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vol 16 第12回 ヘルスコミュニケーションに携わる人たち

医療ガバナンス学会 (2008年8月21日 12:04)


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                  林 英恵(はやし はなえ)


 前回に引き続き、ヘルスケアコミュニケーションエージェンシーでどのようにキャンペーンが組み立てられていくのか、またその過程でどのような要素が必要なのかをお話ししたいと思います。
【コミュニケーションエージェンシーでの仕事】
前回、広告代理店と呼ばれるコミュニケーションエージェンシーでは主に3つの部署がそれぞれの役割を持って疾患啓蒙等含めたコミュニケーションプランの開発を行っているとの説明をしました。アカウント(営業)と呼ばれる部署が、クライアント(依頼主)含めた外部とのコンタクト、内部のチーム編成およびスケジュール管理などのマネジメント、さらに開発されたプランの実行などを行います。そして、プランニングと呼ばれる部署はキャンペーン等の具体的な企画をします。また、クリエイティブと呼ばれる部署は、デザインとアートを担当していく部署で、プランナーらが練った戦略・企画書を形にしていきます。これらの連携でキャンペーンが出来上がっていきます。
コミュニケーションエージェンシーの仕事は、アイディアが勝負です。パン屋さんがパンを売ることと同じく、私たちの仕事は、アイディア(企画)を売ることです。この仕事に携わるまで、私にとってコミュニケーションエージェンシー(広告代理店)の仕事は謎だらけでした。
時には15文字に満たないキャッチコピー(広告上で使われる告知の文句のこと)がテレビ、新聞、または駅などの壁一面に登場します。この15文字が最終的な結果として、人の心をとらえ、何かの形でその人の人生を変えるような文句になるとしたら、誰が、どのように、どういう手順を踏んでそのアイディアが生み出され、形になっていくのかというのは、私の中の大きな疑問でした。
一人の天才的な人が、その人のひらめき(この場合のひらめきは思いつきに近い)でそのようなアイディアを生み出すのか。もしくは、他にやり方があるのか・・・。
答えは、「ひらめき」を支える多数の論理的なデータによってアイディアが生み出されるのだということでした。
【アイディアができるまで】
私も「広告業界」と呼ばれる業界に入ってまだ1年半なので、その過程を学びつつある最中なのですが、一つわかってきたことは、こういったキャンペーンの「核」となるアイディア(たとえばNikeだとJust do it、アディダスだとImpossible is nothingというようなキャッチコピーや、CM等のコンセプトとなるもののこと)は、単なる右脳的で、突発的に思いつくといったイメージのひらめきではないということです。というと、とても軽く聞こえてしまうかもしれないので言葉を変えて説明すると、「ひらめき」は、多数の(過去の)調査や分析結果の上で生まれてくるものだということです。ひらめきというと、どちらかというと右脳的なアイディアのように聞こえてしまいますが、左脳的な、論理的なデータ等に支えられている土台があるからこそ「ひらめき」というものが降りてくるのだということです。だからこそ、人々の心に残ったり、胸を打つものになるのだと理解しています。
具体的には、まず、疾患啓蒙を含め、何らかのキャンペーンと呼ばれるものの企画を行う際には、対象となる人々に対して定性調査と定量調査を行います。これらに加え、そのイシュー(疾患であったり、解決したいことがらであったり)に関する状況分析(製品がある場合は製品の環境分析)や、ターゲットの行動分析など行います。依頼主から提供されている資料がある際には、こちらも重要な資料です(疾患の罹患率や疫学的なデータ等)。
これらの結果を踏まえ、そこからの分析結果や発見を、一枚の紙上に落としていきます。組織によってこのやり方等細かい部分は異なっていきますが、この一枚の紙が、ひな形として依頼主、アカウント、プランニング、クリエイティブの共通理解となり、さらにその一枚の紙から抽出されたエッセンスが先ほどのキャッチコピーに落ちていくのです。
※この過程を説明するのにお勧めの文献を紹介します。
『アイディアの作り方』ジェームス・W・ヤング(TBSブリタニカ)
【全体像の中でとらえること】
最近、公衆衛生や医療分野におけるコミュニケーションの重要性が日本でも叫ばれるようになってきているのを日々感じています。この連載の当初から、何度かにわたって書いてきていますが、コミュニケーションにおいて、テレビや新聞などが、必ずしも必要なのではなく、必要なのは、状況やターゲットに合わせてメッセージや伝える手段を考えていくことです。
日々通じて感じていることは、疾患啓蒙等を考える際、常に全体像を心においておくことの大切さです。これはマスメディアを使った啓蒙活動であっても、病院での患者さんへの疾患啓蒙であっても、保健所等での検診の受診促進活動であっても何に対してもあてはまることです。時に「どのような啓蒙活動を行ったらよいか」という議論を行う場合、往々にしてその議論が最初から(例えば)「患者さんへパンフレットを配れるようにパンフレットを作るのがよいのではないか」とか「公民館でシンポジウムを行うのはどうか」などの細部の実行プランに焦点があたってしまうことがよくあります。木の枝葉の部分の議論になってしまい、全体の木、もしくは森が見えなくなってしまう例です。
アメリカやオーストラリア等で成功した疾患啓蒙に関しての共通項は、まず全体像としての森(全体の戦略)がしっかりしていたこと、これを踏まえた上での枝葉の部分(tactics(戦術)と呼ばれる細部の実行プラン)が、戦略に沿う形で実行されたことです。
先ほどのアイディア開発の際にも必要なことですが、その活動を通して何をどのような形で誰に伝え、誰の行動変容を期待するのかという全体像は、疾患啓蒙に携わるすべてのステークホルダー(利害関係者)が共有している必要があります。その上で、「何を」伝えるのか(アイディア開発の部分)、「どのように」伝えるのか(テレビを使うのか、パンフレットを作るのか、シンポジウムをするのか)などを、全体像に沿う形で開発していくことが成功の第一歩と考えています。これらが積み重なった地道な作業を経て、核となるアイディアの誕生となるのです。
これは、コミュニケーションエージェンシーだけのものではなく、皆さんが所属する団体等での啓蒙活動を行う際にもあてはまります。全体像を捉えること、状況分析を正確に行うことなど、基本に立ち返れば決して難しいことではないと考えています。
私もまだ修行中の身ですが、日々の発見や学びをこちらのメーリングリストを通して皆さんと共有させていただけたらと思っています。
次回は、9月から進学するハーバード公衆衛生大学院に関してレポートします。
林 英恵(はやし はなえ)
早稲田大学社会科学部卒業。ボストン大学教育大学教育工学科修了後、株式会社マッキャンヘルスケアワールドワイドジャパンにて、ジュニアストラテジックプランナーとして勤務。2008年秋より同社のサポートを得てハーバード大学公衆衛生大学院修士課程(ヘルスコミュニケーション専攻)進学。

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