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Vol.008 周産期喪失~家族それぞれの悲しみ~

医療ガバナンス学会 (2015年1月12日 06:00)


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神奈川県立こども医療センター
藤井弥生

 

2015年01月12日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

神奈川県立こども医療センターの母性病棟は、22年前に開棟した。こども病院に併設する総合周産期母子医療センターとして、全国に先駆けてのスタートだった。健診で胎児異常を指摘された妊婦が紹介状を持って当センターの外来を訪れるが、その数は年々増加傾向にある。

数日間の検査入院を経て、母子にとって最善の分娩方法や出産の時期、赤ちゃんの治療方針などが話し合われ、ご家族に説明されるが、重い病状や元々の体質により、お腹の中で亡くなってしまう赤ちゃんや、生まれて数日以内に息を引きとる赤ちゃんも少なくない。
そういった理由から当病棟での昨年度の周産期死亡率 77.9(出生1000対)は、全国の周産期施設の中では群を抜いて高い。

私たち母性病棟のスタッフは、赤ちゃんを亡くされたご家族と数多く関わる中で、気持ちに寄り添い、ケアの形を変化させてきた。
亡くなった赤ちゃんと母親が退院まで病室で一緒に過ごす『母児同室』への取り組みは、10年ほど前に始まった。今では当たり前に、大半の母親が赤ちゃんとの同室を希望され、父親が一緒に泊まることもできる。しかし、当時の常識とは、かけ離れていたように思う。

10年前に『母児同室』のきっかけをつくってくれたAさんご夫婦は「長く生きられない」と言われたわが子と、分娩室で一緒に過ごす時間を楽しみにしていた。好きな音楽を流したり、本を読み聞かせたりするうち2時間があっという間に過ぎ、赤ちゃんはその間に亡くなった。病室に戻ったAさんは「今しか一緒にいられないから、もう少し赤ちゃんと一緒にいたい」と言われた。当時、分娩室で赤ちゃんと一緒に過ごしてもらうことは、普通に行われていたが、病室に戻ってからの同室は前例がなかったため、担当したスタッフは戸惑い、上司や産科医に相談した。「やってみようか」そのひと言で、初めての母児同室が始まった。Aさんは、親子3人でひと晩を過ごし、翌朝 Aさんからの申し出で、スタッフが赤ちゃんをお預かりした。

亡くなった赤ちゃんの葬儀に関する準備や手続きは、ご家族に行っていただいている。分娩後1-2日での早めの退院を希望する方は少なく、葬儀の準備を進めながら、赤ちゃんとの時間を大切に過ごされる方が多い。健診などで後日お会いした際に、赤ちゃんと過ごしたその時間が、とても貴重であったというご意見を頂戴することもしばしばある。
入院中や産後健診、家族の会などでお話を伺うと、赤ちゃんを亡くした悲しみは、母親 父親 きょうだい 祖父母、それぞれであり、その表現もさまざまであることを痛感する。父親は葬儀などの手続きを中心となって行い、妻を支えつつ仕事にも出かけなければならず、なりふり構わず悲しむことができない。その様子が、母親には淡々と映ってしまい、夫婦で気持ちがすれ違ってしまったという話を聞くことがある。そのようなすれ違いを少しでも防いでいけたらと思い、入院中にお渡ししているパンフレット【こころとからだの道しるべ】の中で『家族それぞれの悲しみ』について触れ、産後健診でお話を聞く際にもお伝えしている。

いつの頃からか、私の心に引っかかっていることは、むしろ祖父母との関係についてである。
「亡くなった赤ちゃんの存在は、歳月を経ることで薄れるものではなく、その子はその子として、家族の中で存在し続ける。また、健康な次子を出産したからといって、悲しみが軽くなるものでは、決してない。」これは、赤ちゃんを亡くされたご家族の会に参加させていただいた際に、多くの方が言われることだが、周囲の人々に話しても、その感覚を理解してもらえることは、ほとんどないという。
祖父母は、両親に元気を出してもらいたい一心で「時間が経てば忘れられる」「元気な子が生まれたから、もういいよね」と声をかけ、無意識に傷つけてしまうようだ。「一番言われたくないことを一番言って欲しくない親から言われた。それ以来、あまり連絡をとっていない」などという話を産後健診で聞くことがある。
しかし、亡くなった赤ちゃんが両親にとってかけがえのない大切な存在であるのと同様に、祖父母にとっては赤ちゃんの両親が大切なわが子なのだ。傷つけようと思って言葉をかけているわけでは決してない。「親御さんに悪気はないんですよ」そんな言葉をこれまで返していたように思う。しかし相手の表情はたいてい曇ったままだ。

先日 参加させていただいた家族の会で、あるお父さんがこんなことを話していた。「こどもは、短い命をもって、実にいろんなことを私たちに教えてくれた。悲しみは消えないけれど、泣き暮らしていてはダメだ。こどもに恥ずかしくない生き方をする」強く印象に残っている。
赤ちゃんは、すぐ近くで家族を見ていてくれる、そう話される方も多い。自分の死がきっかけとなって、両親と祖父母の気持ちがすれ違ってしまったら…赤ちゃんは悲しむのではないか?少なくとも喜ばないと思う。祖父母の言葉で傷ついたとしても、親子なのだから率直にその気持ちをぶつけてみてはどうか。

ご家族の声を直接聞く機会を持つ医療者として、今後はそんな風に声をかけていってもいいのではないだろうか。賛否あるかも知れないが、これまでの自分の関わりを振り返り、改めてそう思った。

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