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臨時 vol 129 「目覚めよ、精神科医療。このままでいいはずがない。」

医療ガバナンス学会 (2008年9月21日 11:49)


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書評:『精神科セカンドオピニオン―正しい診断と処方を求めて』
(シーニュ、2008年)
                         清和会吉南病院
                         内科部長 長嶺敬彦


 精神科医療の問題点を鋭く指摘した画期的な本が誕生した。『精神科セカンドオピニオン』である。誤診・誤処方を受けた患者あるいはその家族から問題提起がなされ、それぞれの事例に笠医師が明瞭に答えた本である。
精神科医療の問題点として、あいまいで誤った診断と向精神薬の不適切な使用がある。診断が確定していないのに、安易に向精神薬を使用すると数々の悲劇が生まれる。向精神薬は化学物質で、脳の病態に応じて科学的に使用されなければならない。向精神薬は心を操作する薬ではない。一方、精神薬理はここ数年著しい進歩を遂げている。その理論を現場に応用すれば、精神疾患の治療は確実に進歩する。向精神薬の適切な使用は間違いなく患者に福音を与える。この本は、精神科での誤った診断と不適切な向精神薬の使用の実例を通して、精神科医療のあるべき姿を提唱している。向精神薬の正しい使い方も理解できる優れた本である。
精神科医療の問題点を指摘した本と書くと、胡散臭い現代医療の暴露本と誤解されそうである。本書はけっしてそうではない。本書は精神科医療の問題点を指摘することを目的としていない。問題を解決するにはどうすればいいかを議論した本である。単に精神科医療にクレームをつけているのではない。どうすれば精神科医療がよくなるか、どうすれば患者が救われるかを、セカンドオピニオンに参加した多くの当事者たちが、一人の真摯な精神科医と議論した上で出てきたいわば”臨床知”である。
本書のもとになったのは、”地上の旅人”氏の家族を亡くされたという不幸な体験である。不幸を繰り返してはならないとの思いからウェッブを開設されたのである。ウェッブでのやり取りは現代社会の一つの優れた方法論である。リアルタイムであるが、ともすると時系列が不明確になる。しかしそこには問題を解決する多くの知恵が集まってくる。ウェッブ上の議論を一つの意志を持って、編集する作業は壮大なエネルギーが要る。本書は日々の臨床知を体系化するために、本という形に作り上げているのである。編集作業の成功がさらに本書を素晴らしいものにしている。とにかく読みやすい。
本書は、精神科医をはじめとして精神科医療従事者に是非読んでほしい。患者の声が聞こえてくるからである。それから向精神薬を服用中の患者さんが身体的な不調を訴えて内科や外科を受診することが多いので、内科や外科の先生方にも是非読んでいただきたい。事例を中心とした本であるが、索引がしっかりしており、向精神薬の名前から事例や薬の解説のページを読むことができるからである。
最後に私自身の本書を読んでの決意の一言である。「目覚めよ、精神科医療。このままでいいはずがない」。読み終えて、私の頭の中で、目覚し時計のベルが確かに鳴った。このまま寝ていてはいけない。起きて働かなくては。治療が上手くいかなかった方々へのお詫びの気持ちを新たな臨床知を生み出すエネルギーに変えなければと思った。まだお会いしたことはないが、笠医師のセカンドオピニオン活動に敬意を払うとともに、自分の未熟さを自省しているところである。
単行本『精神科セカンドオピニオン―正しい診断と処方を求めて』
定価:2520円(2400円+税5%)
発行:シーニュ、FAX(03-3327-0577)
<編著者>
○笠陽一郎(りゅう・よういちろう):医師/愛媛県・味酒心療内科
1947年愛媛県松山市生まれ。神戸大学医学部卒業。精神病者の自立と解放を軸に闘い続ける医師。1日相当数の外来診療の傍ら、ウェブサイト「精神科セカンドオピニオン」でセカンドオピニオンを無償で提供する。趣味はくじらグッズ集め。
○誤診・誤処方を受けた患者とその家族たち
「私たちの思い、経験を生かした本をみんなでつくろう」。ウェブサイト「精神科セカンドオピニオン」を通して、本書出版のために集まった患者とその家族たち(取りまとめ役はアトム氏)。本書に掲載している以外にも、多くの患者と家族が参加・協力している。
※本書は、本日(9月21日)の読売新聞 にて紹介されております。

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