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Vol.048 寝たきりの入り口となる骨折を防ごう(I)-骨健康と骨粗鬆症—

医療ガバナンス学会 (2015年3月12日 06:00)


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相馬中央病院
加藤茂明

2015年03月12日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


・はじめに
相双地区での内部被曝調査チームによる調査研究支援に関わって、早くも3年近くになろうとしている。この間常に津波と放射線汚染の二重被災による影響を地域住民の健康という観点から考えてきた。この被災の中で最も生活や健康に影響を受けたのは、仮設に仮住まいを強いられてきた方々であろう。大震災から丸4年に近づいては来ているが、仮設住宅民の多くが未だ仮住まいをしている。また南相馬市のように一時避難地域に指定された地域でも、避難地域指定解除の後に住民が市外から相当数戻りつつある。しかしながら就学児童が人口に占める割合は災害前からは大幅に減少したままであり、回復にはまだ相当時間がかかりそうである。MRICで何回も取り上げられて来たようにこの地域での高齢化は著しく、加齢による様々な疾患リスク自然増を考えて行かなくてはならない。従ってこの地域の住民の健康維持と増進を考えると、加齢による疾患リスクの自然増とともに、生活スタイルの変化による健康への影響が心配になるのである。

・骨粗鬆症と骨折は日本では未だに増加傾向
この問題でまず頭に浮かぶのは生活習慣病と骨粗鬆症である。生活習慣病については、国を挙げてのキャンペーンの結果、”メタボ”という言葉が日常生活に浸透根付いたことにも表れるように、かなり人々の意識に浸透してきたように思われる。肥満そのものは病気ではないが、糖尿病や動脈硬化をはじめとした様々な病気の重大な誘引要因であると世間で広く認知されるようになったと思う。中高年のみならず小児に至るまで太り過ぎは健康に良くないという考えは定着しつつあるだろう。
一方骨粗鬆症はどうであろうか。世界骨粗鬆財団(IOF)や、国内の調査研究から、骨粗鬆患者は日本人人口約10%の1200万人前後も居ると推測されている1)。骨粗鬆症は、加齢による骨量減少という生理現象に基づいて発症する病気であるため、当然のことながら社会の高齢化に伴い、本邦の患者数は年々増加することになる。 女性及び男性ホルモンには、骨組織を防御する作用があるため、閉経後の女性は75歳を過ぎればほぼ半数が自然発症する2)。男性でも80歳以上では4人に1人は骨粗鬆症である1)。実際後述するように日本での骨折率は、減少どころか増加の傾向にあり、欧米先進諸国では減少傾向であることと対照的である3)。高齢化が先進国の中でも世界の中でも著しく進んでいる日本において、更に20−30年後の日本の高齢化状況を映し出している相双地区では当然骨粗鬆症患者は、日本の平均的な地域より、より骨粗鬆患者が蓄積していると考えるべきであろう。

・骨粗鬆症のイベントは骨折
骨粗鬆症は、様々な原因で発症する異常な骨量減少状態であり、骨組織表面の皮質骨と骨組織内海綿骨双方が骨量減少とともに脆弱化する。骨粗鬆症自体自覚症状は無く、また日常生活に一切支障をきたさない。しかし力学的負荷に耐える構造である骨組織が骨粗鬆症になると、大腿骨の付け根など力学的負荷が多くかかるところで突然骨折が起こることになる。骨折治癒は加齢とともに時間がかかるが、骨粗鬆症に罹患するような高齢者では骨折治癒に時間がかかるため、大腿骨骨折は寝たきりの入り口になる例が多い。寝たきり状態になる要因の10%以上が骨折関連であり要因の第3位との国内調査統計が少なくてもこの数年間はある4)。寝たきり状態の介護医療費は膨大であり、我が国の医療費を圧迫している。生活習慣病・メタボのイベントが心筋梗塞や脳卒中とすると、骨粗鬆症のイベントは骨折なのである。

・わかりにくい微小骨折と身長縮小は骨粗鬆症の見逃してはいけないサインである
健康診断や直接検査を受けないまでも、骨粗鬆症や大腿骨骨折を予防するのに役立つ簡単な兆候がある。若い時に比べての2−3cmの身長縮小である。身長縮小は、背が曲がるか、背骨を構成する椎体骨の縮小・圧潰によるものであり、実は微小骨折の蓄積によるものである。骨折には外傷性骨折のように激しい痛みを伴う骨折の他にも、無痛で外見上ではわからない微小骨折があるのである。相双地区での一般市民や就学生への講演を通じても、微小骨折は男性骨粗鬆症と並んで啓発が進んでいないと実感している。加齢等により椎体骨に微小骨折が累積すると、結果として背骨に変調を来すのである。高齢者の大腿骨骨折は、その前に短軀である日本人では通常椎体骨に微小骨折が既に無数生じていることがわかっている5)。背が縮む・曲がるということは、一見生活上健康であっても、典型的な骨粗鬆症状態なのであり、大腿骨骨折を憂慮すべきなのである。診断を受けなくてもWHO主導で作成された計算法(FRAX)6)を用いれば、自分のデータをWeb上で7)入力するだけで骨折リスクを計算してくれる。

・骨粗鬆症の予防策は?
高齢者の健康年齢維持や増進を考えても、骨折を防ぐことは極めて重要であり、そのためにも骨粗鬆症を見逃してはならない。これを予防するのに効果があるのが、運動と食ことである。
運動は過激なものでなく、軽い体操や散歩でも十分効果があると言われている。骨組織には重力に抗した動きによる物理的負荷を与えるだけで十分骨量が維持される。逆に寝たきりのような無重力状態では若年層でも顕著な骨量減少が起こる。健常な成人男子でさえも寝たきりになると宇宙滞在中同様大腿骨の骨量は3ヶ月で10%近くも失われ劇的に骨折リスクが上昇することがわかっている。
食こと関しても骨健康という視点からは、日本人が留意すべき点がある。一つが水の問題でもう一つが食ことからのカルシウムの摂取量である。いずれも骨の材料であるカルシウムが不足しているのである。日本の水は世界平均に比べて著しくカルシウム含量が少ない軟水であり美味である。因みに多くの日本人が勘違いしているミネラルウオーターとは、ミネラルが補充された水ではなくミネラル含量が少ない水である。欧米一般の硬水はそもそもカルシウムを多く含むので湧き水のようなミネラル含量が少ない水は美味かつ貴重なのである。加えてカルシウムを豊富に含む乳製品の摂取量が少ないことである。そもそも酪農食品は日本では伝統食品ではなかったので、相双地区を含め日本全体ではまだまだ欧米に比べれば桁違いに摂取量が少ない8)。日本ではカルシウムは伝統的に魚介類から摂取してきた経緯があった。相双地区では津波による漁業被害に加え、放射線汚染の懸念から、地元産の魚介類は流通していない。更にビタミンD不足の心配もある。ビタミンDは腸管からのカルシウム吸収を促進し、体内のカルシウム出納をプラスに傾ける必須微量栄養素である。脂溶性ビタミン群では唯一ホルモン同様体内でも産生される。皮膚上で日光に当たるとその紫外線によってビタミンD産生が促される。従ってある一定時間以上の日光浴が必要なのである。食糧由来のビタミンD前駆体は魚類ときのこ類とに多く含まれる一方、乳製品や肉類に乏しい。即ちビタミンD摂取という観点からは日本の伝統的な和食の方が洋食より優れているのである。

・骨量のピークは男女ともに25才 !!
それでは必要な骨量をどのように溜めれば良いのだろうか。成長期の骨格の発達に伴い骨量も増加する。そして男女ともに25才前後に最大骨量はピーク(peak bone mass)を迎える。しかし特段骨量を増加させる加療をしない限り、加齢とともに骨量は減少するのである。女性の場合は、閉経後速やかに骨量減少が加速するのである。従って一生を通じて骨健康を維持するには、25才までの若い時に骨量を十分増やすことが肝要なのである。前項で述べたように特に運動と食ことに気をつけなくてはならない。若い時にスポーツ等による運動は骨量増加のみならず骨組織構造を頑強にすることがわかっている。成長期の食ことではカルシウム不足に気を使わなければならない加齢とともに腸管のカルシウム吸収能は低下するので、高齢者より多くのカルシウムを含む食ことか補充が必要なのであり、その摂取を促進するためにもビタミンDやその関連製剤も同時に摂ることが大切なのである9)。

・被災地での骨健康は大丈夫なのか?
仮設住宅での狭隘な住空間や、外部被曝を恐れての戸外活動時間の低下は、結果として運動不足を導く。またビタミンD産生に必要な日照量の確保にも影響するであろう。骨健康という環境を考えると憂慮される要因である。幸い最近の戸外活動は、空間線量の低下や放射線への啓発等の努力もあり、被災直後より劇的に改善しつつある。しかしそれでも今の相双地区の食糧こと情を考えるとビタミンD前駆体摂取不足に陥るか、もしくは摂取量減少の可能性は否定できない。現在はまだ相双地区漁業は試験操業の段階であり、新鮮かつ地元の人が好んで食べてきた海産物が手に入りにくくかつ高価になってしまい、どうしても肉食洋食系に移行の傾向にあると言う。
年齢を超えて骨の材料になるというべきカルシウムとビタミンDの摂取を相双地区ではより一層積極的に奨励すべきなのである。こうした中、相馬市では、仮設住宅集団検診では3年前から、市内一般の住民定期診断では2年前から骨量測定を始めている。骨量測定を始めてみて、最も印象的な変化は高齢男性において骨粗鬆症の啓発が進んだことである(骨粗鬆症は女性の病気と思いこんでいる中高年男性は多いようである)。
・おわりに
相双地区に限らず高齢化日本において、骨粗鬆症予防は健康年齢維持延長において極めて有意義な方策である。予防に努めても、もしも骨粗鬆症と診断されたり、骨折リスクが高いと指摘されてしまったらどうしたら良いのであろうか。骨組織の材料であるカルシウムとビタミンD類の摂取はベースではあるが、骨量を増加させる抗骨粗鬆症薬は既に多種 上市されており、更に現在次々と開発されている。次稿では、これら作用機序の異なる抗骨粗鬆症薬について、骨代謝基礎研究のフロンテイアとともに紹介したい。

参考文献

1)骨粗鬆症と予防と治療ガイドライン作成委員会編『骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2011年版』
2)Delmas PD.Treatment of postmenopausal osteoporosis.Lancet. 2002 Jun 8;359(9322):2018-26.
3) Kanis JA, et al.,  Partial adherence: a new perspective on health economic assessment in osteoporosis.Osteoporos Int. 2011 Oct;22(10):2565-73.
4)厚生労働省 平成25年度国民生活基礎調査
5)日本骨代謝学会ホームページ(jsbmr.umin.jp)ガイドライン 原発性骨粗鬆症の診断基準(2012年度改訂版)
6)Kanis JA, et al., FRAX and its applications to clinical practice.Bone. 2009 May;44(5):734-43.
7)jsbmr.umin.jp
8)Reid IR, et al., Effects of vitamin D supplements on bone mineral density: a systematic review and meta-analysis.Lancet. 2014 Jan 11;383(9912):146-55. doi: 10.1016/S0140-6736(13)61647-5. Epub
9)Matsumoto T, et al., A new active vitamin D3 analog, eldecalcitol, prevents the risk of osteoporotic fractures–a randomized, active comparator, double-blind study.Bone. 2011 Oct;49(4):605-12.

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