頸がんワクチンの費用対効果を推計した研究を紹介する場をいただきありがとうございます。

初めに経緯を説明しますと、私は初期研修の後、血液臨床に5年ほど携わっておりました。その間にも次々と新しい抗がん剤が発売されましたが、いずれも高額な薬剤であり、「治療で使っている医療費は、はたして得られる治療効果に見合っているのか。」という疑問を持っていました。縁あって大学院に進学することとなり、指導教授である小松恒彦先生と相談し、「がん治療における医療経済評価に関する研究」をやってみないかというお誘いがありました。しかし、白血病などに代表される血液がんは予防法が確立されておらず、費用推計には不確定要素が多いのが難点でした。そこで子宮頸がんワクチン(以下ワクチン)という一定の予防法が確立されている子宮頸がんについて費用対効果を考えることとなりました。

1.ワクチン接種モデルの設定
まずワクチンが有効であったモデルを設定しました。厚生労働省が推奨している14歳でワクチンを接種し、その後定期的に子宮がん検診を受け、40歳の時に早期子宮頸がんと診断されるも手術で完治した、というモデルです。

現在日本では2種類のワクチンが認可されていて、自治体が補助金を出しています。(3回接種で約5万円)。ワクチンの効果は100%ではないものの、50-70%の子宮頸がんを予防できるとされています。残念ながら子宮がん検診(約5000円)の受診率が23.7%と低いため、ワクチンを接種しても子宮頸がんを発症してしまう患者さんの早期発見が難しいのが現状です。幸い早期がんで発見され、手術により治癒する場合には手術費、通院費、約2週間の休業損失など合計で約44万円が上乗せされます。

これを今の日本に当てはめてみます。現在の14歳女性人口は58万3000人で、全員にワクチンを接種すると約291億円かかります。そのうち23.7%(約13万8000人)が30歳から早期がんの見つかる40歳まで毎年(合計11回)子宮がん検診を受けると約76億円かかります。ところで現在40歳まで子宮頸がんを発症する患者さんは年に約9000人いますが、このうち70%がワクチンで発がんを予防できるとして、残り30%の2700人に早期がんの治療を行うと、約12億円が必要になります。それらの合計は約379億円となります。

2.進行がん患者モデルの設定
一方でワクチンを接種しなかったモデルを設定しました。ワクチンも子宮がん検診も受けずに40歳の時に進行期子宮頸がんと診断され治療(手術、放射線、化学療法)を受けるも5年後にお亡くなりになった、というモデルです。

この場合は治療費、通院費、5年間の休業損失、死亡によるその後の所得損失の合計約5800万円が計上されるほか、統計的生命価値という生命そのものの値段も算定しました。
命に値段をつけるというのはなかなか受け入れにくい面もあるかと思いますが、現実的には交通事故の慰謝料など比較的日常の場面でも行われています。医療分野では基本的に加害者がいるわけではありませんが、予防により生命価値の低下を回避できる場合にはやはりこれも経済効果と考えられます。進行期がん患者さんの5年間の統計的生命価値を約8800万円と推計しました。

今日本では245人の方が子宮頸がんで40歳までに亡くなっています。ワクチンを接種することで70%(172人)の方が子宮頸がんを発病せずにすめば約251億円の損失を回避できます。

3.現状ではワクチンは費用対効果を得られない
ここまでの話をまとめますと、ワクチンの接種を14歳女性全員に行い、子宮頸がんを早期発見したうえで治療するのに約379億円かかります。一方で、ワクチンを接種することで浮く(表現が悪いですが)コストが約251億円、差し引きでは約128億円の赤字となります。
現状ではワクチンを一律導入することにメリットはないということです。

4.ワクチンの費用が高すぎる
ワクチン接種にかかる費用のうち、大部分を占めているのがワクチンそのものの費用です。3回接種で約5万円というのが現在の値段ですが、同じワクチンでも例えばインフルエンザワクチンなどは1回あたり2500~3000円が相場です。子宮頸がんワクチンはそこまで普及していないとしても、価格競争などで仮に3回接種で28000円程度まで安くなれば、費用対効果がほぼ釣り合う計算となります。

創薬に多額の費用が投入されているために製品が高額となるのは理解できなくもないですが、個人的な心情としては企業利益よりも若い女性の健康予後を重視したいと感じます。また、全額補助の公費負担(すなわち国民の税金)が特定の外資2社に流れるという事実も看過できないと考えます。

HPVワクチンについては、子宮頸がんを予防できる一定の効果が見込まれる一方で、副作用の可能性についても多くの議論がなされています。統一した見解はなされていませんが、医療経済という側面から見た場合、少なくとも現状での一律接種は費用対効果が得られないと考えられます。

文献1:Asian Pac J Cancer Prev, 15 (15), 6177-6180.

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