医療ガバナンス学会 (2014年11月18日 06:00)
この原稿は朝日新聞の医療サイト「アピタル」より転載です。
http://apital.asahi.com/article/fukushima/2014111000006.html
南相馬市立総合病院
非常勤内科医 坪倉 正治
2014年11月18日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
南相馬市で行われている内部被曝検査結果がアップデートされました。2013年10月から2014年3月までに検査を受けた約6000人の結果です。
http://www.city.minamisoma.lg.jp/index.cfm/10,21095,61,344,html
目新しい話はありませんが、しつこく述べます。
15歳以下の小中学生3381人(南相馬市内の小中学生の約99%)が検査を受けており、全員から放射性セシウムは検出しませんでした。子供に関しては、2014年春から夏にかけても悉皆(しっかい)検査が行われていますし、Babyscanも稼働しています。Babyscan側は500人ぐらいの検査が終わりましたが、それらをまとめると、1年以上、15歳以下の小児(乳幼児含む)のだれからも放射性セシウムを検出していないことになります。誰かがたくさんセシウムを摂取しているかもしれない、小児は検出限界をもっと下げて欲しい、など、色々な話がありましたが、今現在、上記の様に十分低い状況を維持しています。
16歳以上は2605人が受診されましたが、98.5%が検出限界以下です。この検出率も上昇の兆しはありません。現状の検査の意味は、今の日常生活での慢性的な放射性物質の摂取がどの程度かの確認です。今や、日常生活で摂取しているかもしれないセシウムは大多数の人でほぼ皆無といって良いでしょう。
今回も50Bq/kgのセシウム-137(それでも年間で0.1ミリシーベルト程度)を超える方は1名いらっしゃいました。が、「自分のことは自分が分かっているからいい」とのことで、外来には来ていただけませんでした。
地産のものを食事で使用していますか?ということをお聞きしていますが、7〜8割ぐらいが「産地を選んで消費する」とお答えになります。その一方、2割ぐらいの方が「流通しているものに関しては産地を気にしていない。」と答えられます。特にBabyscanの検査後、結果説明の外来をしていて顕著に感じるのですが、小さいお子さんがいらっしゃる保護者の方は、より「産地を選ぶ。」「ミネラルウオーターしか使用しない。」方が多いです。産地を選ぶ方は8割を超えます。
南相馬市に住んでいる方は、大なり小なり(安心とか納得よりも)南相馬市に住んで暮らしていくことを決めた方であると、多くの方が文章などで書かれています。私もそう感じます。色々な情報を入手して悩んだけれども、今はここで生活している。メディアや週刊誌、インターネットではいまだに騒いでいる人がいるらしいけれど、別に放射線のことなんて現在、特に触れる必要も無いし、日常会話にも出ない――。これが市内では普通になってきています。
ただ、その「決めた」ときに、地元産のものは子供には消費させない、水道水は使わない、ということも一緒に決めた。そして、その生活スタイルが確立した方が多いのだろうなとも感じています。
もちろん、それが良い悪いではありません。Babyscanの外来で、地元産のものは決して食べないとおっしゃる保護者の方とゆっくり話しても、行動変容にはなかなかつながりません。行動変容を促すことが主たる目的ではないですが、現状の食品のデータや、生産者と話をしていると、何だかな、と思うこともあります。伝えるきっかけ作りと、場所をしっかり持ち続けるしかないと思っています。