【がん医療における情報伝達の研究は世界的にも注目されはじめている】
このたび筆者らの研究グループは、「がん関連ウェブサイトの訪問者特性」について解析を行い、その結果がJournal of Clinical Oncology誌9月1日号に掲載されました(http://jco.ascopubs.org/cgi/content/full/26/25/4219)。『Journal of Clinical Oncology』誌はアメリカ腫瘍学会の機関誌で、臨床腫瘍学の分野で最も読まれている学術雑誌の一つです。今回の研究成果の掲載は、がん医療における情報伝達が世界的のがん研究者にも注目されはじめていることを示しており、今後ますますこの分野の重要性が増してくると思われます。
そこで本稿では、私たちの今回の研究を紹介させていただきたいと思います。なお、この研究は厚生労働省の班研究(主任 中田善規 帝京大学麻酔科教授)の一環として行われました。
【インターネットから情報を得るがん患者が増えている】
がん患者さんにとってインターネットは貴重な情報源です。自分自身や家族が初めてがんと診断されたとき、手術や抗癌剤の治療を受けるときなどをきっかけとして、インターネットでがんに関する情報を集めることが多いと思います。しかし、インターネット上には情報があふれており、自分に本当に重要な情報を得るのは簡単ではありません。
【患者にとって使い勝手のよいウェブサイトとは?】
がんに関する情報を提供しているサイトは、提供する情報の種類によって大きく二つに分類されます。一つは、一般的ながん情報を提供する国立がんセンターのホームページなどのサイト。もう一つは、闘病記サイト(もしくはブログ)といった、提供する情報の範囲は狭いものの、より特殊な情報を提供するサイトです。患者さんの個別のニーズに対応できる使い勝手の良いウェブサイトを構築するためには、いろいろな種類のウェブサイトが有機的に連携することが必要です。そのためにも、「いつ訪問するか」「どのような頻度で訪問するか」などの訪問者の特性をウェブサイトの種類毎に把握して、患者の個別のニーズに合致したウェブサイトを作っていく必要があります。
【影響力の強いがん関連100サイトを抽出】
そこで私たちはまず、「がん」や「悪性腫瘍」といった、がんに関係するキーワードを使用してYahoo!検索を行い、ヒットする2000ウェブサイトを抽出しました。そのなかで、より検索されやすいウェブサイトを独自の基準で100サイト選びました。そして、これらのサイトに対してアクセスログ(訪問者がウェブサイトに残す「足跡」)の解析をお願いしました。結果、匿名を条件に25のウェブサイトに協力に応じていただきました。
【患者闘病記サイトは今後重要なカテゴリーに】
今回協力25サイトの内訳は病院関係6サイト、製薬会社関係5サイト、闘病記関係14サイトでした。今回の研究で私たちは特に闘病記サイトに目をつけました。このカテゴリーは今までの研究ではほとんど注目されていませんでしたが、私たちの今回の調査ではがん関連サイトの中で約1割の影響力を占めるまでになっていました。ウェブサイトで闘病記を書けば、時空を超えた患者同士の情報伝達が可能になり、従来の対面型の患者会よりも利便性がよく低コストでコミュニケーションを図ることができます。また、医療者からは提供されないが患者にとって有用な情報が、このような媒体を通じて提供されている可能性もあります。このように闘病記のサイトは今後、重要なカテゴリーになってくるでしょう。
【ウェブサイトの種類によって訪問者の特性が違う】
つぎに、ウェブサイトがいつ訪問されるかについて、病院系ウェブサイトと闘病記サイトで比較しました。病院系ウェブサイトは平日午後に訪問頻度が多く、休日に低くなっていました。一方の闘病記ウェブサイトはほとんど曜日変動がなく、夜間にアクセスが多いことが分かりました。病院系ウェブサイトへの訪問のピークは実際に病院に受診する時間と一致していますので、受診目的の利用が多くを占めるのではないかと推測できます。また他方、夜間にアクセスが多い闘病記ウェブサイトでは、訪問者が余暇の時間を利用して訪問する傾向があると推測されます。これは闘病記ウェブサイトが一方向の情報発信だけではなく、患者や家族同士の情報伝達のツールになっていることを反映しているのかもしれません。
また、闘病記ウェブサイトの訪問者がそのサイトを再度訪れる割合(リピート率)は、一般的な情報提供型のウェブサイトよりも高いことがわかりました。これは特に乳がんの闘病記で顕著でした。さらに、訪問者がどれだけウェブサイトに対して熱心に訪問しているかを評価する訪問者親密度解析でも、乳がんの闘病記サイトには熱心なファンが多いことが分かりました。
【訪問者の特性を考慮したウェブサイトの構築が必要】
私たちの今回の研究では、がんのウェブサイトの訪問者の背景や行動は、ウェブサイトの種類により様々であることが分かりました。これは訪問者が多様なニーズを持っているからだと思われます。がんのホームページを利用者にとって使いやすく有益なものにするためには、訪問者の背景や行動をふまえたウェブサイトの構築が必要だと考えます。
【研究の詳細は・・・】
がん医療における情報伝達、なかでもインターネット(ウェブサイト)の重要性は、今後ますます増してくるはずです。私たちの今回の研究の詳細については、下記URLより論文(「Detailed Analysis of Visitors to Cancer-Related WebSites」)をご参照ください。
http://jco.ascopubs.org/cgi/content/full/26/25/4219
成松宏人
略歴:
1999年 名古屋大学医学部医学科卒業
1999-2004年 愛知県厚生農業協同組合連合会 昭和病院 研修医・内科医員
2004年 国家公務員共済組合連合会 虎の門病院 血液内科 受託研修医
2005年 豊橋市民病院 血液内科 医員
2008年 名古屋大学院医学系研究科分子細胞内科学(血液・腫瘍内科学)修了
2008年4月より現職