医療ガバナンス学会 (2014年11月3日 06:00)
この原稿は『月刊集中』月刊集中10月31日発売号からの転載です。
井上法律事務所 弁護士
井上清成
2014年11月3日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
2.医師法21条は外表異状説をとることも一法
医師法21条では、「医師は、死体又は妊娠4月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、24時間以内に所轄警察署に届け出なければならない。」と定められ、しかも、違反すると50万円以下の罰金刑に科される旨も医師法33条の2で規定されている。この規定が診療関連死にも拡大適用されてしまってきたことが、医療現場に混乱を招いた元凶であった。この拡大適用にストップをかけて本来の適用範囲に収めることこそが、医療現場から警察介入の恐怖を取り去る喫緊の課題とされている。幸い、厚生労働大臣をはじめとした厚生労働省の解釈運用は、「外表異状説」で固まった(ただし法医側はそのようなことはないと異論を表明している)。
ただ、ほかならぬ医療界には「外表異状説」に乗り換えることへの逡巡が見られる。そこで、その逡巡を取り去るために、むしろ法医学者側から外表異状については診療関連死のみに限定すれば、あってもよいといった主旨の提案によって、政策的妥当性を重視した目的論的解釈により上記解釈運用の方針を合意したのであった。
3.死因究明の推進を積極的に
死因究明体制の推進については、かつての民主党政権の頃にすでに、診療関連死は一般的な死因究明から除外する、という民自公合意が存在する。診療関連死はそれ固有の問題が多いので、それ自体を別個独立にして扱う。むしろ、診療関連死を切り離した方が、それ以外の一般的な死因究明体制が推進されるであろうという考慮に基づく。
関連する法律としては、死因究明等の推進に関する法律(死因究明等推進法)と警察等が取り扱う死体の死因又は身元の調査等に関する法律(死因・身元調査法)が制定されていた(死因究明関連2法。前者については、期限切れに伴い、死因究明等推進基本法が後継)。ただ、残念ながら、今もって、十分な死因究明体制は築けていない。
4.医療事故調の動向
医療事故調を定めた改正医療法も成立した。現在は、改正医療法という法律にのっとった内容の省令・告示・ガイドラインを作るべく準備が進んでいる。この時点で、法医学者の一部の方々の理解が得られたことは、医療事故調の落ち着いた施行にとっても喜ばしい。
さて、医療事故調についても厚労省は立て続けに、自らのスタンスを明瞭にしつつある。
まず、厚労省の二川一男医政局長は、この10月16日に参議院厚生労働委員会において、石井みどり参議院議員の質問に対し、医療事故の定義に関して「法律上は医療に起因し、または起因すると疑われる死亡または死産なので、『単なる管理』は含まれていない。」「対象となる事案は、医療に起因し、または起因すると疑われる死亡または死産なので、それ以外は含まれない。」という趣旨を明言した。これは、ここ数ヶ月来、「医療の中に単なる管理も含まれているのか?」という論点を巡って、厚労省内が混乱していた(一時期、大坪寛子医療安全推進室長が「管理も含まれる」と発言していたため。)ことに対して、医政局長自らが乗り出して来て収束を図ったものであろう。高く評価できる質疑応答である。
次に、同じく10月16日、厚労省はそのホームページに、「医療事故調査制度に関するQ&A」を掲載した。これから始まる厚労省直轄の検討会に先んじて、その検討指針を示したものともとらえられよう。そして、その「Q&A」の内容も優れたものである。
たとえば、「制度の目的」を明確に「再発防止」と位置付け、「WHOドラフトガイドラインでいうところの非懲罰性、秘匿性、独立性」を前面に打ち出した。医療事故の定義についても二川医政局長が答弁した趣旨のとおりである。医師への責任追及との分離という大問題に対しても、「今後具体的な調査手法や遺族への報告のあり方を検討するに当たり、責任追及にならないよう、個人情報やプロセスの資料の取扱などを含めて検討を進めたいと考えています。」などと極めて前向きな姿勢を打ち出した。
これらはいずれも、この10月14日に、日本医療法人協会(日野頌三会長・小田原良治医療安全調査部会長)が厚労省の橋本岳厚生労働大臣政務官に手渡した「日本医療法人協会医療事故調ガイドライン(現場からの医療事故調ガイドライン検討委員会最終報告)」に沿ったものである。厚労省は適切な方向に向かって法律の施行作業を進めているものと評価しえよう。
5.あとは死因究明のさらなる推進を
医療事故調の着実な進展と共に、あとは、診療関連死以外の死因の究明体制のさらなる推進が望まれる。