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Vol.049 骨折予防のための新戦略(II) -骨粗鬆症薬の最近の進歩-

医療ガバナンス学会 (2015年3月13日 06:00)


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相馬中央病院
加藤茂明

2015年03月13日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


・はじめに
運動や食事に気をつけて生活しても、加齢に伴う骨量減少に加え体質や他の加療の影響(たとえば汎用される抗炎症性ステロイドであるグルココルチコイドは二次性骨粗鬆症を引き起こす)もあって、骨粗鬆症はどうしても高頻度に発症する。幸いこの10年の間に様々な抗骨粗鬆薬が開発され、年齢や病態に応じてのいわいる “テイラー” 型の骨粗鬆症治療が可能になってきている。更にこの先2−3年の間に強力な骨吸収促進剤が発売される予定であり、仮に骨粗鬆症と診断されても恐れるに足りぬ疾患になりつつある。本稿では、このような新規薬剤が開発されてきた経緯について骨代謝研究の進展とともに紹介したい。

・骨代謝研究の進歩
骨組織は硬組織であるため、生化学の常道による解析対象外であった。現時点ですら骨組織から各骨細胞種を単離することは未だに難渋する。しかし骨生物学研究は1990年代後半位からに大きな改革期に入った。遺伝子改変動物(ノックアウトマウス)を用いた骨組織研究法の導入である。それまでは骨内に生じた腫瘍から樹立された骨細胞株からの細胞生物学的アプローチに限局されていたものが、個体生理レベルで骨代謝や骨成長の調節因子群の機能を直接調べることが可能になったのである。その結果、骨吸収を担う破骨細胞や骨形成を担う骨芽細胞の増殖や細胞分化の系譜や仕組みが解明され、更に骨成長や骨代謝回転の基盤も分子レベルで理解できるようになった。更に先天性骨代謝疾患の原因遺伝子の同定やそのモデル動物の作出が可能になったのである。加えて骨組織の画像解析精度や方法の進展に伴い、骨組織や骨量の異常を緻密かつ定量的に評価できるようになった。これらの研究の進展が相まって2000年前後位から骨代謝研究は先端生命科学の中でも最も注目を集める学問領域へと発展したのである。このように花開いた骨代謝研究の黎明時には、その基礎を築いた先人日本人研究者の功績は世界的にも高く評価されている。例えば破骨細胞誘導因子(後にRANKLと同定された)の存在を予想した須田立雄博士や軟骨を初めて研究対象にした鈴木不二男博士等その功績には枚挙に暇がない。現在尚その国際水準を保つ出発点となっている1)。しかしながらいまだ骨組織・代謝には未解明な部分が多く基礎研究領域として依然として魅力的な領域である。骨髄内には造血系が存在し、機能的にも生理的にも密接に関わっているものと予想されているが、その分子基盤は不明であり、先端研究領域である。一方でこのような基礎研究の進展に伴い、前臨床試験としての各種薬剤の骨組織への効果を個体レベルで精緻に評価できるようになったのである。

・骨は内分泌的にはミネラルの体内貯蔵庫なのである。
カルシウムは筋肉の収縮に代表されるように無数の生理的反応に必須なミネラルであるため血液中のカルシウム濃度は血糖同様一定に保たれている。過剰になると結石や血管内石灰化を引き起こす。そのため骨組織は、ミネラル(カルシウム)の貯留器官として様々なホルモンやビタミンDの標的器官でもある。腸管経由のカルシウム摂取や腎臓からの排出によるカルシウム出納に呼応して、骨組織からのカルシウムを絶えず動員することで血中カルシウムのホメオスタスを保っている。
このように体内のカルシウム要求量に応じカルシウム血中濃度を一定に保つため、骨組織は絶えずカルシウムの貯留(骨形成)と放出(骨吸収)を繰り返し、ダイナミックに骨代謝は回転しているのである。しかしこの骨形成と吸収のバランスが崩れ、吸収が異常に上回ると骨粗鬆症に代表される骨量減少が起き、逆に骨形成が上回ると大理石病のような逆に脆い骨になってしまう。そのため、骨代謝関連の疾患では骨代謝回転速度をある程度維持しながら、形成と吸収のバランスを矯正することで骨量維持をすることが肝要なのである。

・骨粗鬆症治療第一選択薬は、現在骨吸収阻害剤であるビスフォスフォネートである。
性ホルモンには強力な骨防御作用があるため、閉経期以降の劇的な女性ホルモン産生低下は骨粗鬆症発症リスクを高める。日本を含めた先進国の高齢化がこれに拍車をかけており、骨粗鬆症自然発症要因の中で最も大きく占めている。ヒト同様実験動物でも女性ホルモン作用が不足するとも著しい骨量減少を示すとともに骨代謝回転が著しく上昇する。骨吸収の異常に亢進し骨形成も引っ張られて亢進するが、吸収が形成を上回りバランスが崩れたために骨量が減るのである。一方女性ホルモン作用が不足しているヒト及び実験動物に女性ホルモンを投与すると実際このような高骨代謝回転の亢進は是正され、骨量は回復傾向になる。しかしいわゆる女性ホルモン補充療法は一方で性生殖器での腫瘍誘発のリスク上昇の可能性が否定できない。
従って最も患者数の多い閉経後の女性に自然発症する女性ホルモン欠乏性骨粗鬆症への治療薬は、骨吸収阻害薬が合目的なのである2)。現在最も汎用されているビスフォスフォネート(BP)剤は、骨ミネラル層に取り込まれ偽基質として作用することで成熟破骨細胞による骨吸収を強力に抑制し、顕著に(数%)骨量を増加させる。大規模臨床試験で、椎体骨折大腿骨骨折を約半分にまで抑制することが以前から証明されている3)。 高い安全性が確かめられておりまた化学合成は可能であるため廉価なこともあり、現在国際的にも骨粗鬆症治療における第一選択薬として最も良く使われている。当初は毎日服用の飲み薬として登場したが、近年消化器の負担を軽減した月一回注射剤も登場し、更に利便性が高まった。適用患者数が増えるにつれ、一方で弱点も指摘され始めている。強力な骨吸収阻害効果から、稀に異所性骨化が見えることや、微小骨折の誘発の心配である。また一旦骨組織内に取り込まれたBP剤が投薬中止後も長く留まる性質に対しても安全性の観点から懸念が払拭できない。最近では、後述するように異なる作用機序に様々な治療薬が登場してきているため、BP剤は、米国では他の治療薬に適合しない高齢者に数年程度使用することが推奨されるようになっている。

・骨吸収を阻害する骨粗鬆薬群
閉経後女性に対しての女性ホルモン補充療法による発癌リスクを軽減した女性合成ホルモン剤の一種が、SERM(Selective Estrogen Receptor Modulator)である。SERMは核内に局在してホルモン依存性転写制御因子として機能する女性ホルモン受容体(ER)に結合後、女性ホルモン結合時とは異なるERの立体構造変化を引き起こす。SERM結合ERは、女性生殖器においては本来の機能は発揮しないが、骨組織内や循環器系の細胞群内では本来の機能を発揮することで、骨量増加のみならず脂質代謝改善効果等の女性ホルモンの代替効果を発揮する。SERMは女性ホルモン本来の効果の一部と捉えて間違いないだであろう。しかしBP剤に比べ骨折抑制効果は弱いようである4)。
更に最近では破骨細胞誘導因子であるRANKLに対する抗体剤や、骨吸収を担う酵素であるカテプシンKに対する阻害剤も開発されており、いずれもBP剤と同等以上の強力な骨吸収抑制作用や骨折抑制作用が臨床的に証明されている5),6)。

・骨形成促進剤の登場
骨吸収抑制剤による骨量増加には限界があり、病態や症状によってはより短期間かつ安全に骨量増加を図る薬剤の開発が長い間期待されてきた。2012年に上市されたPTH剤は、まさに長年の期待に応えるものであり、BP剤より強力な骨量増加や骨折抑制効果が得られており7)、国内でも急速に売上を伸ばしている。残念ながらその安全性への懸念から使用期間は現在2年まで単回のみの使用のみしか承認されていない。しかしその強力な造骨作用から骨折治癒促進薬としても多用されはじめている。PTHは慢性的な投与ではむしろ骨吸収を促す一方、治療薬として間欠投与では強力な骨形成作用を示す。最近更に骨形成促進作用があるWntシグナルを活性化する経路の存在が示された。実際、骨形成促進薬として現在開発が進んでいる。

・おわりに
骨粗鬆症治療は、作用機序やモードが異なる様々な薬が登場したことで、骨病態のタイプや症状に応じたテイラー型の治療戦略を取ることが可能になりつつある。実際の骨粗鬆症の治療に当たる診療科は、整形外科、内科、産婦人科、更に歯科にも関係しており、診療科をまたぐため、連携が必要である。現在また専門医にも分かりやすい様にEBMに基づいた日本骨粗鬆学会では各薬剤の推奨度を記している8)。2013年度の国内市場は既に年6000億円を越えたと見られ、内訳BP剤1800億、VD関連剤600億、SERM300億, PTH剤1600億, 他生物製剤等である。未だ骨折発生抑制率が下がらないことを考えると市場的にもしばらく拡大傾向と思われる。臨床的には今後これらの治療法が奏功することで、症状の改善だけでなく骨折—寝たきりの悪い循環を断ち切り、高齢者の健康的に長寿が保たれることを相双の地から切に願うのである。
参考文献
1)日本骨代謝学会ホームページ(jsbmr.umin.jp)
2)Delmas PD, et al., The use of biochemical markers of bone turnover in osteoporosis. Committee of Scientific Advisors of the International Osteoporosis Foundation. Osteoporos Int. 2000;11 Suppl 6:S2-17.
3) Cummings SR, et al., Effect of Alendronate on Risk of Fracture in Women With Low Bone Density but Without Vertebral Fractures Results From the Fracture Intervention Trial. JAMA, 1988, 280(24):2077-2082.
4)  Ettinger B, et al., Reduction of vertebral fracture risk in postmenopausal women with osteoporosis treated with raloxifene: results from a 3-year randomized clinical trial. Multiple Outcomes of Raloxifene Evaluation (MORE) Investigators. JAMA. 1999 Aug 18;282(7):637-45.
5)Sheedy KC, et al. Comparison of the Efficacy, Adverse Effects and Cost of Zoledronic Acid and Denosumab In the Treatment of Osteoporosis. Endocr Pract. 2014 Nov 4: 1-11.
6)Helali AM, et al.,Cathepsin K inhibitors: a novel target but promising approach in the treatment of osteoporosis. Curr Drug Targets. 2013 Dec;14(13):1591-600.
7)  Kawai M, et al., Emerging Therapeutic Opportunities for Skeletal Restoration Nat Rev Drug Discov. 2011 Feb; 10(2): 141–156.
8) 日本骨粗鬆学会『骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2011年版』

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