医療ガバナンス学会 (2015年2月23日 06:00)
※この文章は『福島民報』2015年1月25日「民報サロン」欄に掲載された寄稿エッセイを、許可を得て転載したものです。
一般社団法人ふくしま学びのネットワーク事務局長
前川直哉
2015年02月23日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
この合宿は私の灘校勤務時代、平成二十四年三月に始まりました。当初は津波被災地でのがれき撤去などボランティアが中心でしたが、回を重ねるごとに、高校生の手で行えるボランティアは少なくなっていきます。ボランティアなど実際にお役に立てることもせず、東北の被災地を訪れてよいのか。阪神大震災を経験した私には、迷いがありました。二十年前の震災当時、物見遊山のような気持ちで被災地の神戸を訪れる人がいると聞き、複雑な思いを抱いた経験があったからです。
そんな時、私たちの背中を押してくれたのは、東北訪問合宿で何人もの方から伺った「とにかく実際に現地に来てほしい、そして見たこと聞いたことを周りの人に伝えてほしい」という言葉でした。福島市でボランティアによる除染活動を継続しておられる常円寺の阿部光裕ご住職には「知るボラ」という言葉を教えて頂きました。被災地に実際に足を運び、実情を正しく知ること。そしてそれを伝えること。全国メディアでの風化が日に日に進む中で、それが復興への大きな手助けになるのだ、という意味でした。
灘校の東北訪問合宿にはこの「知るボラ」に加え、もう一つ大きな目的があります。それは福島など東北各地で活躍する「カッコいい大人たち」の活動を拝見し、お話を伺うことです。
福島には、厳しい状況の中、自分たちの力で少しでも前に進もうと努力を続ける方がたくさんおられます。例えば今回の合宿では、一日目に南相馬市小高区の現状を見学した後、南相馬市立総合病院の及川友好副院長先生と小鷹昌明先生から、東京電力福島第一原発事故後の医療を守るための懸命な努力や、小高区のコミュニティ再生のための活動について伺いました。二日目は土湯温泉と天栄村を訪れ、原発事故後に減少した観光客を再び誘致するため土湯の新たな魅力を創造する取組みや、独自の放射性物質対策を継続し、安心で美味しいコメ作りを行っておられる天栄米栽培研究会のお話を伺いました。さらに福島で「カッコいい」のは、大人たちだけではありません。高校生も地域の課題について、自分たちにできることを見つけ、数多くの地道な活動をしています。
神戸から来た灘校の生徒は、このような福島の大人たち、そして高校生の姿を見て、毎回大きな感銘を受けています。将来像が描きにくい現在の中高生にとって、福島の「カッコいい」大人たちや高校生のお話を伺うことは、自分たちが何のために学ぶのかを認識する大きな契機になるようです。人のため、地域のために動くことの尊さ。これからも灘校の生徒たちは「カッコいい」福島を学ぶため、合宿を定期的に続けてくれるそうです。
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