医療ガバナンス学会 (2015年4月6日 06:00)
私が実際に見たのは東大の研究者向け倫理教育として作成されたe-learningの教材であるが、必要な内容が良くまとまっていたし、興味を持ってそれを見る人にとってはなかなか面白い内容になっていると感じた。
e-learningの主な利点は、「広範な対象に同様の内容を提供できる」「受講者の時間的空間的制約が少ない」「デジタル性を生かした検索性が高い」事である。このような性質からすると、初めて研究の世界に足を踏み入れる者への、関連法規の周知や大学の窓口などを知るインデックスとして、有用に活用することが出来そうだ。
また実際にe-learningの教材を作成している人達、その利用を本来的な意味で促進している人達は、次に検討するe-learningの限界や問題点をよく理解していると感じた。
他方でe-learningには当然限界もある。「オンライン」「広い受講対象」「強制」というキーワードが相乗すると、学習効果が著しく低下してしまうという事だ。免許更新のビデオをオンラインで見せられるようなものだと思えばよい。
お忙しい先生方の中にはとりあえず再生ボタンを押しておいて、後は別の作業をされていた方もいらっしゃるのではないだろうか。
また一連の研究不正事件の根幹にあった、
「成果を求める行為、焦ってする行為」
「手間を回避しようとする行為」
「資金を伴う行為、業界の慣習となっている行為」
に対しては事前の「倫理」教育だけでは抑止効果が無い。このことは、そもそも一連の事件以前から東大が行っていた、倫理セミナーの講師を務めた黒川教授自身がSIGN研究で研究不正事件を引き起こしていることからも明らかだ。
「事後的処罰が、かかる行為で得る利益よりも悲惨なものである」という事実が存在し、それを事前の倫理教育に組み込むことで初めて抑止効果は生まれる。
事後的処罰の程度が得る利益よりも小さければ、それは事前抑制にならない。したがって事後的処罰の程度は、「事前抑制効果を与え得るものであるのか?」という視点から検証する必要がある。そうした意味では事後的処罰だけでも十分でなく、それを事前抑制に組み込む仕組みも充実させていく必要があるだろう。
話がそれたが、e-learningが十全に効果を発揮するためには、やはり事後的処罰の担保が必要なのである。
以上のことをまとめると
「e-learning」は
1.新規に研究を始める研究者に対しては一定の意義がある
2.現在起きている研究不正を防ぐためには事後的処罰の担保が必要である
3.「e-learningをしているから研究不正への対策をしている」と言うのは、e-learningの誤った使い方である
紅茶とケーキを片手にでも、e-learning教材に少しだけ時間を割いてみてもいいんじゃないでしょうか?なかなか面白いですよ。