最新記事一覧

Vol.083 有名なお医者様は財布を5つ持っている

医療ガバナンス学会 (2015年4月28日 06:00)


■ 関連タグ

※このコラムはグローバルメディア日本ビジネスプレス(JBpress)に掲載されたものを転載したものです。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/43425

関家 一樹

2015年4月28日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

4月1日付けの朝日新聞1面3面社会面において大々的に、製薬会社から医師への資金流入状況の集計結果が報道された。

中には製薬会社からの「副」収入が3000万円を超えるツワモノもおり、日夜勤務にバイトと奔走している先生方からすれば、エイプリルフールのジョークと思いたいような記事である。

そもそも今回のような製薬会社から医師への資金流入が公開されるようになったのは、バルサルタン事件やSIGN研究事件などの、一連の製薬会社の臨床研究への不正関与という不祥事を受けて、製薬会社が2013年度からの寄附金情報を公開し始めたからだ。

私自身も製薬会社の公開情報の解析を行ってきたので、朝日新聞の記事から一歩踏み込んで、製薬会社から有名医師教授にどのように金が流れ込んでいるかについて、この場を借りて少し書かせていただくことにする。

1.講師謝金・原稿執筆料

いわゆる製薬会社から、医師に直接支払われるお金である。
講師謝金は極めて階級化されており、有名どころの教授だと1回の講師謝金が「15万~20万円」、准教授だと「10万円」、講師で「5万円」、といった相場になっている。
中には年に100回以上、講演を行ったことになっている先生もいらっしゃるようで、いったい医師としてどのような日常生活を営まれているのか興味が尽きないところだ。

原稿執筆料については実態がピンキリで、ある程度文章を書かされたうえに監修までやらされて数万円しかもらえていないケースもあれば、実質的には名義だけ貸していて中の文章は製薬会社が用意しているような状況でありながら10万円以上受け取っているケースも見受けられる。
これらのお金はいずれも医師が直接受け取る性質のものであることから、製薬協の規定で接待が禁じられている昨今において、医師への実質的な実弾攻撃の役割を担っている。

2.役職就任

いわゆる製薬会社が個別の薬に対して用意している「~適正使用委員会」への役職就任である。実際どれほど活動しているのかは、委員会によってまちまちであろうが、中には当該薬のパンフレットに登場しているだけのような委員会も見受けられる。
そもそも講師謝金や後述の奨学寄附金を受け取っている医師が、委員に就任したところで第三者的な監督は経験則的に期待できないので、実態は宣伝に利用されているといって差し支えないのではないだろうか。
委員としての報酬はまちまちであろうが、このお金も製薬会社から医師に対して直接に流れ込む資金である。

3.奨学寄附金

国立大学などでは以前から公開されていたが、製薬会社の側から公開されることで、ブロックバスターと呼ばれる巨額販売薬に関わる学科に対して、製薬会社が広範に現金を撒いている現状が明らかになった。
むろん研究を進めるためには資金が必要であり、潤沢な資金が集まることで良い研究が行えることについては私も全く異論がない。しかし以下のような弊害が実際に引き起こされていることについては、重々承知しておく必要がある。

まず支配構造的な問題として、現金を集める人の発言権が強くなる。
これは通常の企業であれば極めて正常な作用なのだが、研究対象薬について科学的な結論が求められ、一定程度の公的責務を負っている臨床研究の世界において、製薬会社から現金を引っ張ってくることのできる人が偉くなってしまうという状況は、構造的不健全と言えよう。
また教授をトップとする学科においては、准教授や研究グループへの資金の配分を中心とした差配による支配構造の作出や、教授の交代時におけるいわゆる「カバン」の引継ぎ、のような伝統を引き起こす。
このようなアカデミズムの構造の中でキャリアを積んでいると、利益相反に対する感覚が極めて鈍磨する。

次にSIGN研究の調査報告書でノバルティス社が自ら述べていたことであるが、「奨学寄附金」は紐付けされない自由な資金という建前で流れ込んでくるが、実態は特定薬の宣伝を目的とした研究を行うために渡されており、「営業ツール」として利用されているのが内情であったようだ。
つまり大学というブランドネームを利用した名義貸しによる販促活動に協力することで得ている資金と言うことができる。

この点について一部の医師や教授にあっては「ライバル薬の研究はいくらでやった」などと製薬会社のMR(医療情報担当者)に自ら伝えることで、奨学寄附金を入れさせるという敏腕営業マンのような有様が判明している。
こうした奨学寄附金を前提とした研究計画や教室運営が、臨床研究の客観性に対して歪をもたらすことは言うまでもない。

4.学会寄付金

有名医師教授は当然、医学系有名学会の重鎮である。本来学会というものは勝手に作られるべきもので、自分たちで学術を高める目的を持って活動していけばよいのであるから、別にそこに資金が流れ込んだとしても特段問題は生じないはずである。
しかし医学系学会の場合は専門医認定などと絡んで、半ば公的な性質を持つに至っている。公的な性質を持つのであれば、公的な責任感も併せて持たなければならないのだろうが実体はどうだろうか?

イベントごとに行われているランチョンセミナーや、様々な製薬会社の便宜について、現在は各製薬会社のホームページで公開されているので、一度はご自身の所属する学会への製薬会社の関与状況についてご確認いただきたいと思う。
タダ飯については馬鹿らしいので、ここではこれ以上言及しないことにする。

この学会においても、結局製薬会社と関わり深い人が重鎮になるという状況が続いている。学会への資金誘導とその資金の差配権を持つ人が偉くなっていくのは当然と言えるが、国が様々な役割を与えようとしている組織としては健全といえるだろうか?
また某有名医学会の現会長は就任前の年に突如、製薬会社からの奨学寄附金が2倍近くに増えている、思わず邪推したくなる出来事と言えよう。

5.研究団体(NPOなど)への寄付金

最近新たに注目されるのがこの項目である。

臨床研究に関わられたことがある方ならば、臨床研究を支援する「研究団体」が資金を拠出したり事務局機能を担っていたりしていることを経験されたかもしれない。この研究団体は任意団体の場合もあればNPOや一般社団法人となっている場合もあり、法人としての実態は様々である。
こうした研究団体はいわゆる「医局」を法人化したものである場合もあるし、医師教授が製薬会社から直接資金を受け取るのを避ける目的で、資金の受け口として製薬会社別に用意する場合もある。
いずれにしても地域の臨床研究における有名な医師や教授が、実質的に支配しているこれらの団体が臨床研究に関わることによって、製薬会社と関係の深い医師教授の支配力がさらに強固なものになっている。

また一部の団体においては、資金を右から左に動かしただけなのに事務手数料として一回につき100万円単位で現金を受け取っている事例も存在する。それらの金がどこに消えているのかも、今後は監視していかなければならないだろう。
以上のように5つの財布という視点で、有名医師教授への製薬会社からの資金の流れを概観してきた。

つまり製薬会社から「直接」有名医師教授に支払われている金額は、実際に提供されている資金のごく一部で、様々な団体を利用することでそうした製薬会社との関わりの深い有名医師教授が強固な支配体制を築いている実態がある。

最後に申し述べておきたいが、「資金を集めていること」と「研究内容の善し悪し」は別問題である。私は金を稼ぐこと自体が悪いことだとは思わないし(公務員の場合は別の違法が生じる恐れはあるが)、金を稼ぐことが人間性を否定するとも思わない。
ただ、「1つの事実」として、製薬会社からの資金流入については、臨床研究や学会の信用性判断の根拠とする必要がある。
研究はできるだけ自由に行われるべきであり、現在厚労省が進めているような事前法規制の強化は望ましくない。「研究において大切なのは信用性である」という原則に今一度立ち返ることで、自主的に良い研究が注目されるようになることに期待したい。

関家 一樹:1986年東京生まれ。2009年3月法政大学法学部卒業。現在は企業で法務担当

お知らせ

 配信をご希望の方はこちらにメールをお願いします。

 MRICでは配信するメールマガジンへの医療に関わる記事の投稿を歓迎しております。
 投稿をご検討の方は「お問い合わせ」よりご連絡をお願いします。

関連タグ

月別アーカイブ

▲ページトップへ