医療ガバナンス学会 (2014年12月4日 15:00)
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2014年12月4日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
2014年12月13日(土曜日)
【Session 05】16:15-17:45
医療事故調査制度
●政治家、厚労官僚、弁護士からみた事故調
井上清成
1 総論
(1)政治家からみた事故調―何が真の国民の利益か?
「票にならないし、政治資金にもならないし、政治的リスクも大きいので、無関心」が大勢か(有為な政治家は与野党合わせても極小数)
(2)厚労官僚からみた事故調―どちらが真の厚労省か?
a.法令系事務官
「法律にのっとって、安定した法律の施行ができるようにしたい」が本音か(法治国家、法治主義に忠実)
b.医系技官
「いい加減な医師を断罪したい、患者被害者に突き上げられたくない、自らのテリトリーを広げたい、予算を獲得したい」のが生態か
(3)弁護士からみた事故調―先に紛争ありきか?
a.患者側弁護士
「医療事故は即ち民事紛争であり、民事紛争の適正な解決のために原因究明と再発防止が必要」と思えてこその正統派か
b.医療側弁護士
「患者と医療者の歩み寄りによる紛争解決が信頼構築のために大切」(足して2で割る解決)程度が大勢か
2 各論―医系技官、両側弁護士の思い?
(1)医療事故の範囲を広げたい!
(2)「予期しなかった」は主観説よりも客観説で!
(3)WHOドラフトガイドラインは好かない!
(4)証拠制限契約は無効とまでは言えないので、無視!
(5)院内事故調査は、院内医療安全管理委員会や日本医療機能評価機構の医療事故情報収集等事業と切り離したい!
(6)院内事故調査委員会、支援団体、医療事故調査・支援センターに介入したい!
(7)簡易迅速な紛争解決のために、報告の詳細な文書化は必須!
(8)制度を拡大・充実させないと制度への信頼は失墜し、真相究明の拠り所として国民の信頼は刑事司法にシフトするぞ!
●真に医療安全に資する制度~WHOドラフトガイドラインと医療事故調村の抗争~
佐藤一樹
改正医療法で法制化された本邦初の医療事故調査制度の施行は来年10月に迫っている。同法には「省令で定めるところ」が13箇所あり、厚労省の権力がおよぶ危険性が高い。実際、厚労省の立ち入りに関連した違反行為に刑罰(罰金30万円以下)を科す条文がある。
一方、ガイドライン作成のための西澤班における私の役割は、現場医療者の人権を守った上で真の医療安全を確保することである。前提として、2005年WHOのHPに公開された世界の医療安全モデル「有害事象の報告・学習システムのためのWHOドラフトガイドライン」を班員に示しているが、これに反駁する勢力が存在する。
WHOドラフトガイドラインが強調することは、「個人や医療機関の責任を追及する『説明責任を目的とした報告システム』とエラーから学習して再発を防止する『学習を目的とした報告システム』は両立しない」ことである。医療の質・安全の向上を第一とするのであれば「学習を目的とした報告システム」を選択すべきである。そのためには、非懲罰性、秘匿性、担当官庁からの独立性が不可欠である。個人への注意喚起ではなくシステムを改良し現場医療者が安全に仕事をできるような対策を講ずる「システム指向性」や現場に情報が迅速に反映される「適時性」なども重要である。
これに対し、医療安全を科学的に研究する専門家にとっても、work-as-done(実際に現場で行われているやり方)で医療に従事する者にとっても、当然と思われるWHOの精神に反駁する勢力はwork-as-imagined(現場を知らない人達による想像の上での仕事のやり方)と利権の座標軸から事故調を捉えている輩である。すなわち、厚労省医療安全推進室の医系技官らと、報告事例を収集しても何の対策も取らない「無為無策」であった日本医療安全調査機構「診療行為に関連した死亡に関する調査・分析モデル事業」の周囲に群がる医師・法律家らである。この「事故調村字モデル事業」に対峙し現場医療従事者が決起すべき時は今しかない。
●医法協ガイドラインと厚労省検討部会
小田原良治
医療事故調査制度は、第三次試案・大綱案を経て、今年6月「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律」として成立、改正医療法として動き出すこととなった。法律成立に至るまで、医法協は、本制度の危険性を訴え、強く反対を表明して来た。平成25年5月の厚労省とりまとめ後も、法案化にあたって、本制度が医療現場に混乱を来さないよう最大限の努力を傾けてきたが、11月の厚労省との協議により「医療安全の仕組みであること」「責任追及に結び付けないこと」を確認し、立法への理解を示すこととなった。厚労省は、法施行に向けて、ガイドライン作成のため、厚労科研費による検討会「診療行為に関連した死亡の調査の手法に関する研究」研究班(西澤班)を組織した。しかし、議論の過程において、西澤班による唯一のガイドライン作成の危険性を察知した医法協は独自に「医法協ガイドライン」を作成して現場の選択肢を増やすこととした。困難な決断ではあったが、今日、結果的に医法協の判断の正しさが明らかとなった。西澤班はその後、法律を逸脱して迷走を続けたため、本年11月、厚労省は新たに「医療事故調査制度の施行に係る検討会」を立ち上げるとともに、医療事故調査制度に関するQ&Aを発表し、議論の方向性を示すこととなった。医法協は、すでに9月には「現場からの医療事故調ガイドライン検討委員会中間報告」を発表、10月には、「日本医療法人協会医療事故調ガイドライン」を公表している。今後の厚労省検討会においても、現場の対応のための指針としても医法協ガイドラインは大きな役割を演ずるものと確信している。