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Vol.084 灘校での退任あいさつ

医療ガバナンス学会 (2015年4月30日 06:00)


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※この文章は『福島民報』2015年3月27日「民報サロン」欄に掲載された寄稿エッセイを、許可を得て転載したものです。

一般社団法人ふくしま学びのネットワーク事務局長
前川直哉

2015年4月30日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


「皆さんはあさって、卒業していきますが、実は僕もこの三月をもって、灘校を退職します」――。

母校でもあり、十年間勤めた神戸市の灘中・高(灘校)を辞め福島に転居することを、入学から卒業まで担任した最愛の教え子たちに伝えたのは、昨年二月。彼らの卒業式の直前でした。退任のあいさつでは、私が高校三年生の時に経験した阪神大震災のこと、当時の先生方と現在の福島の先生方の姿が重なり、こういうときのために教員になったのだという思いから福島での活動を決めたことなどを話し、最後に生徒たちに二つのお願いをしました。

一つは、大学生になったらぜひ福島に来て、私たちの活動を手伝ってほしいということ。これから作る小さな団体だからアルバイト代は出せないだろう。でもきっと、みんなにとっても素晴らしい体験になるはずだから、休みを利用して福島に来てほしい。そう伝えたところ、この一年間に何十人もの灘校OBが福島に来て、勉強を教えたり、高校生の相談相手になったりと、私たちを大いに助けてくれました。

そしてもう一つの願いは、次のようなものでした。長くなりますが、退任のあいさつをそのまま引用します。

「二つ目のお願いです。皆さんは今、目の前の大学入試に向けて、一生懸命に勉強しています。ぜひ、大学に入ってからも、学び続けてください。努力を続けてください。なぜなら、多くの人を幸せにするためには、それしか方法がないからです。

人は、自分のためだけに努力するのではありません。誰かを助けたい、誰かの役に立ちたい、誰かを幸せにしたい。それは言葉にすると少し恥ずかしいですが、おそらくほとんど全ての人が持っている、人間の基本的な欲求だと思います。十九年前の震災の時も、三年前の震災の時も、たくさんの人が助け合い、必死の思いで誰かのために動きました。人は意外と、それほど利己的にはできていません。誰かを幸せにしたいという思いは、おそらく多くの人が持っていて、だからこそ、人類は発展してきたのだと思います。

大きな事故を起こしたのも人間です。大きな戦争を起こしてしまったのも人間です。ですが、そこから立ち直り、悲嘆にくれた人々を笑顔にするべく、必死の努力をしているのもまた、人間なのです。

口だけの評論家になってはいけません。自分が多くの人に支えられていることに気付かず、偉そうに文句ばかり言う人は、誰からも尊敬されません。自分を支えてくれる人たちに感謝し、今度は自分が支える側に回ろうと、努力し、行動してください。そうすればこの社会に少しずつ、幸せと、笑顔が増えていきます。

それぞれの分野で、学び続け、努力を続け、仲間たちと力を合わせて、少しでも多くの幸せと笑顔を、この社会にもたらしてください。僕たちはそのために、この学校に集まってきたのですから」

彼らはきっと、二つ目の願いも実現してくれる。福島に来る教え子の成長した姿を見るたび、そう確信します。

※「ふくしま学びのネットワーク」は非営利の団体で、活動の趣旨にご賛同いただける皆様からの会費・寄付により運営されています。団体の活動や賛助会員・寄付のお申込方法については、下記の公式サイトをご覧ください。

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