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Vol.287 現場からの医療改革推進協議会第九回シンポジウム 抄録から(10)

医療ガバナンス学会 (2014年12月11日 15:00)


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2014年12月11日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

2014年12月14日(日曜日)

【Session 10】15:15-16:45
グローバルヘルス・感染症

●第一種感染症指定医療機関の役割
森澤雄司

2014 年秋の時点でエボラウイルス感染症(EVD)がギニア、リベリア、シエラレオネの西アフリカ地域 3 か国において猖獗を極めており、国際的な観点からも公衆衛生上の緊急的な重要課題となっている。かの 3 か国における感染拡大の最も大きな要因は社会的インフラの圧倒的な欠如であると考えるが、南北問題を長く放置してきた歴史のツケが回ってきたとも思われてしまう。一方、国際支援活動にあたるスタッフも EVD のリスクに曝露されることとなるため、万一の場合に母国にあって先進的な医療を提供することが出来る体制を充実する必要がある。加えてグローバル化の進む現代社会では流行地域から国境を越えて、さらには日本へ EVD 症例が到達する可能性があり、万全の感染防止対策が求められる。米国などからの報告によれば、EVD 症例では患者の健常な皮膚からもウイルスが検出されており、空気感染伝播しないとはいっても、これまでと違う次元で接触飛沫感染予防策の厳密な実践が必要となる。
わが国の法律で EVD は一類感染症に分類されている。感染症法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)によれば、都道府県知事(等)は一類感染症のまん延を防止するため必要があると認めるとき、当該感染症の患者・保護者に対して医療機関への入院を勧告、勧告に従わないときはその患者を医療機関へ入院させることができる。この医療機関は、原則として厚生労働大臣が指定する特定感染症指定医療機関と知事が指定する第一種感染症指定医療機関の計 45 病院 92 床であり、これらの施設へ集約的に資源が投下されるべきであると考える。具体的な対応策を検討すると、個人防護具(PPE)などのような物的資源のみならず、強いストレスの下に勤務する看護師、医師、その他の従事者の勤務形態・シフトなどを考えると、人的資源への配慮、さらに柔軟な感染症指定医療機関の協力体制なども議論される必要があると考えている。

●エボラウイルス2次感染で浮き彫りになった米国地域医療の問題点―テキサス州ダラスでの事例から―
瀧田盛仁

今年9月30日、米国で初めて、エボラウイルス感染が確認され、さらにその10日後、治療を行った病院内で2人の看護師が2次感染していたことが明らかになった。この一連の出来事は米国の地域医療が抱える様々な問題点を浮き彫りにした。例えば、医療従事者間の情報伝達の問題である。エボラウイルス初感染者が初めて救急外来を受診した際、医師・看護師間で西アフリカから渡米したという情報は共有されなかった。また、初感染者の確定診断後、CDC (米国疾病対策予防センター) から直ちに専門家がダラスに派遣されたが、医療従事者に対する実効性のある感染防御対策は遅れた。病院外での2次・3次感染を防止するため、エボラウイルス感染者に接触した可能性のある人を絞り込み、体温測定などの健康管理を行ったものの、実際は、病院内で2次感染が発生し、さらに感染者の治療や血液検査に直接、従事した職員が飛行機や大型客船で遠距離旅行をしていたことも明らかになった。これは全て、900床を誇る地域の中核病院で起こった出来事である。結局、2次感染した2人の看護師は、バイオセーフティレベル4と呼ばれる施設を併設する、他の州の高度病院に搬送された。2人は、その後、血液からウイルスを検出しない状態になり無事に退院した。これを受け、テキサス州ではエボラウイルス感染者専用の病床を確保し、診断・治療のステップを変更した。即ち、従来、地域の中核病院でエボラウイルス感染の診断・治療を行うことを想定していたが、現在、エボラウイルス感染を疑う段階から患者を専用病床に搬送する方式に変更している。州政府は中核病院が必ずしも万能ではないことを認めたのである。最大21日とされる潜伏期のため、エボラウイルス感染者が国境検疫をすり抜ける可能性は高く、先進国でもエボラウイルス感染が拡大する危険性は否定できない。ダラスでの教訓が今後の感染対策の糧となることを望む。

●新興感染症に備える ~公衆衛生学的介入の見極めについて
高 山 義 浩

感染症の臨床と行政に携わってきた感覚で言うと、「感染症は見てないところで拡がっている」ものである。H5N1に注目していたら、H1N1pdmが出現したり、東南アジアに注目していたら、メキシコで発生したり、いきなり都内の公園でデング熱が拡がったり・・・。裏をかかれるような感じがあるのだが、実は簡単な話で、「我々が見ている範囲が狭いだけ」なのだろう。100の現実のうち10しか私たちは見ることができない。だから、ほとんどの事象は残りの90から発生している。
しかし、それでも私たちは備えなければならない。どのような新興感染症であっても、警戒を高めておき、最大限の備えをしておくのは当然のことである。そして、発生想定を決め打ちをするのではなく、残り90の可能性も踏まえた姿勢で(たとえて言うならば、どの方向にボールが転がっても素早く拾えるような中腰で)訓練を重ねておくべきだろう。
実際に発生してからは、どれだけ迅速に(ボールの方向や速度などを)絞り込めるかが重要となる。具体的には、刻々と変化する疫学情報を見極め、公衆衛生学的介入のレベルを調整しなければならない。そして、国際的な情報収集力と臨床的な分析力、政治的な決断力、そしてメディアと連携したリスコミ形成力が求められる。2009年の新型インフルエンザ対応を例示しながら考えたい。

●リスクコミュニケーションは日常の積み重ね
川口 恭

10年目に入った月刊誌『ロハス・メディカル』の発行を通して、医療従事者と患者・社会の間の軋轢を緩和しようと努めてきた。慶事で医療機関を受診するというのは妊娠くらいしか考えられず、ほとんどの患者は不本意にリスクにさらされているはずなので、私のしてきたことは、リスクコミュニケーションの一種と考えてもよいだろう。
ただし、成功してきたとは言い難い。毎日のように配置病院を巡回して、どのように読まれているかを眺めていると、手に取って読んでいる人はそもそも医療従事者とギスギスしそうもない雰囲気を醸しており、気持ちに余裕がなさそうで刺々しい雰囲気をまとっている人は残念ながら冊子を手に取ってくれていない。このミスマッチを何とかできないか、と様々に試行錯誤してみたが、どうにもならなかった。力不足を歯がゆく思うのと同時に、最近では、読んでくれている人が疑心暗鬼からダークサイドに落ちるようなことを防ぐだけでも、少しは意味があると考えるようにしている。
この経験を通して痛感しているのが、不本意にリスクにさらされ、事前に信頼関係のない相手から情報を伝えられた時、少なくない人は、情報そのものが妥当か否かを判断する前に、情報を受け取るに値する相手かどうか判断するフィルターがかかるということだ。
考えてみれば、脳の能力が限られている以上、リスクにさらされた時に、不要と思う情報を遮断するのは合理的なことだ。
これは、イザ何かが起きてからリスクコミュニケーションを始めても、情報をスルーされてしまって、大した効果は期待できないということを意味している。限られた注意力を割いてでも、この人から出てくる情報は受け取ってみようと思わせる信頼関係を普段から築いておく必要があるのだ。
医療界は、それだけの信頼関係を、社会一般と築いているだろうか。

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