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Vol.089 急増する女医に後手後手に回る日本の医療現場 ~高齢化により医師不足が顕在化するなか、早急な改革が求められる~

医療ガバナンス学会 (2015年5月12日 06:00)


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※このコラムはグローバルメディア日本ビジネスプレス(JBpress)に掲載されたものを転載したものです。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/43461

森田 麻里子

2015年月5日12日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


ウーマノミクスがもてはやされる一方で、女性が働き続けるためにどうすればいいかという議論はなかなか深まらない。託児所はあった方がいいに決まっているし、時短勤務ができたら助かる。そういったことはぜひ進めていくべきだ。
しかし、どんなに女性を雇用して多様性を確保することが大切だと言われても、誰でもできる仕事であれば、長時間働いてくれる人材が重宝されてしまう現実がある。

いまだに男社会の日本で女性が活躍するために重要なのは、時間的制約があったとしても、社会で必要とされるだけの能力を身につけることではないか。どのようにしてそういったスキルを獲得できるかについて、女性医師の視点から考えてみたい。
長時間労働が常態化している医師の世界において、時間的制約を持ちながら働き続けるのは難しい。しかし、医師の仕事内容はどの診療科を専門とするかによって大きく異なる。自分の興味の有無も大切だが、限られた時間でも成果を出しやすい分野を選ぶという考え方もある。

●出産後の復帰を助ける専門性

例えば、内科や外科で入院患者を担当していると、夜間や休日も電話対応や病院への呼び出しがある。
一方、放射線科、病理科、麻酔科、眼科などで入院患者を持たない場合には、日中の業務自体が忙しくても、仕事が終われば当直の日以外には呼び出しがないことが多い。当然、後者の方が時間的制約があっても他の人と同等に働ける可能性が高い。
加えて、限られた分野であってもよいので、早いうちに専門技術を身につけることが重要だ。医師は、医学部を卒業して初期研修を修了する時点で最短でも27歳になってしまう。

出産や育児を考えるなら、年齢というタイムリミットがある。産休や育休を取得するまでの間に、専門家として活躍できるような分野を作っておけば、仕事復帰もしやすいだろう。幅広い分野の病気を診断し、適切な専門医に紹介するための最低限の知識を研修医時代に身につけてしまえば、その後は自分の専門分野において知識や技術を磨いていくことが最優先だ。

このことは、臨床業務に限らない。国際保健に興味があって途上国の状況に詳しいのでもいいし、研究を行って論文を発表するとか、研修医教育の高いスキルがあるということでもよいかもしれない。自分の売りは何かということを意識しておく必要がある。どのように働くかということに正解はなく、人それぞれの答えがあっていい。その中で私自身は上記のように考え、麻酔科医として専門病院で研修を積んでいる。

しかし現在の医療界はますます女性医師が働きづらくなってきており、不安を感じている。2017年度から新しい専門医制度が始まるが、内科では新たに内科専門医という資格が設けられる。医学部を卒業して2年間の初期研修を修了後、さらに内科全般を3年間研修することになる。

●新専門医制度に落とし穴あり

内科全般の知識と技術を身につける、という理念は聞こえはいいが、実際にそれが可能であるかは疑問だ。1人が維持できる知識や技術には限界があり、日進月歩の医学においては最新の情報に更新していくことも求められるため、範囲を広げれば広げるほどどうしても一つひとつは浅くなってしまう。地域のかかりつけ医として幅広い分野の知識を維持する必要がある場合には内科全般を広く学ぶ研修は有効と考えられるが、最終的に循環器内科や血液内科といった専門家になるのであれば、結局幅広い知識や技術を維持・更新し続けることはできない。

それならば、専門家を目指す医師は早いうちから専門のトレーニングを積むのが合理的であるし、女性医師にとってはなおさらだ。少しでも早く一人前になりたいと努力していても、そういった”正しい理念”の押しつけの結果、高齢出産を覚悟でキャリアを積むか、キャリアを諦めて出産育児を優先するかの二択になってしまうのだ。

近年、女性医師の割合は急激に増加している。2012年のデータでは、50代の医師では12.7%が女性だが、30歳未満では35.5%が女性となっており、将来の日本の医療を支えるために女性医師の活躍は不可欠である。産休・育休制度や当直免除制度などの整備にとどまらず、本当の意味で女性医師が活躍するにはどうしたらよいか、真剣に考えるべきである。

 

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