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Vol.081 賛成52%! 米国で加速する「マリファナ合法化」の動き

医療ガバナンス学会 (2015年4月24日 06:00)


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この原稿はForesightより転載です。

http://www.fsight.jp/34232

内科医師
大西 睦子

2015年4月24日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


昨年5月、米国における「マリファナ合法化」の動きについてレポートしました(「『マリファナ合法化』の功罪――米コロラド大学は大人気だが」2014年5月26日)。その時点では、すでに全米50州のうち21州とコロンビア特別区(ワシントンD.C.)で医療用のマリファナが合法化され、ワシントン州とコロラド州では娯楽用も合法化されているという状況でした。しかも、16の州で医療用マリファナについて、13の州では娯楽用のマリファナについて、合法化を検討しているということでした。
◆賛成52%!

そして実際、その後もこうした動きは州レベルで着実に加速しています。

現在、23州とコロンビア特別区で医療用マリファナが、そして4州とコロンビア特別区で娯楽用マリファナの使用が合法化されています。『ワシントン・ポスト』紙によると、2014年の総合的社会調査(General Social Survey)の結果、米国民のマリファナ合法化に対する賛成派は52%と、ついに過半数を超えました。1990年の16%、2004年の33%に比べて、爆発的な増加です。

さらに、米ニュースサイト『VICE NEWS』の2015年3月17日付のインタビューで、オバマ大統領は、「そのうち州のレベルにおける合法化が連邦法を変えるだろう」とまで発言しました。少なくとも医療用マリファナについては、合法化を認める州が全米の過半数を超える日が目の前にきています。

【http://www.washingtonpost.com/blogs/wonkblog/wp/2015/03/04/majority-of-americans-favor-marijuana-legalization-for-first-time-according-to-the-nations-most-authoritative-survey/】

【https://news.vice.com/video/president-obama-speaks-with-vice-news】
◆マリファナはもはや米国の文化

このような米国の状況は、日本の多くの方にとっては簡単には理解できないかもしれません。少なくとも、私には理解できませんでした。ところが、最近ようやく、この状況を受け入れることができるようになりました。それは、「多くのアメリカ人はマリファナが好きで、マリファナはアメリカ文化の1つである」ということに気づいたからです。

米政府機関の米国保健福祉省の一つである「薬物乱用精神衛生管理庁」は、1971年から毎年「薬物使用及び健康に関する全国調査(NSDUH)」を実施しています。その2012年のデータによると、米国の総人口3億1400万人のうち、1回でもマリファナを使用したことがある12歳以上の米国人は、実に1億1100万人にも及ぶという結果も出ているほどです。

【http://archive.samhsa.gov/data/NSDUH/2012SummNatFindDetTables/DetTabs/NSDUH-DetTabsSect1peTabs1to46-2012.htm】

とは言え、現在、米国の連邦法は、医療用・娯楽用を問わずすべてのマリファナの使用を禁止しています。連邦捜査局(Federal Bureau of Investigation:FBI)によると、米国では2012年、違法薬物の使用容疑で155万2432人が逮捕され、そのうちの48%である75万人がマリファナの使用でした。2007年の87万3000人から見ると減少の傾向がありますが、これは使用者が減っているのではなく、一部の州で合法化されたため、犯罪として検挙されなくなったためだと考えられます。

【http://reason.com/blog/2014/11/10/marijuana-arrests-continue-to-fall-as-de】

ちなみに、マリファナの使用により逮捕された場合、その逮捕歴の記録が残ることで、就職、住宅ローンや福利厚生といった将来の人生設計に大きな打撃を受けます。実は、ここには今もアメリカ社会に根付く人種差別の問題も横たわっています。

『ニューヨーク・タイムズ』紙によると、白人と黒人のマリファナの使用率は同じであっても、全米で平均すると、白人よりも黒人が逮捕される率は3.7倍も高くなります。人種による差がないのはハワイ州だけで、アイオワ州では8.3倍も高くなります。また、特に貧しいマイノリティが住む地域の若者は逮捕のターゲットになりやすく、貧困から抜け出すための将来の道が閉ざされてしまうことになります。犯罪として摘発されなくなればそうした懸念も少なくなるのでは、という期待感も合法化の動きを加速させている要因の1つなのかもしれません。

【http://www.nytimes.com/2014/07/29/opinion/high-time-the-injustice-of-marijuana-arrests.html?_r=0】
◆紛れもない「マリファナのリスク」

ここ数年来の合法化の流れを加速させている最も大きな理由は、マリファナが医療用に利用できる可能性や、アルコールやタバコよりも害が少ない可能性について様々な報告がなされ、マリファナに対するネガティブなイメージが急速に薄れてきていることでしょう。でも、本当に健康に害がないのでしょうか?

たとえば、『アメリカ国立衛生研究所(NIH)』傘下の機関である『国立薬物乱用研究所(NIDA)』は、マリファナのリスクに関して大きな懸念を示しています。

【http://www.drugabuse.gov/publications/drugfacts/marijuana】

マリファナには、『テトラヒドロカンナビノール(tetrahydrocannabinol:THC)』という中枢神経系に作用する成分が含まれており、マリファナを吸うと、そのTHCが急速に肺から血流中に入り、脳や体中の臓器に運ばれます。ただし、食べ物や飲み物に混ぜて摂取する場合には、よりゆっくり吸収されます。

そして吸収された後、THCは脳の神経細胞にある『カンナビノイド受容体』という受容体に結合し、この神経細胞に作用します。本来、自然に体内で作られるTHCに類似した物質は、正常な脳の発達および機能において重要な役割を果たしています(医学的にはこれを『内在性カンナビノイドシステム』と言います)。具体的には、この物質は脳における喜び、記憶、思考、集中、感覚、時間の認識や協調運動に影響を及ぼしています。

しかし、マリファナは、この内在性カンナビノイドシステムを過剰に反応させ、いわゆる「ハイ」の状態を引き起こします。そして認識能力の低下や気分の変化、協調性の欠如、思考の鈍化や問題解決意欲の低下、学習や記憶に対する障害といった影響を及ぼすのです。また、発育途上の若者がマリファナを使用すると、脳の発達に影響します。しかも、思考および記憶に対して長時間、あるいは永続的に影響を及ぼします。加えて、タバコのような肺がんに対する明確な影響はまだ不明ですが、マリファナは心肺にも作用することが明らかになっています。

このように、マリファナにリスクが存在することは科学的にも明確です。しかし、そのリスクの程度がアルコールやタバコよりも少ない可能性がひときわクローズアップされるようになってきた、というのが実情なのです。
◆すでに医療用で一部承認

一方、医療用という面で見ると、マリファナに含まれるTHCという成分を合成して作った『ドロナビノール(Dronabinol)』という薬は、がんやAIDS(エイズ)などによる痛みや吐き気、食欲不振の治療薬として、すでに『米食品医薬品局(FDA)』に承認されています。この他にも、科学者たちはマリファナに含まれる他の化学物質の薬効成分について、様々な研究を続けています。たとえば、『カンナビジオール(cannabidiol)』という成分には、THCのような認識能力の低下や気分の変化などの中枢神経や精神機能に作用がないとされ、逆に不安神経症の緩和や小児のてんかんを抑制するなどの効果が研究されています。

しかし、確かにマリファナに含まれる成分が医療用として極めて有効であることは科学的にも証明されてはいますが、そうした健康上の利点がリスクを上回っているのかは、現時点では臨床研究によって証明されてはいないのです。FDAは、マリファナそのものを医薬品として承認するためには、さらなる臨床研究に基づいた科学的根拠が必要であるとしています。ただし、FDAは医療用としてのマリファナの有効性の見込みには理解を示しており、研究の支援も行っています。

【http://www.fda.gov/NewsEvents/PublicHealthFocus/ucm421163.htm】

ほんの数年前までは、米国内においてマリファナを用いた研究自体が禁じられていました。それが現在では、米政府が支援する研究費で多くの研究が進められています。今後さらに、医療用マリファナの有効性やリスクが明らかになるでしょう。

まさにそんな最中、マリファナの品質に関する重大な問題が発覚したのです。
◆「汚染」と「成分含有量」の問題

冒頭で触れた通り、コロラド州ではすでに娯楽用のマリファナも合法化され、昨年からは全米で初めてマリファナの販売も解禁されました。

そのコロラド州の規制当局は、米国のオンラインニュース『International Business Times(IBTimes)』によると、現在でも医療用マリファナの有効性について調査を続けていますが、その過程で、マリファナに含まれる不純物の問題が明らかになったのです。

今年3月22日から26日の5日間にわたって同州デンバーで開催された『アメリカ化学会(American Chemical Society:ACS)』において、同州で販売されているマリファナの汚染やマリファナに含まれる成分の問題が報告されました。

それによると、研究者らは同州の数十の生産者から何百もの株のマリファナの調査をしました。そして、多くのマリファナのサンプルで、農薬や重金属、カビなどによる汚染を発見したのです。原因は、土壌からの吸収と考えられています。

さらに調査によると、今日流通しているマリファナは、30年前のマリファナに比べて、中枢神経系に作用するTHCなどの成分が2、3倍多く含まれていることも分かりました。逆に、前述したカンナビジオールという抗精神作用などがある有効成分が、ほとんど含まれていないことも分かったのです。

一方、コロラド州と同じ年に娯楽用マリファナが合法化されたワシントン州では、マリファナ中に大腸菌やサルモネラ菌、および酵母やカビなどが含まれていないか、早々に分析を開始しています。実際、すでに昨年の安全性試験の結果13%の製品の販売が拒否されており、事態は深刻です。

【http://www.smithsonianmag.com/science-nature/modern-marijuana-more-potent-often-laced-heavy-metals-and-fungus-180954696/?no-ist】

マリファナは何百もの化学物質を含み、しかも1株ごとに成分の含有量が異なるため、その効果も異なります。従って、測定可能な一定の成分を調査することが困難です。さらに、一般的にマリファナは喫煙を介して体内で吸収されますので、通常の医薬品に比べて、体内での薬物動態の効果についての評価も極めて難しいのです。

つまり、研究そのものは非常に活発に行われてはいるのですが、マリファナの健康に対するリスクや医療面での効果、あるいは不純物の検査など、安全で有効であるとの科学的検証はまだまだ不十分であるというのが実態なのです。

このような問題があるにもかかわらず、マリファナ合法化の動きは止まらないどころかますます加速しています。多くの米国人は、マリファナに関する問題は食品の汚染問題と似ていて、改善は必要だけれども、禁止するほどの理由ではないと感じているのでしょう。
◆問われる大統領選候補者の見識
多くの州における住民投票は、大統領選挙のときに同時に行われます。たとえば、2012年の大統領選挙の際、マサチューセッツ州の投票用紙には3つの質問がありました。その中の3番目の質問が、「医療用のマリファナ合法化の賛否」でした。投票の結果、賛成63%、反対37%となり、合法化が決定されました。現在、マサチューセッツ州の住民の一部は、来年の大統領選にむけて、「娯楽用マリファナの合法化賛成」の署名活動を始めています。米誌『タイム』によれば、2020年までに18州で「娯楽用マリファナの合法化」が認められるだろうと予想されています。

【http://time.com/3682969/pot-legalization-2020/】

マリファナ合法化に賛成か反対かに国民の関心がこれほど高まれば、メディアもこの問題の議論を避けて通ることはできません。当然、大統領候補者にも意見を求めます。

実際、ニューヨーク・タイムズ紙によると、共和党の有力候補者だと見られているテキサス州選出のテッド・クルーズ上院議員は、州に独自のマリファナ規制を委ねているオバマ政権を批判し、この議論はオバマ大統領が決めるのではなく、連邦議会で決定するべきだと主張しています。また、クルーズ氏は、自分自身について、10代のときにマリファナを使用したことがあるがそれは若さ故の過ちであり、以降マリファナは使用していないと発言しています。

また、同じく共和党の有力候補だと見られているフロリダ州のジェブ・ブッシュ元知事は、メディアに質問されてこんなふうに答えています。「(合法化の可否は)コロラド州のように、州ごとに決めればいい。私自身は、高校時代にアルコールもマリファナも経験している」。

【http://takingnote.blogs.nytimes.com/2015/02/27/ted-cruz-and-jeb-bush-on-pot/?_r=0】

マリファナを合法とする州、しない州のどちらにとっても、この問題は2016年の大統領選において、ひょっとすると大統領を選ぶことよりも重大な意味を持つことになり、大きな議論を呼ぶのではないでしょうか。
【略歴】おおにし むつこ
内科医師、米国ボストン在住、医学博士。1970年、愛知県生まれ。東京女子医科大学卒業後、同血液内科入局。国立がんセンター、東京大学医学部附属病院血液・腫瘍内科にて造血幹細胞移植の臨床研究に従事。2007年4月からボストンのダナ・ファーバー癌研究所に留学し、2008年4月からハーバード大学にて食事や遺伝子と病気に関する基礎研究に従事。

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