医療ガバナンス学会 (2014年11月4日 06:00)
この原稿は朝日新聞の医療サイト「アピタル」より転載です。
http://apital.asahi.com/article/fukushima/index.html
南相馬市立総合病院
非常勤内科医 坪倉 正治
2014年11月4日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
高校生たちは一生懸命聞いてくれています。理解度をはかるためのアンケートをさせていただいていますが、現在の食品の汚染状況や被曝が低く抑えられていることへの理解が、授業の前後で改善していることが見て取れました。
ただその一方、こちらの印象としては、生徒たちの集中力や興味をこちら側に引きつけておくことが難しくなってきたとも感じています。放射線と関わりの深い物理に興味のある選抜クラスではなく、学年全体を対象としていることもあるでしょう。
放射線の話は、ほかの一般の授業に対する興味と変わらないのかも知れません。あるいは、「どこかで聞いたことがあるな」くらいの感じでしょうか。「放射線の問題は、自分たちの身に降りかかった大事な事象である」というような感情や感覚が、かなり薄れてきたように思えます。
こちらとしてはある意味、発破をかけるというか、「きっと将来の役に立つ」、「将来、偏見のような目で見られるようなことがもしかしたらあるかもしれない。その時にきっとあなたを守ってくれる。」、「こういう事情を知っていて損はないよ」などと、ややたき付けるような言葉を投げかけることが多くなったように思います。もちろん私の伝え方の問題もあるのでしょう。
放射線に対する子供たちの関心が薄れている。これだけを見れば大きな問題だとは思いません。実際に線量はほとんどの場所で十分低くなっていますし、そんなことは気にせず、勉強して思いっきり遊ぶのが一番です。その一方で、放射線に関する知識が増えているか?といえばそうではない。「1mSv浴びればすぐにがんになる」といった間違った認識をしたまま、自分たちだけが大量に被曝して将来必ず悪影響が出る。と思い込んでいる生徒がまだまだいらっしゃることも事実です。
放射線教育は、子供たちに自信を持ってもらい、前向きに生活できるようサポートするためにあると思っています。将来、彼らが福島から出て行ったとき、社会の偏見や風にさらされても、自分で状況を説明できるようになってほしいのです。ただ、マイナスをゼロへ近づけるだけの内容ではもう厳しいのでしょう。ゼロからプラスへ、「あ、これ面白い!ちょっと勉強してみよう。」と感じてもらえるような内容にもシフトしていかないともいけない。そんな場面で一人の医者が出来ることなんてあるのだろうか、とか思いつつもマイナスをゼロへ近づける授業を少しずつ続けています。
坪倉正治の「内部被曝通信 福島・浜通りから」のバックナンバーがそろっています。
http://apital.asahi.com/article/fukushima/index.html
「アピタル」には、医療を考えるさまざまな題材が詰まっています。
http://apital.asahi.com/