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Vol.254 福島県相双地区に看護大学の設置を願う

医療ガバナンス学会 (2014年11月6日 06:00)


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福島県相双地区に看護大学の設置を願う
福島県立新地高等学校
高村泰広
2014年11月6日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

東日本大震災から3年6ヶ月が経ちました。ようやく国道6号線の全線開通(自動車のみ)、復興住宅、住民帰還など復興の真っ直中にあります。ただ、福島県の場合は他県と状況が大きく異なります。それは東京電力福島第一原子力発電所の事故によるものです。地方自治体の存続の危機であり、まちづくりを一から行わなければならないところもあります。その中で、私は相双地区の高等学校の一教員ではありますが、今後の復興には「医療と教育」は欠かせないものだと震災後、常に考えてきました。

震災直後、南相馬市立総合病院の常勤医は4人だったと聞いています。これでは南相馬市は屋内待避指示であれ緊急時避難準備区域の状態であれ、南相馬市の基幹病院としては不十分であり住民の方々は不安だったことと察します。現在は、震災当時とは異なり多くの医師が勤務し、2013年度からは毎年、初期研修医の2名を受け入れている病院となり、

徐々に震災前の医療レベルに戻りつつあり、更には、高度医療を提供できる状態になりつつあると聞いています。しかし、看護師数は絶対的に少なく震災前より病床数を減少させているようです。

安心して住める町の一つの条件として医療の充実があげられます。そこで、病院では看護師職員数が充足している方が良いのですが、相双地区の病院はほとんど充足できていないのが現状です。そのためには、看護士養成機関(学校)を相双地区につくることが、一番効率が良いのではないでしょうか。勿論、すでに相馬市に相馬看護専門学校が設立されており、毎年約40名の看護師を輩出しています。しかし、仙台圏や福島県の他地区での病院を希望している卒業生もいるのも確かです。毎年40名の看護師で育成しているにも関わらず、相双地区は極端な看護師不足なのです。そのため、現在、休校中の双葉准看護学院(双葉町)を南相馬市で再開させる構想があるようですが、私はこの計画には賛成しかねます。というのは、現在の日本看護協会の意向は、准看護師を看護師へ養成することや質の高い看護教育を施すために大学における看護教育の充実や設置、更には、看護系大学院の推進を進めているからです。では、どうしたらよいのかと言ったら、私個人的な考え方で言えば、この相双地区に准看護師養成機関ではなく、看護師養成大学の設立が良いのではないかと考えます。勿論、大学の設立には様々な障壁があることでしょう。しかし、医師養成大学の設立とは異なり、看護師養成大学は今まさに、設立ラッシュアワーの真っ直中です。この期を逃さずにはいられません。いわき市にあるいわき明星大学では2017年度に看護学部を設立するようです。これで、同じ浜通りの相双地区はいわき地区に看護養成機関について遅れをとることになります。

先ほど、震災後の復興には「医療と教育」の充実と述べましたが、住民の安全や安心を提供する一つが医療であれば、親が次に考えることは子供の教育についてでしょう。親は必要以上に子供に期待するもので、自分より良い大学へとか、より良い企業への就職を過度に勧めるものです。では、どうしたら相双地区の教育が向上するのでしょうか、それは、高等教育機関の大学があることが良いのではないかと考えます。歴史ある自治体は別として、新しい自治体で教育レベルが高い自治体を考えた場合、東日本としては、つくば市だと考えます。筑波大学は勿論のこと、高度な研究機関が存在しており、そこに働く子供達が通う学校があり、その学校では児童・生徒達が切磋琢磨して学習、勉学に励んでいることだと感じ取れます。相馬市には優良企業の工場や国内でも名だたる企業の工場が多数存在しますが、社員が単身赴任で勤務している状況が多くあります。これでは、残念ながら、相馬地区の児童・生徒が広い視野を持って学習できている環境とは言い難いです。そこで、高等教育機関である大学の存在が重要になると考えています。話は個人的に20数年前にさかのぼりますが、私が高校生時代に「相馬市を魅力あるまちにするには」という文化祭企画で、私たち有志は「大学と新幹線の誘致」と当時の今野繁相馬市長に提案して笑われた記憶があります。「新幹線」は津波と原発事故の現在の状況で実現できるとは考えていませんが、「大学」はもしかして可能性があるのではないかと考えます。現在の立谷秀清相馬市長は医師でもあるので、この道には精通しているはずですので個人的には期待するところが大きいです。

ここで、相双地区の教育環境整備について考えていきたいと思います。相双地区には、専修学校がいくつかありますが大学は一つもありません。子供達は、身近にいる先輩や家族の姿を見て、夢や目標を定めていくものです。そのような意味で、地域に大学生や大学院生がほとんど住んでいない当地区では、高校生が一流大学へ進学することは想像しがたいのではないかと考えます。元来、相双地区は、温暖で衣食住には苦労せず生活しやすい土地です。高度な技能を修め、身を立てる必要性が低かったのかもしれません。交通の便が悪いため、外部からの刺激を受けづらいこともあります。この状況は、原発事故により、悪化しているのではないかと考えられます。原発事故で人口が減少した影響もあり、相双地区の県立高等学校入試の倍率は全体で一倍を切っています。必死に勉強しなくても、どこかには入学できる状況です。このままでは、相双地区の学力は低下の一途を辿るでしょう。このような状況を打破するために、相双地区に高等教育機関が欲しいと思います。一つでも大学があれば、人も集まり若者で街が活性化され、未来を担う子供達によりよい学習環境が与えられるのではないかと考えています。

最後に、相双地区の住民に安定した生活を提供するための医療システムを整備化し、その医療システムを支える人や相双地区の農産業、当地区で働き生活している子供達の教育を充実化するための教育システムをより良くしていくことが、この相双地区を復興、活性化していくのではないかと考えます。その教育システムの候補が看護系大学の設立であると思います。現在の相馬看護専門学校はこのままでかまわないと思います。看護大学と看護専門学校は危惧されるほど競合しません。勿論大学ですから、授業料について公立である相馬看護専門学校より高額になると予想されますが、その点については、奨学金制度や地域枠で学費支援できる制度を確立できれば解決できる問題だと思います。更には、大学なので助産師養成コースも設立可能で、産科医の少ない相双地区では、助産師のニーズが高いのではないでしょうか。問題は、学生を魅了するだけのまちづくりができるかどうかが不安要素です。相双地区における看護系大学の設立が、地域の看護師不足解消と当地区の教育の充実化、地域の復興、活性化の一助となればと考えています。

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