医療ガバナンス学会 (2014年12月4日 06:00)
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2014年12月4日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
2014年12月13日(土曜日)
【Session 05】16:15-17:45
医療事故調査制度
●企画者からひと言
満岡 渉
今年6月、ついに改正医療法が成立し、来年10月には医療事故調査制度が始まる。長年この制度に反対してきた者としては痛恨の極みだが、法律が成立した以上それを前提として制度に備えねばならない。
筆者は、“責任追及に流用されうる事故調査は、医療安全にとって有害である”という問題意識を共有する同志とともに、今年4月「現場の医療を守る会」を立ち上げた。さらに今年10月、「現場の医療を守る会」世話人を中心として結成した「坂根班」では、本制度の適切な運用を示す目的で「医法協ガイドライン」を発表した。今や、事故調査を何としても責任追及に結び付けたい「事故調推進派」と、これを阻止しようとするわれわれ「坂根班」との抗争は最終局面を迎えている。
本セッションでは、坂根班メンバーが、現在進行中のサバイバルレースの模様を紹介しつつ、事故調議論の経緯、厚労省原案(昨年5月とりまとめ)の問題点、医法協ガイドライン等について解説する。真に医療安全に資する制度はどうあるべきか、フロアの皆様とともに考えたい。
●医療事故調サバイバルの現状報告
坂根みち子
年余にわたり迷走を続ける医療事故調問題ですが、現場目線での議論がないと本年4月1日に立ち上げられたのが、世話人9名発起人67名を擁する「現場の医療を守る会」のメーリングリストです。このMLには現在、現場の医療者、病院長、医療安全の専門家、司法関係者、政治家、保険会社、メディア等多岐にわたり約250名の方々が登録されています。
2014年6月18日、改正医療法が国会を通り、来年の10月には医療事故調査制度が動き出します。
今回の法制化で、「医療機関の管理者は、医療に起因する予期しなかった死亡を医療事故調査・支援センターに報告する」ことになりました。ただし詳細は厚労省の省令で定めることとし、そのためのガイドライン作りを、全日本病院協会会長・西澤寛俊氏の個人研究「診療行為に関連した死亡の調査の手法に関する研究」所謂「西澤班」に委ねたのです。
これに危機感を抱いた現場の医療を守る会有志では、日本医療法人協会常務理事小田原良治氏らの依頼により医法協内に「現場からの医療事故調ガイドライン検討委員会」通称「坂根班」を発足させ、医療の実態に即した現場目線でのガイドライン作りが始まりました。
当初歯牙にもかけられていなかった坂根班ですが、西澤班が法律を逸脱したガイドラインを作り始めたため、徐々に注目を浴び始め、西澤班とのデットヒートが始まりました。
8月26日「医法協ガイドライン中間報告」が西澤班に先んじて公表され、9月2日には時の厚労大臣に手渡しし、大臣は西澤班のガイドラインと同様に検討資料とすると明言されました。そして翌日には、厚労省内部に医療事故制度に関する検討会を立ち上げるとこが明らかにされ、西澤班の会議記録は厚労省のHPから削除され、西澤班ははしごを外されました。更にMLのメンバーでもあった橋本岳議員が、厚労省の政務官に任命され、形勢は一気に逆転の様相を呈してきました。
坂根班は更に攻勢をかけ、10月にはガイドライン最終版まで仕上げ、厚労省に提出いたしました。医療事故調サバイバルの現状報告です。
●医師法21条の正しい解釈~事故調は本当に必要か?
田邉 昇
現在、改正医療法によって、新たに医療事故調制度が法制化された。今回の事故調制度は、法律の文言上は、かつてあまりの必罰的な内容から医療界の猛反発を受け、国会提出前に潰れた、所謂大綱案ほどではないが、省令に落とされている部分が多く、その用いられ方によっては、東京女子医大事件、福島県立大野病院事件のような冤罪人権侵害事件を惹起する危険性を強く内包しているものである。厚労省研究班(西澤班)での議論や厚労省の立ち位置をみていると、その危険性は大きいと言わざるを得ない。
そもそも医療界が、このような危険性の高い制度を容認、さらには推進してきた背景には、医師法21条についての誤った解釈(法医学会基準や医療過誤を異状とする考え)が是正されてきたためであろう。すなわち、「①医師法21条があるので、医療事故はすべからく警察に届けなくてはいけない。②警察に届ると、刑事事件になる。③警察以外にもっと優しく、医療の実態が判った機関ができれば、④そこに届ればよいようになれば医師は安心して診療できる。」といった発想である。
①は全く誤っている。私の責務は①の誤りをただすことである。
医師法21条については、すでに、東京都立広尾病院事件において、最高裁平成16年4月13日判決が結論を出している。
同事案は、すでに退院予定のある手指手術の患者に、准看護師が誤って消毒薬を静注して死亡せしめたという事案であり、きわめて明白な医療過誤事件である。
医師法21条の届け出義務違反事件の共犯として起訴された病院長について、東京地裁は、患者の予期しない急変、明白な医療過誤、死亡診断時の外表面の異常性の認識を認定し、死体を検案して死亡原因が不明であるというのであるから、死体を検案して異状性の認識があったとして有罪認定したが、この判決について、東京高裁は、同様の事実認定ながら、あくまで異状性の認識は外表面に求めるべきであるとして、死体の外表面の異状を明確に認識していないのであれば異状性の認識はないとして原審を破棄自判している。最高裁も死体の検案とは外表面を調べることであるという定義を採用して、高裁判決を支持している。
かかる最高裁の判断は、憲法38条1項で保障された自己負罪特権と犯罪捜査の便宜という医師法21条の趣旨を調整した合憲限定解釈によるものである。
従って、院内での診療行為に起因した死亡のほとんどすべては、外表面に特段の異状がない場合がほとんど(外科手術の手術痕は、手術を行うことが異状でない限り外表面の異状ではないことは当然である)であるから、診療関連死に医師法21条が適用されるケースはきわめて希なのである。
現行法上診療関連死は、警察に届ける必要は全くない。バーター的に事故調制度を安易に受け入れることなく、正しい医師法21条の解釈を厚労省、医師会は医療現場に衆知させるべきである。