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臨時 vol 133 第1回 「医療における安心・希望確保のための専門医・家庭医のあり方に関する研究」班会議 傍聴記

医療ガバナンス学会 (2008年9月25日 11:45)


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     ~ いろいろな意味で革命的 ~
                ロハス・メディカル発行人 川口恭

先週日曜日にMRICで、突如以下のようなメールが送られてきたのを、ご記憶の方もいることだろう。
第1回 「医療における安心・希望確保のための 専門医・家庭医(医師後期研修制度)のあり方に関する研究」班会議の開催について 国立がんセンター中央病院長 土屋了介 「安心と希望の医療確保ビジョン」具体化に関する検討会において、国民に 質の高い医療を提供するために必要な、我が国の土壌にあった医師の後期研修のあり方について検討すべきとされたことを受けて、「医療における安心・希望確保のための専門医・家庭医(医師後期研修制度)のあり方に関する研究」班会議を開催することとなりましたので、お知らせいたします。検討会での方針に従って、第三者機関の設立や公的資金の投入についても含め検討したいと考 えております。
1 日時
平成20年9月22日(月) 13時~15時
その時間には大事なアポがあったのだが、こちらも見逃せないのでリスケジューリングしてもらって傍聴に行って来た。
結果的にみるとリスケして大正解。会議の中身そのものも面白かったけれど運営も面白かった。
面白かったポイント
1、頭撮りではなく、ずっとNHKのカメラが撮影をしていた。
2、班のサイトを立ち上げて、会議の模様を全文文字起こしして速やかに公開すると共に随時意見を募集するという。(逐語報告しないで済むので助かる)
この運営が、もし霞が関の標準になれば、間違いなく日本は変わる。それくらい革命的だ。意欲的なメディアにとっても願ってもないことだろう。ただし、記者クラブでタテのものを横にするだけで仕事をした気になっていたような人たちは嫌がるに違いない。
ちなみに委員と議事次第はこちら( http://lohasmedical.jp/blog/kawaguchi/%E5%BE%8C%E6%9C%9F%E7%A0%94%E4%BF%AE%E7%8F%AD%EF%BC%91.pdf )
班のホームページで介護の模様がすぐに報告されるようになったら、この議事録的傍聴記も必要なくなるのかもしれないが、とりあえずリリーフ役のような気楽さでご報告してみる。
冒頭は舛添大臣の挨拶から。ちなみに、班会議「ごとき」に大臣が挨拶するのは異例のことらしい。
「ビジョン具体化検討会を行ってみて、医師数の不足と、地域や診療科による医師の偏在の2つのポイントが浮かび上がってきた。医師の数に関しては、閣議決定を見直して増やすという判断をした。文部科学省と緊密な連携をとって、来年度予算に医学部の定員増を要求している。対して偏在については、いろいろな角度からの意見があったが、中で教育・研修制度の在り方というのが浮かび上がってきた。そこで一つは文部科学省と共同で臨床研修制度に関する検討会を立ち上げた。もう一つ専門医をどう育てるのか後期研修に関する研究班を立ち上げようというのが、この班だ。
私も現場のプロフェッサーの意見を聴いたり、若い学生たちの意見を聴いたり、いろいろと現場を見てきた。どういう形のプログラムを組めばいいのか、大学の実習と臨床研修と内容がダブって勿体ないという意見があり、しかしまた新制度は医師の絶対的な総合力のレベルアップをめざしているもので成果はある、片一方で地域や診療科の偏在に拍車をかけているという話もあり、極端なことを言う人は、2年を1年に減らすだけで随分医師が増えるということを言う人もいる。
この問題を考えるには教育全体を見る必要があると思う。もう一つの検討会でも言ったことだが、わたし自身も大学の教官をしていて、研究者の資質と教育者の資質は違って、私などは自分の研究に専念したいたちだった。それが果して教師像としてはどうなのか。教官の質を論文数だけで評価していいのか。たとえ論文の数は少なくとも、本日岡井先生もお見えだが、この先生に出会ったから、たとえ訴訟リスクは高くとも産科医を続けるんだという人が出てくる、そういうのが一番だと思う。しかしながら、教官をどのように評価するのかは文部科学省の中にルールがあって、そこまでメスを入れないと教育全体は語れないということで文部科学省と共同の検討会を設けたわけだ。
これはあくまでも研究班なので、皆さん専門家が見てどうなのか、大臣にも誰にも遠慮することなく、いろいろな形の提案を出していただきたい。ぜひ皆様に頑張っていただきたい」
土屋
「それでは検討会に参加していなかった新しい班員4人をご紹介する」
4人の紹介が終わったところで大臣退席。
土屋
「冒頭に私から背景の説明を。(中略)わが国における後期研修の在り方として、どのような仕組みを考えたらよいのか。できれば年内にアウトラインを示して、来年度には具体化に向けたステップを考えられれば。班会議であって、ここで出たらすぐ政策になるというものではないので、ぜひ忌憚なくいろいろな形を考えていきたい。
議論をオープンにすることも大切で、議事の模様はすべて公開するし、テレビカメラにも入ってもらって全部記録してもらう。uminにこの班会議のホームページを立ち上げて随時各界からの意見をいただくこともする。特に秘密にするようなこともないので、よろしいか。国民の皆さんに会議と同時進行的にその内容を知っていただいて、そのうえで議論したい。
(略)
国民の税金を使って運営されるものなので、厳格に執行をお願いする。
(略)
皆さん専門家として出席されているので、専門性は高いと思うのだけれど、背中に背負ったものの利益代表的な発言は控えていただいて、わが国全体のため、国民のために明日の医師を育てるには何が必要かという観点でご発言いただきたい。当面の医師育成は厚労省が取り組んでいる。我々は明日の医師をどう育てるのか考えるのがミッションだ。
なお陰で私がこのような班会議の班長にはふさわしくないのでないかということを言う人もいるやに聞く。たしかに新聞報道などもされている通り、麻酔医が不足して手術が7割ぐらいしかできていない。自分の足元がグラついていて、よそのことを議論している場合かという意見だと承知している。しかしながら6月の日本麻酔科学会の折に窮状を訴えて御協力をお願いしたところ、学会を挙げてご支援いただけるということになり、10月には某大学の助教授が職をなげうって手術部長として赴任してくださることになった。ここにもいらっしゃる山田先生と横浜市立大の後藤先生の御尽力の賜で、その後来年4月には今まで通りか、むしろ今まで以上に手術を行えるようになる。そこまで見通しがついたので、お引受けしてよかろうと判断した。わたしどもは後期研修医としてチーフレジデントを各学年30人で3年間、さらにその後でがん専門修練医を各学年20人の2年間、全部で130人を育てている。各大学にできる臨床腫瘍教室の教授はほとんどが私どもの病院の出身者だし、外科系でも多数の教授が生まれている。私がということでなく、国立がんセンター中央病院の院長がこの仕事をするには適任と自負している。
国民がどのような医師を期待していて、どの分野に何人の医師が必要なのか検討するには、専門家だけでやっていていいのかという意見は当然あり、広く国民から意見を聴く機会を設けたい。特に日程を設定してということではなく、ホームページ上でいつでも意見が届く形にしたい。
それから報道の皆さんにお願いをしたい。報道は編集次第でいかようにもなるので、ぜひとも建設的・紳士的にお願いしたい。内容をチェックさせろなどとケチなことを言うつもりはない。真意が伝わるような報道をしていただければと思う。
次に具体的な進め方についてお話をしたい。年度限りの班なので、あと残された期間は半年しかない。10、11、12月と精力的に会合をもって正月休みには腹案を書きあげたい。そのためには、たとえ少々欠席する班員がいても会合は開いてしまい、その中身を文章で共有することによって、その次には同じスタンスになってもらう形にしたい。
そこでまずは検討会に参加していなかった4人の班員にビジョン具体化の内容をもう一度確認してもらうと共に認識を一つにしてもらいたい。議論の中では、専門医の定員を決めるような第三者機関が必要だという意見や、それに実効性を持たせるには公費を投入するしかないといった意見が出た。その辺も含めて大きなアウトラインは共通化できたろうか。次回からは、関係者から意見を聴きたい。特に総合医について認定システムを提案している日本医師会や、日本専門医制評価・認定機構は大きな役割を果たしていると思うので、今度どうするつもりなのか聞きたい。特に日医は、報道で見る限り、ビジョン具体化検討会に誤解があるようにも受け取れるので速やかに意見交換したい。それから主要学会、全部は無理にしても外科学会とか内科学会のようなところの意見も聴きつつ、同時並行的に海外では専門医の育成や定員をどのように決めているのか、そのシステムを、個人的に聞き覚えはあるが、しかしきちんとデータを集めたかというと心配な面もあるので研修制度がどうなっているのか、皆さん外国の方でお知り合いも多いだろうから聴ける方は聴いていただきたい。それから秋には学会で外国の方を招待されることも多いだろう、この班は外国の方をお招きするような費用はとても出ないから、学会に便乗するような形で何時間かヒアリングの時間をいただけないかというようなことも考えている。その他に一般の方、他分野の方からも意見聴取したい。この進め方について何かあれば今この時点で仰っていただきたい。
よろしいか。
では、まず新しい班員、江口先生から、この班に関する印象とこのように考えているという話が伺えれば」
江口
「まずは今までの検討会のこと。資料は一通り読ませてもらったが、個々の意見と全体の意見が取り混ぜて書いてあるような印象がある。整理していただけないか」
土屋
「8月27日に中間とりまとめ案というのが示されている。その範囲については全員の賛同が得られている。その中でこの班会議と関係が強いのは、2の医師の偏在と教育のところ。増員が大きく書いてあるが、偏在の問題も触れてあり、後期研修をコントロールできないと人数のコントロールできないということで、この班会議の設置につながっている」
(略)
海野
「土屋先生の仰るとおりなのだが、診療科間の偏在に関しては、実態がまだ共通認識になっていないと思う。減っているところは声を上げ始めているけれど、増えているところからは声は出てこない。この先どういうバランスになりそうなのか見極めながらでないと意味のある議論をできないし、若い先生が将来の専門を決める際にも時々の情報は示されているべきだと思う。
厚労省の出しているデータからだけでも、全体のトレンドとして明らかに外科系が減っている。それぞれの個別学会、耳鼻科学会でも泌尿器学会でも産婦人科学会でも内部では減って大変だという議論をしているのだけれど、集めてみるとこれは全体の問題だ。こういう中で、どれだけの専門医が必要なのかの数を出すには、現場から積み上げる形じゃないと示すのは難しい。
8000を1万2000まで増やすというのが大枠として、それをどう割り振るのか、それらしく作文することはもちろんできるけれど、それが未来の現場のニーズを吸い上げているかというと疑問だ。各学会に専門家の責任として、自分たちの診療科にどれだけの人数が必要なのか述べていただくことが必要でないか。それを積み上げたら1万2000でもとても足りなくなるだろうから、全体の中でどう折り合っていくのかというプロセスが必要だと思う」
土屋
「それは恐らくコメディカルの働き方によっても大分変ってくるだろう。それも踏まえて議論しないといけない」
阪井
「最終的には需要をどう見積もるかという話になるんだと思う。我々は供給者側に過ぎない。受ける側なり第三者、医療に第三者がいるのか知らないけれど、の意見を聴かずに専門家だけで話してもいいものだろうか。この問題には、どこまでを医療とするか、どこまで必要かということを考えることも必要で最終的には国民の選択になるんだろう。そういう視点を入れると、このメンバーだけでいいのかと思う」
海野
「検討会でも、その議論はあった。その時には、われわれ専門家は提供者として医療提供に関して責任がある。そして受ける側が必要性を本当に分かるかというと、必要になった時に初めて分かるものなので、提供者側できちんと示す責任がある。それを、それぞれの学会がきちんと果たしてきたかというと、違うと思う。今までに専門医が余ったと言った学会は一つもない、そんなところはないのかもしれないが、我々産婦人科学会も毎年320~330人の専門医を生み出し続けているのだけれど、では実際には何人必要なのかということを知らないし言えない。どこかで誰かが責任を取って言うしかないんだと思う」
阪井
「学会が数をきちんと示せなかったのは、医学と医療とを混同して、医学の話をしていたからだろう。そこをきちんと分けて話のできる人を呼ぶか、あるいは私たち自身がそうなるかする必要がある」
外山
「大学の外で医療をやっていると、大学と同じ点、異なる点がある。専門医の考え方というのは、あくまでも臨床能力があるということであって、大学における研究の能力とは分離しないといけない。それから大学は学校だから教育しないといけない。そういうものも区別するということが最大の議論の対象になるべきだと思う」
土屋
「各学会から必要な数を出させて積み上げたら、米国並みをめざした場合、全体で1万8000人くらい必要になってしまう。人口に合わせて2で割るというわけにはいかない。その中でわが国ではどうするのかという話だ」
外山
「20年ばかり前に米国から帰ってきた時には随分とカルチャーショックがあった。最初は、とにかくいい臨床を提供することに専念していたけれど、そのうちにこれを受け継いでいかなければならないと考えるようになり研修医教育にも力を入れるようになった。その卒業生たちが、その後どのようなプロセスで自分の能力を発揮しているか見ていると3つのことが言えると思う。まず、教育にはエネルギーが要るということ、特別な予算で特別な指導医が要る。片手間では勤まらない。二つ目には、大学も含めてそれなりの診療水準にある医療機関が横につながって、教える側、教わる側を分けあわないと水準は上がらない。土屋先生ご専門のがん教育も、がん専門病院と連携してローテーションするような形でないと後期研修医全体のレベルは上がらない。3つ目に、医師不足云々の原因が初期臨床研修であるかのように言う人がいるけれど、もしそうであるならば制度全体が間違っているんであって、臨床研修が間違っているのではない。むしろ臨床研修は大事な最初の一歩で、これからだなと思っていた。むしろ後期研修にどうつなぐかの方が大切だろう。偏在があるとするなら、それはやはり定員化で対応するしかなく、その場合に何人ぐらい必要なのかは専門医とは何なのかの概念なしにはいかない」
岡井
「専門医の必要数を議論する時、家庭医の問題がある。どの位いてどこまで診てくれるのかによって専門医の必要数は大きく変わるので、むしろそちらを先にやってもらった方がよいのでないか」
外山
「私は特殊な診療科の人間だが、しかし常に自分が総合医であり家庭医であるというスタンスで診療にあたってきた。家庭医というのは立派な専門医であり、そのスタンスがどこまで理解されているかが重要だ」
川越
「すごく興味深い話が続いていると思う。専門医の必要数を計算する際に国民のニーズから計算されているのだろうか。知らないので教えてほしいのだが、そういう計算をしている分野はあるのだろうか。考えるに、計算しやすい分野としにくい分野があるような気がする。岡井先生、海野先生を前に何だが、お産なら年間の回数が決まっているから必要な数は計算できて、それが減ったらもちろん困るし増えすぎても困るから目標数を立てやすい。しかし家庭医の数ということになると、そもそも家庭医の定義すらハッキリしてないし、専門医として登録すれば必要数は出てくるものなんだろうか」
土屋
「数える時には、疾病からだけでカウントするんじゃなくて文化的背景も考える必要がある。ガンでも緩和ケアをどこまでやるかで全然違ってくる。家庭医にも同じようなところがあって医療関係者の中でも一致っしていないと思う。きちんと掘り起こして国民に理解していただく必要があるだろう」
葛西
「せっかくの研究班なので主要な国で家庭医の数をどのように決めているか調べたらいいと思う。日本の場合、若い先生がやりたい分野に行った後で多すぎたとか少なすぎたとかいう話になっているので、やはり入口で適正な数にする必要はあると思う。その場合に他の国では何をファクターに数を決めているのか参考にしたらいい。
米国では内科医の半分が家庭医になり、英国では全体の半分が家庭医になる。それに引き換え日本の場合、家庭医に関しては数もさることながら、その研修機関や指導医、地域の受け皿をどうするのかも同時に考えないといけない。現実には、大目標を定めて、まず5年でその6~7割まで到達するような感じではないか。それと数を決めたら毎年微調整することが求められると思う」
土屋
「有賀先生の目が光ったので触れておくと、救急も米国に比べておそろしく少ない。大学を中心に専門性の高い医師育成をしてきたから、科横断的な養成ができていないという問題意識も持つ必要があろう」
渡辺
「私は漢方医の立場なので家庭医・総合医に近いスタンスになると思う。数というのは、専門医がどこまでやるかで決まると思う。たとえば脳外科がオペ以外にも、外来診療をしたり他の雑用に追われたりしている現実がある。明確な線引きは難しいにしても、どこまでを専門医がカバーするか、大まかな分け方は考える必要はあるだろう。家庭医と専門医とが連携する仕組みができれば数も出てくるんでないか。
それから指導医の数がどうかという話があったけれど、私は内科専門医でもある。開業の内科医の臨床レベルは実に高い。しかも幅広い患者さんと実際に日々接している。彼らを指導医にすれば既存の人的資源を生かしながら無理なく制度設計できて解決できる気がする。
漢方に関して言うと、医師の8割が漢方を用いており、全大学で教育が行われている。しかし卒後教育は全くない。このため非常に限られた処方しかされていない。漢方はもともとが複合製剤であるため、特に多剤服用している高齢者には一剤や二剤で済むというメリットがある。インフルエンザで行われた研究では、タミフル単独、併用、漢方単独で比較した場合に、意外にも漢方単独がもっとも投与期間が短くて済んだという結果も出ている。適正に用いたならば医療費削減にも貢献できるということを述べておきたい」
土屋
「開業医のレベルが高いのはその通りだと思うが、高い人とそうでない人の区別がつかないという問題がある。副院長になるまでは月に5回くらい地域の医師会の勉強会に顔を出していた。そうすると、そこへ来る人たちのレベルは大変高く、特に画像から肺がんを見つけることに関しては我々もかなわない。ところがそういう所に来る人は何百人も医師会に会員がいるうちの十数人。他の分野では、また別の先生がそういうことになっているのだろう。総合的な力という意味ではどうなのか」
渡辺
「もともと循環器の医師だった人が必要に迫られて他の分野も勉強しているということが多い。たしかに質をそろえるか考えると、基準を設けてパスした人たちを対象にするようなことは必要だろう」
土屋
「新たに開業するような人は元々専門を持っていて、そこに個人的な努力を重ねて幅を広げていくというのが実際のところだろう。そうやって完成された開業医は実に立派だということは認めるが、その途上でいわば試されているのは患者の身になったらたまったものではない。やはり系統だって育てられる仕組みが必要でないかと思う。そうやって考えれば決して医師会とも対立するものではないはずだが」
葛西
「福島県では3つの郡市で『実践家庭医塾』というものを実施している。実際にはゆっくり進行していて月に1回ワークショップを開催しているだけだが、全国でこういったものを早い段階で開催できるようになったらよいのでないか」
山田
「最初の出発点に戻ると、このビジョン検討会の進め方は非常によく整理されており、実効性を期待できると思っている。問題は医師不足であり偏在である。数は増やすと大枠が決まった。偏在解消にどのように明確な方法を描くことができるか。偏在として、今まで診療科の偏在、地域の偏在が挙げられていた。もう一つ設置形態による偏在もある。この3つの根源的な問題に対して実効性ある方策が立てられるか。制度を直すとして、どこを見て修正するのか、難しい問題ではあるがそこに挑まなければならない。ただし目的としているもののことを考えると、適切な指標探しばかりに終始していてもいけない。ある程度のところで、これが適切であろうと取りまとめる必要があると思う。その目的を達するため、積極的に関与し発言していきたい」
川越
「私も検討会はいい方向に進んでいるなというのが実感。後期研修や専門医の話をするうえで、各専門の学会は自分たちの会員が増えた減ったは知っていると思うのだが、自分たちの領域に何人必要かという計算をしているのか。それがないと話にならないはず。何度も同じことで恐縮だが、産科はたぶん計算しやすい。もちろん運用にもよるだろうけど。麻酔医も同様に計算できるんじゃないかと思う。がんの在宅医だって現在がんで亡くなっている30万人のうち6%が在宅死しているのを20%に持っていこうとするなら、在宅がん医を何人育てればよいか計算できる。各学会は、どう必要数を見ているのか。計算する根拠があるなら、できるところは計算してもらいたい」
海野
「産科は実はまだ出せていない。小児科は何年か前に毎年700人という数字を出していた。産科の場合、現在の人数から減らないようにするには年500人必要という数字だけ出していて、でも未だかつて500人入局したことがない」
川越
「小児科学会に尋ねるべきんなんだろうが、700人がどういうところから上がってきたのか教えてほしい」
有賀
「開催要項の中に『我が国の土壌に合った』という文言が入っている。これが実は極めてキーワードで、我々救急医も救命救急センターの数からとか、研修医受け入れの数からとか、いくつか弾くことはできるのだが、しかし実際にはなかなかそうならない。私のもともとの専門である脳外科でいえば、地域では医師が普通に神経内科の領域も神経放射線の領域もリハビリもやっている。これだけカバーする範囲が多様だと、手術だけやってればいいという勘定の仕方では、地域地域で実情が違い、そうは問屋が卸さない。土壌に合ったと言っている限り現状追認にならざるを得ないので、あるべき姿を土屋先生のリーダーシップでかなり強引に持ち込んで、そのプロセスの中で理解を求めていく作業が必要になるだろう。たたき台のたたき台のようなものを作らないと国全体では進まない。これから作り会えていく分野はともかく、エスタブリッシュされた分野は多かれ少なかれ土壌の中で領域を広げている。単純に外国と同じにするのではなく、我が国の実情に合った形でなおかつある程度示す。面白いけれど難しい」
土屋
「ぜひ支えていただきたい。嘉山先生がいないから言うわけではないが、嘉山先生が言っていることは脳外科医の土壌であって、国民にとっての土壌は何か考える必要がある」
有賀
「嘉山先生が勝手に言っているということではなく、たしかに神経内科の仕事もやっている現実がある。そうなると見えてくる景色もそうならざるを得ない」
嘉山、嘉山と名前が繰り返され、傍聴席から笑いが起きる。
土屋
「ウチでも化学療法を画像で見られる肺なんかは内科医がやっていたけれど、画像で評価できない消化器外科や整形外科では外科が当たり前のようにやっていた。それを内科医が嫌がるのを無理やりやれ、と言ってやらせたら、今度はそれによっていかに手術に専念できるか分かるようになって、今度は逆に内科に全部押しつけるようになった。そんなことするなら定員を1人削って内科に回すぞという話になっても、そちらの方がいいという。そんなものだ。握っている限り変わらない。自分たちがオールラウンドで偉いんだというんではなく、専門家が分担したらもっといいんだと、最初は無理やりにでも分からせないといけない」
江口
「自分たちで全部見ようという思想ではなく、やらざるを得なかった。欧米では分化が進み過ぎて、呼吸器外科医が画像を読まないような弊害も出ている。その意味では、個人個人は大変だったかもしれないが患者さんには質の高い医療を提供してきたと言えるかもしれない。ただ言うとおり、本当に自分がやらなければいけないことでないことは何とかならないかということはあり、コメディカルとの連携をどう組んでいくのかも考慮しないといけない。現状は非常に限られた連携になっている。介護ともそう。多職種との連携を考えて適正な人数を出す必要がある」
土屋
「米国の専門バカはたしかに反面教師にしていかなければならない。日本のように入口から出口まで全部主治医というのも患者からすると心強い面もあるだろうから、しかしそこはバランスの取り方が難しい」
海野
「それぞれの専門家に数を言わせるべきだ。オーバーラップしながら分担できることも見えてくるだろう。それは領域の特性にもよるので専門家でないと判断できない。コメディカルに関しても、診療科ごとに違うはず。分野ごとに色々な方がいるので専門の立場で一番よいのは何か言ってもらったらいい。余りにも先鋭的すぎて誰にも受け入れてもらえない案になってしまっては、これでやっていこうというコンセンサスを得られない」
土屋
「各科の調整をする際には十分に意見を聴くと同時にコンティニアスに見直して、それが毎年還元されていく制度にする必要がある。見直しを制度化することがキモだ。一度決めたらこれに従え何年かこのままというのでは、話がまとまらなくなる」
外山
「専門バカの話が出たので一言言いたいのは両極端は決してやったらいかんということ。わたしも帰国したばかりの時にはいろいろカルチャーショックがあった。今の病院ではない別の病院での話だが、腹部動脈りゅうの患者が運ばれてきて、外科的疾患なんだが内科医が呼ばれて診断はついたアシドーシスもひどい、情報が外科にも流れてきたので、すぐ手術になるだろうと段どりしていたら、その内科医が『こんなにアシドーシスがひどいのに手術できるのか』と尋ねた。米国の内科医は自分の領域の外科のことは非常によく知っている。専門バカが現状かと思う。むしろ日本の内科と外科の方が、互いに相手のことを知らないのでないか。良いところは残せばいいが悪いところは変えないといけない。
その視点で進めていったうえで、外科医の立場からすると切ることに専念させてくれ、いい手術をさせてくれれば患者さんのためになると言える。手術の後に肺炎になったとき、今の病院は呼吸器内科や感染症課がバックアップしてくれるけれど、昔はあなたが切ったんだから最期まで見ろというのが普通だった。そんなことを含めて一応述べておく」
土屋
「教育と診療との関係について述べておきたい。(自分の字なのに読めず)この病院ではどこ足りないところはどこでと連携すべき。学会中心に育成すると経験が何例かとかどこの所属かばかりが問題になる。ある程度の指針は示さないといかんだろう」
有賀
「この研究班は対象を後期研修にしているわけだが、初期研修の2年のプロセスの中で理想的な医師ができあがってくるという前提に立つのか。前段の初期研修が医学部教育をきちんとやれば必要ないといった議論をされているところだろう。この研究班としても、前に対してそれなりのメッセージを出しておかないとまずいんじゃないか」
土屋
「1階の議論は文部科学省と合同の検討会でやられている。再来年の4月には変わる可能性があるので、それを横目でにらむ必要はあるだろう。現段階で言えるのは家庭医として働けるほどの充実はない、つまり満足いくプライマリケアを学ぶには2年では足りないことがハッキリしている。極論すると米国のメディカルスクールを出たところぐらいで考えないといけないんじゃないか。あまり初期研修のことを買い被って制度設計すると先で破たんする。厳しい目でやっていって、初期へ譲れるところは譲るというスタンスでよいのでないか」
有賀
「安心した。私は臨床研修の第三者評価の委員長を仰せつかっているので、内情を知っている。頑張っているところとそうでないところとの格差が相当ある。そもそも医学部教育をちゃんとやるところから差がある」
土屋
「ローカルな話で恐縮だが、がんセンターでは後期研修しか取らない。従来は3年目でも、まあ各診療科に入れて大丈夫だったのだが、今はできれば初期を終えた後で1年か2年後期研修も受けてきた方が望ましいと募集要項に書いている。外科の場合でいえば、手術するのに良性なんかないから、最初からがんセンターに来ると外科の専門医資格も取れなくなっちゃう。そういうのを見ていての実感は、アメリカならメディカルスクールを出た程度でしかないということ。基準を置く場合は最低のところに合わせないといかんという認識だ」
川越
「検討会でも突っ込んだ議論が行われて2年では長すぎるとか学部段階でやればいいとか踏み込んだ意見が出ていたかと思う。もし向こうで話が進んでいるのであれば、こちらにも同時並行的に情報がほしい」
土屋
「一回目を傍聴してきたけれど特に進展はなかった。制度をつくった人たちはいい制度だと言い、そうでない人は変えろと言っていた」
阪井
「専門バカにはなっていかんという件だが、私自身、北米で卒後研修を受けた身として言えるのは、向こうでは感染症でも呼吸器でも必要に応じて専門家を呼び集めてやっていた。そういう風にうまくいっているのは、全体のことが分かって旗を振っている人がいたからだった。専門医も元々は総合内科などやってから移行しているので、それぞれに素養はある。卒後研修の中でも、まず総合教育をみっちりやってから専門科へというのが必要だと思う」
外山
「初期研修について、もう一言。今の初期研修の期間が1年がいいのか2年、3年がいいのかは別にして、制度が悪者という発言をしている方がいたらぜひその真意を伺いたいし、私も意見を述べたい。これは少なくともここ数年では唯一の医療のヒット商品だと認識している。たしかに総合臨床医になるには2年は短いかもしれないが、逆にたとえば胸部外科の基本的なところをマスターするのだって2年ではとても足らない。むしろ一度切って別のものと考えた方がよいのでないか。初期と後期のつながりで考えても、施設によって違う制度が入れられているので難しい。本当につなぐのなら初期の在り方も含めてもっと議論すべきだろう」
土屋
「たしかにビジョン具体化検討会でも、医師増員が必要と言う事を表面化させただけで諸悪の根源ではなかろうということになっている。むしろ何年も定員を放ったらかしていたのに一番の問題がある。初期研修をやめようということではなくて、もっといい制度になりうるはずだし、そのためには後期の方も考えないといけないということだ」
岡井
「初期のことは学部教育とのつながりが悪いという意見はあった。5年で実習、6年でも実習、これが国家試験で切れて、初期研修と効率が悪い。じゃあということで厚生労働省と文部科学省の合同検討会になっているわけだが、思想として悪いとは誰も言っていない。ただ2年かけただけの成果が上がっているかという点が問題になっている」
渡辺
「どういう医療をめざすかが直接教育とリンクしてくる。どういう専門医を育てたいのか、現場の医師も明らかにする必要があるだろう。どういう素養が必要で、そのためにはどういう過程を経てくるとよいのか。そういうものが見えてくれば、現存するヒューマンリソースを有効に使って効率的に進めることも可能になる。一番最初のスタートとして現場の専門医の姿が浮かび上がらないと議論も進まないのかなと思った」
土屋
「胸部外科学会で専門医を育ててみると、心臓血管外科的な素養もあった方がいいと分かってきて3カ月はやらせようかというような話になっている。このように各学会でも努力はしている。
しかしながら現状の専門医資格というのは、必要症例数が米国より1ケタ少ない、信じられないくらい少ない。なぜそんなことになっているかと言えば、各大学で毎年3人くらい取って、その人たちに6年か7年で専門医資格を取らせようとすると、その位の数にならざるを得ない。身内の恥をさらすようだが、現在の専門医資格というのは提供側の論理が勝ってできたもので、国民にとって必要な能力を備えた人という考え方はされていない。だから学会から実情は聴くが、しかし懐疑的に聴かざるを得ないと思う。ちなみに私どもの施設では1科で年に500~700例あるが、それでも年に1人育てるのがやっと。その代わり、わが施設の卒業生であれば私は自分ががんになったとしても安心して身を委ねられる。
そういう医師を育てないといけないと思うので、私の認識では学会に聴いても意味ないんじゃないかなという気はする。こういうことを言うと学会で袋叩きに遭うのだろうけれど、しかしながら国民に袋叩きにされないような議論をする方が大事であろう」
葛西
「現在、非常にエポックメーキングな議論が行われていると思う。諸外国では当たり前に行われていて、しかし日本では行われていなかった、専門のトレーニングをしたうえで専門医になっていくという仕組みが作られつつあるのだろう。中間では、後期研修の途上でどう評価してレベルを上げていくかも考える必要がある」
土屋
「山田先生が指摘した3つの偏在、それについての実態を分析し解釈する作業が今後必要になる。次回からそれを行うと同時に、まず日本医師会、専認協から話を聴いて、その後に各学会の意見を謙虚に伺いたい。先程悪口を言ったけれど、最初から聴く耳持たないということではなく、あくまでも謙虚に伺う。それぞれに努力はされているのだと思う。そういったことを伺ったうえで、目的に合った必要数をどう育成するか検討をして、さらに専門外の方からも意見を伺い議論して進めていきたい。
本日は先週末になっての急な召集にも関わらず全員にご参加いただきありがとうございました。私はもともと外科医なのでおっちょこちょいで失言をすることもあるが、多少の失言は恐れずに本質的な議論を進めていきたい。国民の皆さんにもホームページを立ち上げた後は、どんどんご提言いただきたい。批判を恐れずにやっていくつもりだ。専門家の責務をまずこの委員会が果たしたい。それを一般の方に伝えていただくのはメディアの役割。ぜひ班員の一員くらいの気持ちでご協力をお願いしたい」
(この傍聴記はロハス・メディカルブログhttp://lohasmedical.jp にも掲載されています)
 
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