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Vol.007 内部被曝通信 福島・浜通りから ~「文化を守る」の葛藤

医療ガバナンス学会 (2015年1月9日 06:00)


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この原稿は朝日新聞の医療サイト「アピタル」より転載です。

http://apital.asahi.com/article/fukushima/2014120900004.html

 

南相馬市立総合病院
非常勤内科医 坪倉 正治
2015年1月9日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


トナカイの肉を初めて食べました。いただいたのは霜降りではなく赤身、アメリカのレストランで出てきそうな美味しい肉でした。サーミの方々の主たるたんぱく供給源で年間15kgぐらいは消費するようです。NRPA(ノルウェーの放射線防護庁)の方の話では、規制値は6000 Bq/kg、現在の日本の60倍でした。サーミ人の内部被曝の平均は、現在の福島での最大値の2倍ぐらい、ということを前回紹介しましたが、その原因の一端にはなっています。

なぜそんなに高い値のままなのか? 彼らの言葉をそのまま用いると、「今まで何年かごとに、値を下げるべきかという議論はなされてきた。しかしながら、ALARAの原則(被曝量を、無理なく到達可能な範囲でできるだけ低くすべき《As Low As Reasonably Achievable》という考え方)にそぐわない。これ以上厳しい基準値にしてしまうと、サーミ人の文化のまさに中心にあるトナカイの放牧とその摂取を止めてしまうことになる。そうすると、サーミの方々の文化を完全にextinctしてしまう。」と表現していました。「Extinct」、絶滅とか消滅とかいう訳になるのだと思いますが、強い表現だと感じました。

文化という言葉が出てきてふと、以前お酒が好きな患者さんから言われたことを思い出しました。「血圧を下げるために、塩分を控えなさいって、あなた方医者が、塩分控えめ控えめと言い続けることで、日本の各地域に古くからある食文化を破壊し続けている認識はあるのですか?」と。塩辛や漬物、塩鮭、味噌汁などが大好きな方でした。私は見たことがありませんが、鮭にたくさんの塩をつめてそれを山積みにして保存するという光景が見られなくなって寂しい、と彼は続けました。個人と全体の問題でしょうか、大規模に何も考えず、誰にでも血圧を下げましょうといったキャンペーンじみた話を医者がするのが気にくわなかったようです。そんなこと言われても、という感じでした。「いや、でも血圧が高いと、脳梗塞や心筋梗塞とかになるリスクが上がりますし、腎臓にも悪いです。もちろん、どうするか最終的には個人の自由ですが、降圧薬は飲んで欲しいなと思っています」みたいな返事をしたように思います。

人為的に起こっている放射能の問題と同列にいうつもりは全くありません。個別に話をしながら相談することはできても、全体として基準をどうするか? なんて、どうやっても違和感が残ることを感じました。

話を戻します。NRPAの方はさらに続けました。6000から下げなかった理由があと3つあると。一つめは、結局検出されている内部被曝は、数mSv程度ですんでおり、対策を講じることで、1mSv以下の内部被曝を達成可能であること。二つめは、そのように値を下げることで、流通内でのトナカイの肉の価値が高まるわけではないこと。三つめは、サーミ人の人口はノルウェー全体の2%程度であり、彼らの食べている食べ物は、他98%の方の流通にはほとんどのらないこと。とのことでした。

そんな、文化を守るとかいって、結局外部にはあまり流通しない、自分に関係ないからって話? サーミの方自身が言うならまだしも、外部の人間がそれを言ったらおかしいでしょ! と言おうと思いましたが、その前に不公平性のことや、コストの問題などについて彼らも認識していることが分かりました。

日本の基準値は100Bq/kgとなってはいますが、99までは全く大丈夫で、101から身体に悪いからダメだという基準ではありません。実際の計測結果も、100をかなり越えるものがある一方で、ほとんどの食べ物は99ではなくて検出限界以下であり、もっと圧倒的に低いという状況です。明らかに高いものをはじくための基準となっています。

サーミ人の話を聞いていて、日本の食文化の中枢にある米が、キノコ類やイノシシなどと異なりセシウムに高度に汚染されやすい食材ではなかったことに、不幸中の幸いだったと感じる一方、うまく解決できない諸問題に何かもやもやしながら過ごしたノルウェーでした。
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http://apital.asahi.com/article/fukushima/index.html

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